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少女、盟友

アポライト神殿会議室、いつもなら王座に木製の長机と簡素な作りの椅子が何個か並んでいるだけの部屋に、上質な漆を塗り光沢を放ち、羽毛のクッションが付けられた国賓を扱うような椅子が2つ設置され、いつもは王座に座っているアーシャ女王がボスと長机を挟んで対峙している、ボスはデュランダルを会議室の前に待たせたのに対し、アーシャ女王は未だ武装を解かず、腰に下げた剣を光らせ、まるで交渉の席とは思えない態度だ。


「………傷は、大丈夫かい?」


開口一番、アーシャ女王はボスの傷をまじまじと見ながらそう切り出した、あの後ボスは傷の治療をする素振りも見せず、用意された席に直行し、今に至るわけである、そのお陰でボスの足元には血だまりが発生し、会議室はほのかに血なまぐさくなっている。


「………その質問は二度目だな、大丈夫に見えるか?」


表情一つ崩さず、ボスは腕を組んで真顔でアーシャ女王の言葉に答えた、別にボスは切られたことを理由に無理難題な不平等条約を結んだり、軍事侵攻の大義名分を作ったりするつもりはないのはアーシャ女王にも解ってはいるが、ボスの返答にアーシャ女王の表情は強ばる。


「………うちの部下が非礼を働いたようだね、すまない」


アーシャ女王は深く頭を下げ、謝罪をした、交渉で弱気な所を見せるのは御法度だ、そこにつけこまれてしまうかもしれない、故にこのアーシャ女王の行動は、大変勇気のいる行動である。


「いや、切った張ったはお互い様だ、今はいち早く両者納得のいく話し合いをしなければならない、時間は惜しいしな」


そう言ってボスは窓に視線を向けた、窓の外にはボスが馬の足蹴にしたエルフ守備兵達が殺気めいた表情でアーシャ女王とボスの会談を見守っている、恐らくボスが少しでも不審な動きをしたら窓を突き破ってアーシャ女王を守ろうとするだろう、そんな緊張感がエルフ守備兵達に漂い、いつ緊張の糸が切れるかわからない、まさにこの会談は一触即発なのである。


「そのようだね、では君はこの戦争を止めてまで一体何を望むのかな?」


「簡単だ、共栄だよ、まあお互い成約のある共栄だけどな」


そのボスの返答に、アーシャ女王は目を大きく広げ、驚きを隠せない、といった様子だ。


「き、共栄……? そんなの、君達に一体なんの利益があるんだい? 他の人間達のように僕達を家畜のように扱い、奴隷にするんじゃないのかい?」


「確実な利益かもしれないが、俺は奴隷なんて必要ないと思っている、もちろんお前達エルフに哀れみを感じてそんなことを言ってるんじゃない、こちらにも利益があると見込んで言ってるんだ」


「そんなの、一体何が?」


「技術だよ」


ここで初めて、ボスは真顔から笑みを浮かべるようになった、だがその笑は、あまりいい笑みとはとても言えないような笑みであり、悪巧みしているような笑みである。


「お前達の作る酒、あれは確立された蒸留技術がなければ作り出せないはずだ、蒸留技術があるのならば確実に綺麗な水を飲むことが出来るし、疫病の予防にもなる、更に言うならその綺麗な水も貴族相手に売って金儲けできるかもしれんしな」


「………そこまで解っているのなら

自分でできるんじゃないの?」


「知識と実際にやるのは全く違う、蒸留の原理を理解していても、その装置一つ作ることは俺には出来ないし、作り方を人に教えることもできない、だからこうして交渉に来たんだ」


そこまで言うとアーシャ女王は背もたれに寄りかかり、ふうと息を漏らして目を閉じた。


「……じゃあ目的は蒸留技術なの?」


「いや、それだけじゃない」


ボスの返答にアーシャ女王は目を開け、眉間にしわを寄せながら、ボスに怪訝そうな表情を向けた、だがボスは全く気にする事無く続けた。


「蒸留技術が確立している、これは詰まる所錬金術の研究が進んでいる証拠だ」


「………あはは、錬金術ね」


さっきまで怪訝そうな表情を浮かべていたアーシャ女王は突然気の抜けた様な笑みになった。


「悪いけど我々エルフ族も石ころを金に変えることは出来ないよ」


「その代わり色々な副産物がついてきただろ?」


「………そんな大層な物はなかったと思うけど」


「いや、あるね」


「ないよ」


「ある」


執拗に聞いてくるボスに、アーシャ女王はイラッとし、少し声を荒げた。


「ないって言ってるだろ、作る過程で確かに色々な発見や発明はあったけど、それは我々エルフ族の生活の向上には向かない物ばかりだよ、中には危なすぎて破棄した物まであるし、約立たずばっかりだよ」


「それだ」


ピッ、と人差し指をアーシャ女王に向けてさし、ボスは目を大きく広げでギラギラした視線を向けた、アーシャ女王はボスが何を躍起にしているのかわからず、首を傾げる。


「その危ない物だよ、その危ない物は我々から見れば無限の可能性を秘めた宝だ、今すぐにでも確認しに見に行きたいくらいだ、まったく」


「………君は、あの液体や粉がどれだけ危ないか解っているのかい? 本当に危ないんだよ?」


アーシャ女王はボスの反応を見て、正気だとは思えないと言いたげだ、だがボスは全くそれに気にすることなく、アーシャ女王に告げる。


「解っているさ、だから危なくならない使い方を見つける、それが人間の探究心だ、そして俺はそれを知っている」


ボスの発言に、アーシャ女王は再び驚き、口に手を当てる。


「あ、あの液体や粉を? 我々だって色々模索して断念したあれを? もしかして君は錬金術師?」


「いいや、只の領主さ、只のね」


さて、と言ってボスは懐から一枚の羊皮紙を取り出した、少し血で汚れたその羊皮紙にボスはサラサラと文字を書き、書き終わるとアーシャ女王の前に置いた。


「だいぶ話がそれちまったな、では交渉の話をしよう、俺が望んでんのはエルフ族が攫った子供達の返還と技術提供、んでその見返りとしてこちらからは賠償金と復興の手助けの人員だ、了承するならこの誓約書にサインを」


「……賠償金なんかいらないよ、君達の通貨は我々エルフ族は使わないからね、だから代わりの見返りが欲しい」


「いいとも、では何が欲しい?」


「エルフ族が、隠れてひっそりと生活しなくても良いように、奴隷にならず、君達のように自由に生きることが出来る権利がほしい」


アーシャ女王の切実な願いに、ボスは頷き、


「ああ、保障しよう、君達はルセイン・キルクのパートナーだ」


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