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少女、発展

帰りの馬車、今まで居なかった錬金術師ことアリサ・クリスタリアを新たに迎え、後は憂いもなく自分の統治する領土に戻れると確信していたボスであったが、どうもそういう訳には行かないようだ。


「マリー、いつまで着いてくるつもりだ?」


横目で隣に座るマリーを見ながらボスが言う、これから向かうは領主の館、ならば言葉は悪いがマリーが行くには全く関係のない政治と執務の場である、ボスとしてはここらでサヨナラしたいわけなのだが……。


「? なにか問題でもあるのか?」


小首を傾げて尋ねるマリーに、ボスはため息しかでない、もしこのままマリーを館に入れたらめんどくさいことになるのは明白、パパラッチがこの世界にいたとしたらスキャンダルは間違いない、全く世の領主はどういう生活しているのか気になる所である。


「………おお、街が見えてきたぞ」


気を紛らせようとボスは外の景色に目を向けた、街はボスの公衆便所の設置で綺麗になったお陰か、前にもまして行商人の往来が多くなり、以前にまして賑わいを見せ、多くの金が街に落ちるようになった、更にボスがつい数日前にエルフの里でエルフの人権を保護したことにより、エルフ達が街に出て店を出すようになった、エルフ達が売る品々の数々はウィルデット王国にはない珍しい品だったようで、今ではルセイン領の名産品のようになり、それを求めてくる旅人も少なくない、エルフ達によってルセイン領の発展が進むのは間違いないだろう、最初は領民によるエルフに対する偏見が問題になるかとボスは心配していたが、領民は偏見など持たず、杞憂に終わって何よりである。


「ここウィルデット王国ルセイン領はエルフと人間が共存する新しい都市として有名になるだろう、今の内に都市に対する条例を考えなければならんな」


腕を組んでボスは、賑わいを見せている街を見て、この街の経済成長を考え出した、恐らくこの街はそう遠くない未来に都市に変貌するだろう、その時都市独自の様々な組織が設立され、独占市場が作られるかもしれない、だがそれはボスは望まない、なぜなら一つの商人だけか儲かるような市場だと新規の商人が入る隙間がなく、また、価格なども利潤重視の価格設定になり、儲かる豪商が幅を利かせる都市になってしまう、そうなれば領主に楯突き、領主の政治が届かない無法地帯となる、それは避けたい。


「ねえ、酒屋がある! 飲みに行こうよ!」


さっきまで大人しくしていたマリーが、窓の外を指さしはしゃいだ様子でそう言った、だがボスは渋い顔をする。


「嫌だ、真昼間から酒なんて飲みたくない、それにお前とは酒を飲まないことにしている」


「むぅ……さみしいこと言うな、一人で飲んじゃうぞ?」


「止めはしない」


素っ気なくボスが対応すると、マリーはむう、と頬を膨らませ、ボスをジト目で睨む、ボスは気にすることなく涼しい顔で


「不満か?」


「不満だ!」


「我慢しろ」


「やだ!」


はぁぁ、とボスが溜息をつくと、アリサがどうどう、と言って話に入ってきた。


「まぁまぁ、私も研究に詰まったら昼夜問わずお酒飲むし、ここは一杯だけって条件付きで飲もうよ」


アリサの提案に、ボスはまた渋い顔をする、その一杯だけという免罪符は大抵一杯だけで済まないのがセオリーだ、それにボスはこの後執務をしなければならないというのに、酒を飲んでまともな仕事が出来るとは思えない、ボスは仕事をしたがらないが、するなら真面目にする性分である。


「…………よしわかった、ただし条件がある」


ボスがそう言うと、アリサとマリーは声を揃えて、何? と尋ねた。


「俺は水しか飲まん」


――――――――――――――――


カラン、と酒屋のドアに付いたベルが鳴る、真昼間だと言うのに人が賑わい、各々酒を酌み交わし、会話を楽しんでいるようだ、ボスとマリーとアリサは空いている隅っこにある丸テーブルに移動し、席に腰掛ける、さっきまで機嫌の悪かったマリーは、人の作った酒屋が珍しいのか、一人キョロキョロと忙しなく辺りを見渡し、少しワクワクしている、アリサはちょこんと座り、人の多い所が苦手なのか、膠着状態だ。


「ご注文はなんですか〜?」


パタパタと足音を鳴らして給仕が注文を取りに来た、この給仕も見てみればエルフで、どうやらエルフが開いた酒屋らしい、たった数日でルセイン領にどれだけエルフが浸透しているのかが良く分かる。


「おお! 領主様じゃないですか! お仕事はどうしたの?」


「する予定だったが、だだをこねるやつがいてな」


そう言ってボスはマリーに目を向ける、マリーはボスの視線に気付くと、にひひ、と悪戯ぽく笑い返す、給仕がエルフなのに親近感を覚えたのか、少し緊張をといたアリサが一つ給仕に質問した。


「なんで人の街にいるの?」


「んふふ、実は前々から人間の街には興味があったんだ〜、だけど女王様は敵視してたじゃん?

だから今まで諦めてたんだけど、この領主様のお陰で自由に人間の街に出入り出来るから、移り住んだの! あ、所で注文は?」


さっと羊皮紙とペンを取り出した給仕に、各々壁に書いてある品名を見て注文する。


「水」


「蜂蜜酒かな」


「スコッチをたのむ!一升b「一杯で」」


「水? 酒屋で水?」


給仕が不思議そうにボスを眺めると、ボスが少し笑いながら


「酔った勢いで酒税と住民税値上げして欲しいか?」


「いいえ、全然」


そう言うと給仕は羊皮紙をしまい、そそくさと厨房に消えた、しかしエルフ達の生活適応能力には舌を巻く、もう金の使い方まで分かっているとは、いやはやびっくりである。


「しかしルセインが飲まないのはつまんないぞ! 飲もうよ〜」


マリーがボスの肩を揺らしながら抗議する、ボスはゆらゆらと揺れながらただただ仕事がある、と言ってマリーの言葉を聞き流すばかりだ。


「はい、お待たせしました!」


給仕はテーブルの上に並々に注がれたガラスの杯を置き、ペコリとお辞儀をしてまたほかの客の注文を取りに行った。


「さて、一杯だから味わって飲むようn「くはー!」」


なんだかおっさん臭い声を発するマリーに、まさかな、と思い見てみると、スコッチがもう空ではないか、40度はあるにもかかわらず、化物だ。


「………なあ、ルセイン、もういっp「だめだ」」


即答すると、マリーはケチ、と口を尖らせ不貞腐れる、アリサは蜂蜜酒を飲み干すと、少し物足りなそうにガラス杯を見て、ボスに無言の圧力を加える。


「………お酒もっと飲まないと研究できないなー………チラッ」


「わかった、わかったよ、だがここじゃだめだ、おい給仕!」


忙しそうに接客している給仕に大声で呼ぶと、給仕は顔だけ向けてオーダーを取ろうと羊皮紙をだす。


「はい、どうぞ!」


「俺の馬車に詰めるだけの酒を持って来い! 即金だ!」


「そ、即金!? ありがとうございまーす♪」


………とんだ金食い虫だ。


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