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少女、亡命

「…………腰が痛い」


「そのような事を言っている場合ではありませ んよ」


翌日、腰を摩りながら執務室でボスが唸ってい ると、カミエルが緊急と書かれた書類をボスに 手渡した。目を通してみると、そこには眉間に

しわを寄せざるを得ない内容が書かれていた。


「………逃亡奴隷?」


「ええ、どうやら我が領内の都市に逃げ込んて いる近隣領の奴隷がいるようです」


「奴隷ってことはエルフ族だよな?」


「はい、領主様はエルフ族に市民権を与えてい るので、それを狙って此処に逃亡奴隷が集まる のかと」


そうか、とボスはこめかみを抑えながら呟いた 、これは早急に解決しなければ近隣領主達との 関係を悪くする可能性がある、まああまり顔合

わせをした事はないのだが。


「それと、逃亡奴隷に対する対策会議をしよう と周辺領主の方々が申しておりますが、いかが いたしましょう?」


「是非参加させてくれ、会場はこの屋敷を使い たい、日時は各自の都合のいいように、と伝え てくれ、あと今から警備隊の増強と戸籍の確認 するように」


さてと、とボスは立ち上がり、クローゼットか ら毛皮のコートを取り出すと、書類、ペン、イ ンク、その他諸々を鞄に入れ外出の準備をしだ した。


「どちらまで行くんですか?」


カミエルの問いに、ボスはああ、と軽く答えて 振り向くと、「エルフの里にだ」と一言ってド アノブに手をかけた。


―――――――――――――――――――


「うー、酒はやっぱり美味いなー」


以前立ち寄ったエルフの経営している居酒屋で 、一人カウンターにて酒瓶片手にマリーが顔を 真っ赤にしながらザルのように酒を喉に流し込

む、その様子に、給仕が心配そうに肩を揺する 。


「ちょっとお客さん、飲み過ぎですよ、体を壊 しちゃいますよ?」


「うるさい、お金は払うんだからいいじゃん」


「それでもし死んだらこちらが迷惑するんです よ、全くもう」


呆れた様子で給仕がため息をつくと、カランカ ランとドアについたベルが鳴った、給仕は新た な来客に対応しようと、マリーから離れ慌てて 接客をした。


「いらっしゃいませ!」


ペコリ、と頭を下げるも相手から何の反応もな し、何事かと思いゆっくりと顔を上げると、厳 つい顔つきの警備兵が3人、何も言わずただず

っと給仕の顔を見ているのである。


「……………あ、あの、何か…?」


「…………この貼り紙をこの店に貼り付けてくれ 」


動揺している給仕にぶっきらぼうに警備兵が貼 り紙を手渡した、給仕は受け取り見てみると、 お尋ね者と書かれた文とエルフの似顔絵が書か れていた。


「そこに書かれているエルフを見つけたらすぐ に我々に連絡するように、ではな」


それだけ言うと、警備兵達は踵を返して店を出 ていった、給仕はふう、と安堵のため息をつき 、肩の力を抜いた、そしてまじまじと貼り紙を

見ながら店の一番目立つところに張り付けた。


「………なんだ、それ」


酒瓶を持ったままマリーは貼り紙を見つめ、給 仕に尋ねた。


「見たまんま、お尋ね者の貼り紙ですよ、大方 逃亡奴隷とかなんじゃないですか?」


「………エルフ族には市民権が与えられているん じゃないのか?」


「それはルセイン領だけです、他の領主様が統 治している領のエルフ族は認められていません 」


「………なら、ルセインに頼み込んでここの市民 権とやらを貰えばいいんじゃないのか?」


「………それは出来ないと思いますよ、奴隷は個 人の所有物、それを勝手に市民権を与えて引き 入れたらやってることは盗人ですからね、近隣

領主と嫌悪になっちゃいますよ」


給仕の話に、マリーはむう、と納得のいかない 表情である、マリーはあまり政は良く分からな いが、少なくとも自分達の同胞が虐げられてい

ることは重々にわかる、ならばここは一つ自分 の手で救ってみようではないか。


「………まさか、助けようなんて考えてませんよ ね?」


給仕の言葉にぎくり、と素直に反応してしまっ たマリーは、慌てて誤魔化そうとするが、それ が返って余計怪しさを臭わせる。


「い、いや、そんなことは別に………」


「……気持ちは解りますが、逃亡奴隷を下手に庇 うと、処罰されますよ」


「だ、だけど…」


「いいですか、我々は運良くエルフ族に理解の ある領主様だったからこうして自由に生活でき るんです、もし我々が逃亡奴隷を匿って領主様

の顔に泥を塗るようなことになってみなさい、 最悪貴女が処罰されるだけでなく、領主様はエ ルフ族から市民権を剥奪するかもしれません」


給仕に諭されるように話され、何も言い返せな いマリーだが、ボソッと一言だけ、呟いた。


「………ルセインはそんなちっちゃい男じゃない ぞ」


「何か言いましたか?」


「いや、何も……お勘定」


マリーは給仕に代金を手渡し、釈然としないま ま店を出た。あの給仕の言いたいことは解るが 、やはりマリーには納得のできずにいた。


「……ここは、アーシャ女王様に相談してみよう かな、いやでも………」


ドン!


考え事していたら人にぶつかってしまったらし い、やってしまったと思い慌てて手を差し出す 。


「す、すまん、大丈夫か?」


「………はい」


ぶつけてしまった人は、マリーの手を掴んで立 ち上がった。見た所旅の人なのか、薄汚れたロ ープに身を包み、頭にフードを被って顔が良く 見えない。


「あ、あの、エルフの里に行きたいんですけど 、道がわかんなくて………」


妙にオドオドした様子で尋ねてくる旅人に、マ リーは心底警戒しつつも、旅人に返答する。


「………エルフの里には、エルフ以外自由に行き 来できないぞ、人間の旅人さん」


「そ、その私、実は……」


と、言いかけた所で後ろから「おい」と声をか けられた、旅人は一瞬肩を震わせ、恐る恐る後 ろを振り向くと、警備兵が仏頂面で旅人を睨み つけていた。


「貴様、旅人か? 顔を見せてみろ」


「え、えっと………」


「グズグズするな」


警備兵に強要され、旅人は恐る恐るフードを取 る、美しいブロンドの長髪、澄んだ瞳にあどけ ない顔立ち………そして、エルフ族特有の長い耳 。


「………貴様逃亡奴隷だな! 連行する!!」


警備兵は旅人の手首を掴み、乱暴に引っ張って 連れていこうとするも、これを旅人は手一杯に 抵抗する。


「やっやだ! 離して」


「おのれ、大人しくしないか!」


「…………待て」


警備兵の手を掴みマリーは警備兵を睨みつける 、対する警備兵は怯むことなくマリーの手を解 き、荒い声でマリーに忠告する。


「………見たところルセイン領のエルフ族の様だ な、逃亡奴隷を庇うのか? 貴様もしょっぴくぞ ?」


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