少女、報酬と仕事
「さあて、何してくれるのかしら?」
ベッドの上に座り、足を組んでボスに期待と欲望が滲みでている笑みをこぼした、さっきまでの聖母オーラは嘘のように消え去り、今は聖母というより意地汚い淫魔のようである。
「あそこまで丸くおさめたのって自分でもびっくりするぐらいの出来栄えよ、キスの一つ二つじゃ済まないわ」
デュランダルはフンス、と誇らしげに語りこの先どんな事をボスがするのか、かなり楽しみにしているようだ、ボスはそんなデュランダルの姿を見て、あんなこと言わなきゃ良かった………と後悔するも、言ってしまった物はしょうがない、覚悟を決めて、推して参るのみ。
「ああ………まあ、お前が満足するかわからんがな……」
そう言うとボスはデュランダルに近づき、デュランダルと目と目を合わせてじっと見つめる、互いの息が顔にかかってこそばゆい、そんな状態を10分続けると、デュランダルは「うう」と軽く呻くと顔を薄く朱に染め、目を逸らす。
「な、なんで黙って見てるの? 恥ずかしiッアン!」
目を逸らしたその瞬間、ボスは野獣が獲物を仕留める様に素早くデュランダルの首にキスをした、急なキスに油断していたデュランダルは、普段なら絶対考えられない声で喘いだ。
「い、いきなりそんなの卑怯よ!もっと優しく……ん!」
デュランダルの抗議に一切耳を貸すことなく、ボスはデュランダルの喉仏を円を描くように舐め回す。舌で喉仏に圧力をかけ、少し息苦しいのとこそばゆいのを感じながらデュランダルは、そっとボスの背中に腕を通す。
グイ!
「……………うお!」
突如としてボスがベッドになぎ倒され、ボスの上にデュランダルが乗っかり、マウントポジションを取られた。
「……調子に乗りすぎよ」
むすっとした顔で、デュランダルが不機嫌そうに話す、デュランダルの扱いはマリーの様に単純ではないようだ、あまり激しいのが好きではないとすると、もっと焦らずゆったりやるべきだったか、と軽くボスに後悔が残る。
「すまん、あまりこういうのは好きじゃなかったか?」
「求められるのは、その、嬉しいけど、あまり激しいのは…………嫌」
媚薬盛った奴の言う事か、とボスは思わずツッコミたくなってしまった、いつも大人びた雰囲気を出しているデュランダルなら、かなりの場数を踏み込んでいるのでは、と思っていたが、それはどうやら思い違いだったようだ。
「あー、なんだ、案外初心なんだな」
「な、なによ!悪いわけ!?」
「いやいや、悪いなんて言ってないさ、ただ、経験豊富なのかなってさ」
「…………そんな尻軽じゃないわよ」
ふい、とそっぽをむき、頬を膨らませてデュランダルは拗ねてしまった、別に経験豊富=尻軽と言う意味で言った訳ではないのだが、乙女心もといデュランダルの心は難しいものである。
「悪い悪い、じゃあ優しくやればいいんだな?」
ボスの問に、デュランダルはそっぽを向いたまま、コクンと小さく頷いた。やれやれと苦笑いをこぼしながらも、ボスはデュランダルの腰に手を掛けて上体を起こし、いわゆる体面座位の体勢で、再びデュランダルの顔と目と鼻の先になった。
「デュランダル、こっちを向いてくれ」
ずっと拗ねたままなのか、デュランダルは素直にボスの方を見ようとはせず、チラッチラッと何度か確認するようにボスと目を合わせ、エルフの里の時同様、む~と唸ってボスと顔を合わせた、しかめっ面ではあるが、何処か色っぽく出来上がっているデュランダルを見て、ボスは舌を突き出した。
「でぃーふひふをひはほほわ?(ディープキスをしたことは?)」
「………あるわよ」
「なは、まかへは(なら、任せた)」
ボスの言葉に、デュランダルはふう、とため息をつくと、チュルチュルとどんどん口の奥にボスの舌を入れ、お互いの唇が塞がった。
デュランダルは蛇のように舌をうねうねと這わせ、ボスの舌と絡み合っていく。初めはしかめっ面だったが、今は頬を上気させ、目を潤ませながらボスを一方的に貪っていくその様は、盛ざかりな淑女そのものである。
「んっ………れる……じゅる………ずる……あっ………んんっ…」
「で、でゅはんたる、ほろほろくるひい」
デュランダルの肩を叩きながらボスが抗議すると、少し物寂しげに唇を離した。
「はあ………はあ………はあ………イ〇ポじゃないようね……」
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「………領主様、エキサイトしてますなぁ………」
ボスに命名され、軍人から補佐官に昇格したカミエル・ガナートは今、目の下に濃いクマを作ってボスの代わりに執務に着いていた、喜ばしい都市の発展は、こうやって役人の仕事を効率よくブラックにするのである。
「しかし都市の規模がでかくなると問題も多くなるし、警備隊増強のことを領主様に相談しないと…………」
はぁ、とため息をつくと扉をこんこんと叩く音が聞こえ、女中が新しい書類を持って部屋に入る、カミエルは片付けても片付けても終わらない書類に苛立ちを覚え、ついつい女中を恨めしそうに見てしまう。
「………私を睨んだって終わりませんよ」
女中が冷静に言うと、本当にその通りだと思いつつもイライラする、もう書類を持ってくる女中にイライラする、八つ当たりだとはわかっている、だが辞められない止まらない。
「………ふん!」
いつまでも睨んでくるカミエルにいい加減腹が立ったのか、持っていた書類をカミエルの頭に向かって思い切り叩きつけた、スパン!といい音がなり、思わずカミエルは後頭部を抑える。
「いった! ちょっと何すんの!?」
「何時までも睨むからです、私だって傷付くんですよ」
む、といってカミエルは後頭部を摩りながらバツの悪そうな顔をする、鉄火面だからってちょっと調子に乗りすぎたな、と軽く反省し、謝罪を述べた。
「すまん、最近寝てなくてカリカリしてるんだ」
「いえ、私も頭を殴ってしまいすみませんでした」
お互いに頭を下げ、カミエルが女中から書類を受け取り、その字面に目を見張る、するとカミエルの眉間にシワがよっていった。
「…………これは大変だ」




