少女、先進
アーシャ女王とボスとの会談は、アーシャ女王の誓約書に調印したことにより、無事に会談は幕を閉じ、その数日後、誓約書に書かれた誓約通りにボスは領主の館に戻った後、復興支援団を編成し、エルフの里の援助の手助けに力を注ぎ、見事誓約を果たした、次はこちらの要求である技術提供と子供達の返還を果たしてもらうため、ボスは再びアポライト神殿に訪れていた。
「この神殿の地下室?」
前回の会談会場の時と同じく、会議室で椅子に座り、用意された茶を啜りながらボスが言う、アーシャ女王は、ああ、と答えて話始める。
「前の会談の時に話した通り、危ない物だからね、誰かが間違っても持ち出さないようにいくらか地下室に保管しているんだよ」
「なるほどな、まあ賢明か」
「………ほんとに危ない物だからね、僕知らないからね」
警告のつもりなのか、アーシャ女王は念を押して、ボスの身の心配をする、ボスはその返答に大丈夫だ、とだけいい、席を立ち上がる。
「さっさと案内してくれよ、俺の予想が正しければ、我々にとって歴史を変える代物が手に入るんだ」
ボスがそう言うと、アーシャ女王は、はぁ、とため息をついた後、机をトントン、と指で叩いた、すると会議室のドアが開いた、そこには見覚えのある褐色肌のエルフが一人…………。
「し、失礼します」
エルフは頭を一度下げ、お淑やかにアーシャ女王に挨拶をすると、ボスの顔をちらっと覗いた、見覚えのある八重歯、間違いない、褐色エルフである。
「このエルフは会談後からずっと君のことについて聞いてきてね、君が視察に来ると聞いたらぜひ案内役は私にってね、まあそういうことだから、そのエルフに案内してもらってね」
そう言うとアーシャ女王は立ち上がり、背伸びをしながら会議室を後にした、褐色エルフはもじもじと指を絡ませ、何か話したそうにこちらを見ている、ボスは褐色エルフの様子に少し笑い、ボスの方から切り出した。
「無事だったんだな、ミアとケイトも無事か?」
ボスの問い掛けに褐色エルフは少し嬉しそうに頬を緩ませ、ニヨニヨした様子だ。
「あ、ああ、無事だぞ、そっちも元気そうだな」
「お陰様でな、お前が案内してくれるんだろ? 地下室まで歩きながら話そう」
ボスの提案に褐色エルフは頷き、会議室のドアを開けて薄暗い地下室への通路を二人並んで歩き出した。
「そういや、おま」
「マリー……」
ボスの話を遮って、突如褐色エルフはマリー、といい始め、ボスは、は? と首を傾げると、褐色エルフは続けて言い続けた。
「私はお前じゃなくてマリーって名前なんだ、だから名前で呼んで欲しい」
「あ、ああ、わかったよ、マリー」
ボスに名前を呼ばれ、褐色エルフことマリーは少し照れくさそうに、しかしまた嬉しそうにマリーは微笑む。
「なあ、お前の名前はなんて言うんだ?」
「俺の名前か? ルセイン・キルクだ」
「ルセイン……いい名前だ、ふふ」
マリーは微笑み、ボスに擦り寄ってボスの肩に寄りかかる、今日は妙にしおらしいマリーの様子にボスは違和感を覚え、何を考えてるんだ?
と考えながらマリーの顔を眺める、その視線にマリーが気づくと、マリーはまるで恋人の様に目を潤ませ、頬を朱に染める。
「な、なあルセイン、私達、夜を共にした仲だよな?」
突拍子のないことを急に聞いてきたマリーに、こいつ本当にどうしたんだ?
と困惑の色を更に濃くしたボスは、なんと言えば良いのやらと複雑な表情を浮かべながらも肯定した。
「ま、まあ、主従関係上ではあったが、そうなる、かな?」
ボスはなんとも微妙な返答を返したが、それを聞いたマリーはなにか意を決したようで、ボスから離れてボスの前に立つと、二回深呼吸をした後、マリーはぶちまけた。
「わ、私、赤ちゃんが欲しいんだ!」
マリーの告白にボスは、は?
と一言いい、口を開き、唖然とした態度を取るしかなかった、しかしそんなボスにはお構いなしにマリーは話を続ける。
「その、ルセインとヤる時、ルセイン必ず避妊するから、いつか言わなきゃって思ってたんだけど、私、そろそろお母さんになりたいんだ!」
「………それを今言うのか?」
今だ唖然としているボスは、思考をうまくまとめられないが、今一番言いたいことが何かは判断できたので、ボスはとりあえずそう言うことにした。
「はう…………う………だって…」
ボスに正論を言われ、顔を更に赤くして最早反論の余地なし、と思われたマリーだが、モゴモゴと小さな口を動かし、少し伏し目がちにマリーは言い訳を始める。
「ルセインと一緒に子育てしたいもん、ルセインと私の赤ちゃん絶対かわいいもん、ルセインと、夫婦になりたい、もん………ルセインは、嫌?」
マリーの言葉に、ボスは息を詰まらせる、ボスは技術提供として錬金術のある物を見るために来たのに、いつの間にか返答しにくい内容を問われているのである。
「………今は答えられんな、保留だ」




