少女、価値観
「いいですか、エルフ達を売り捌くのは別に悪ではないのですよ、そりゃ人間の人身売買はヴィルデット王国では極刑に値する罪であり、どの様な権力者であろうとまぬがれることは出来ません、しかしエルフは違います、あれらは人間ではないゆえなんの罪に問われることはありません、それどころか森に住む害獣を排除したと人々に喜ばれるでしょう、我々は奴らに和睦などという手段を取る必要などないのですよ」
ヘラヘラと将兵は口走り、まるで取引先と莫大な利益を産む商談を話に来た営業マンのようだ、恐らくこの将兵は前の領主であるエディダー・キルシュにも似たような話をしたことがあるに違いない、全くつくづく将兵にするには勿体無い人材だ。
だが、この将兵の話に、少なくともこの世界では間違ったことを言ってない、悪法でも法である、エルフの売買がこの国で認められているのであればエルフは立派な商品なのは迷うことなき事実であり、ボスも心の片隅では、これ以上ない利益を生む、と少し将兵に傾いている所がある、が
「小さい、全く見ているものが小さいぞ」
ボスが将兵を嘲笑うかのように鼻で笑い、軽辱の態度を顕にした、すると将兵は怒るでもなく、ほう、とボスの話に関心を持った。
「では領主様にはエルフの養殖以上の利益を生む物が思いつくのですか?」
「証明するのに時間はかかるが、ある」
ボスは懐から煙草を取り出し、今度はボスが営業マンのように、相手が納得するような説明の手順を脳内に並べていき、交渉に入る。
「良いか、軍事力でねじ伏せて得られるのは領土とお前の言うように奴隷ぐらいだ、しかも軍事力で得た物は国力の衰えと共に失っていく、だが、文明はどうだ?」
「文明、ですか?」
「そう、文明だ、文明は軍事力では得ることは出来ない、むしろ自国の文明に染めてしまう、実に惜しいことだと思わないか?
その文明には財宝よりも価値のある可能性があるかも知れないのにな」
ボスの話に将兵はふむ、と顎に手を当て考察を始めた、どうやらこの将兵は目先の欲に眩むだけの将兵ではないようだ、だが他の将兵は違った。
「なにを小難しい事を仰っているんですか! 文明なんて儲けがでるかどうか分からない物より確実に儲けになる物を取るべきです!」
じれったくなったのかその将兵は目くじらを立ててボスに捲し立てる、まあ確かに普通に考えれば文明なんて物は不確かな物だ、簡単に衰退するし、自国より優れている文明かどうかなんて確証は取れない、そう、現地で生活でもしない限りは……。
「お前は蒸留酒って酒を知っているか?」
「じ、じょうりゅうしゅ?」
「知らないのか? エルフ族が作っている酒だ、酒精は高いが慣れると病みつきになるぞ? それこそ王都で売ったら大儲けだろうな」
まあ、その蒸留酒を一気飲みして褐色エルフにまんまとやられた訳ではあるが…………まあ、それは今関係ないのである、今大事なのは目の前の分からず屋な将兵を説得するのが重要なのである。
「し、しかしたかが酒の売上よりエルフを売った方が儲かります!」
「分かってないな、エルフ族は酒以外にも我々には未知の技術を持っているのかもしれないのだぞ?
今までエルフを奴隷としてしか扱ってこなかったから解らないだけで、エルフ族の文明には未知の可能性があるのだよ」
う、うぐ………と、将兵は唸り、まだ納得はいってないが、これ以上はなしてもらちがあかないと思ったのであろう、大人しく将兵は身を引いた、考察している将兵以外はそれを見て、不満そうではあるが、身を引いた将兵同様に文句はでなさそうだ。
「よし、他に言いたいことある奴はいないな、それとお前、名前はなんて言うんだ?」
考察している将兵に指をさして、ボスが名前を尋ねた、すると将兵は考察を中断し、姿勢を正した。
「はっ、カミエル・ガナートであります」
「お前は口がうまい、将兵など辞めて俺の補佐官になれ」
それだけ言い残すと、ボスは一兵卒に馬を用意させ、馬に跨る前にデュランダルの方を振り向いた。
「デュランダル、お前がライターくすねた事は解ってるぞ、返せ」
ボスが掌をデュランダルの前に突き出し、ほれ、と言ってライターを催促する、デュランダルはバツの悪そうに渋々ライターを取り出し、乱暴にボスの掌に乗せ、顔をそっぽに向けてツーンとした態度をとった。
「デュランダル……一応目的あっての事だったんだよ、心配させて悪かったとは思うけど、そろそろ許してくれねえか?」
ボスの嘆願の言葉を聞いたデュランダルは、少しちらっと横目でボスの顔を覗き込み、む〜、と怒りと諦めを感じられる唸り声を上げて。
「………解ったわよ、許してあげる」
その言葉にボスはホッと胸を撫で下ろし、馬に跨って走ろうとした、するとデュランダルは急にボスの後ろに飛び乗り、ボスに抱きついた。
「………? デュランダル?」
ボスは急に飛び乗ってきたデュランダルに顔を向けた、仏頂面ではあるが少し頬を赤くして、目をボスに合わせず斜め下を向いて気恥しそうにしていた。
「エ、エルフのとこに行くんでしょ、私は貴方の剣だから、ついていって、守ってあげても………いいわよ」
そう言うと、デュランダルはぎゅうとボスを掴む力を強くした、そんな状態のデュランダルにボスはふふっと軽く笑った。
「わ、笑ったわね! 人の善意を笑うなんて……! うう〜もう知らない!!」
ぎゅう〜
「………なら放してくれよ」
「い、嫌よ、離さない……」
そう言うと、身体をボスの背中に引っ付け、まるで猫が甘えるかのようにスリスリと、身体を背中に擦り付ける。
「………あの褐色のエルフになんか盗られてたまるもんですか…」
ボスははぁ、とため息をつき、デュランダルを載せてアーシャ女王のいる神殿に急いだ




