少女、地に座る
空は月明かりに照らされ、梟の鳴き声や庭園に作られた小川のせせらぎの響きに耳を傾けながら、ボスは1人バルコニーの手すりに寄りかかりながら、紫煙を吐き出す、部屋で魔女が言った言葉が、今のボスには衝撃すぎてとても受け止められなかった、とは行かないまでも、一体この世界には何があったのかは知りたいところである。
まず不思議に思うのは、なぜここまで文明が後退しているのか、である。ボスのいた時代のものは何一つないばかりか、退化している部分も見える。例えば馬車だ、ボスのいた時代には車があったはずにも関わらず、なぜか馬車まで退化しているのだ。何千年も経てば確かに化石燃料などのエネルギー資源は無くなっているのかもしれない、だが、強引な話にはなるがブラジルのようにバイオ燃料でも使えばいいのだ、それで少なくとも馬車まで退化する事はないはずだ。
それともう一つは、魔法の存在、魔法はボスが何度首を捻ろうが逆立ちしようが決して理解することのできない超常現象だ、なぜ手から火を出せるのか、デュランダルとは生物として見ていいのか、まさに得体のしれないパンドラの箱であるその魔法は、科学では証明できないというネックを持った曲者であり、科学では証明できない物がボスにわかるわけもないのであった。
「………うわっち!!」
いつの間にか、口にくわえていタバコのフィルターの部分にまで火が届き、危うく唇に火傷を負うところであった、ボスは反射的にタバコを吐き捨て、難を逃れる事が出来た。
「ぺっぺっ…………ああ、危なかったぜ」
ひゅう、と風が吹き、ボスの頬を優しく撫でた、ふと空を見れば、そこには秋の四辺形、ペガスス座が見えるではないか、星の位置とはどれだけ時間がたっても変わらないようで、ペガスス座はボスが確かに存在していた証拠のような気がして、ボスの感じている不安を消しさるように輝き照っていた。
「………綺麗だ」
「え、私?」
ん? このノスタルジックな気分を邪魔したのはだれか、と隣に視線を向けると、そこには運んだ時からずっと寝ていたはずのマリーが、顔を赤くして膠着していた。
「こ、こんな野外で大胆な……そのええと………あ、ありがと………」
「お前にじゃねえよ、星にだよ」
そういってくい、くい、と顎を空に向けて、ボスは意思表示をすると、ああ、といってマリーも空を見上げる、街灯がない故に空は正に宝石箱をひっくり返したような、幻想的な光景に圧巻の一言である、マリーの一言がなければ。
「こんなん毎日見ることができるぞ、そんな珍しいものか?」
「………お前はサルにもわかる芸術でも読んでろ」
それだけ言うと、ボスは気分が悪いと言わんばかりにどかどか足音を立ててバルコニーを後にした、ポツンと残されたマリーは、ため息をついてまた空を仰ぐ。
「星よりも、私を見て欲しいなぁ……はは」
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「あら、珍しいじゃない、貴方が私の部屋に来るなんて、夜這い?」
デュランダルがふふふ、と相変わらず余裕綽々な笑みを浮かべてボスをからかう、寝巻き姿でベッドに腰掛けている所から察するに、そろそろ就寝しようとしていたのだろう。
「夜這いなんてめんどくさいことはしない、するなら娼婦と寝ているよ」
ボスも対抗してデュランダルに返すと、デュランダルは思いの外に、残念そうな、悲しそうな表情で、そう………、と一言だけ言った、少しの罪悪感がボスに残る。
「そ、そんなことよりだな、少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
ボスがそう言うと、デュランダルは少し待ってと言って立ち上がり、ワインセラーからワインボトルを一本取り出し、二つのグラスに注ぎ込んだ。
「貴方、ワインには詳しいかしら?」
「いや、あまり飲まないな、苦手なんだよワインは」
まるで燃える炎のように真っ赤なワインは、芳醇な香りをグラスから漂わせ、見る物すべてを虜にする勢いだ、デュランダルはボスに一つグラスを押し付けるように渡して、自身もグラスを取る。
「エールみたいにグビグビ飲んじゃうから不味く感じちゃうんじゃないの? ゆっくり飲まないと」
そう言うと、デュランダルはテイスティングをして、グラスに口をつけてゆっくりと口にワインを注いでいった、ボスも真似してゆっくりと、ゆっくりとワインを味わう。
「……んぐ!? おい、これ……」
急いでワインを吐き出したボスが、血相をかいてデュランダルに問いただそうとする、するどデュランダルはニヤリ、と悪そうな笑い方をした。
「あらあら、気づいちゃった? そうよ媚薬よ? でも悪いのは貴方なんだからね」
じり、じり、とゆっくり近づいてくるデュランダルに、ボスは両手を突き出して交渉を促した。
「ま、まあ待てよ、残念だが俺は飲んでないから媚薬効果はないに等しい、悪いが俺は今やる気がないんだ、疲れている俺の息子を立てるのは至難の業だぞ?」
「大丈夫よぉ、貴方が寝ている時にいっぱい練習したから、先っちょの所が一番弱いのよね? いっぱい口の中に出すから匂い隠すの大変なのよ?」
「お、おまそんなことまで……いや待て、こんなのがマリーにバレたらお前もただじゃすまんぞ?」
「マリー? ああ、あのメスエルフね、大丈夫よ、子供作れば諦めるわよ」
「いやいや待て、俺実はインポなn「そんな嘘通じないわよ」」
遂には背中には壁が張り付き、ボスには退路が無くなってしまった、ジリジリと徐々に近づいてくるデュランダル、どうする?
ここは暴力に走ってでもこの場からの離脱を………!
「そこまでだ!」




