少女、統治権
「報告! ほうこーく!!」
伝令兵が駆け足でデュランダルの元に駆け寄る、デュランダルはまたか、と言ったような表情で伝令兵の報告に耳を傾けた。
「何? ここから見てわかるような報告はいらないから」
「我が方の先鋒隊、戦闘を中断して退却を始めました!」
伝令兵の報告に将兵達とデュランダルが眉を顰め、特にデュランダルが納得がいかないというように伝令兵を睨んだ。
「どういうこと? 私はまだ退却命令を出していないわ、然るべき理由があるのよね?」
「は! 領主様からの命令にございます!!」
「…………! 見つかったの!?」
デュランダルは思わず身を乗り出し、伝令兵に尋ねた、すると伝令兵は頷き、更に報告を続けた。
「はい、先鋒隊が村の中間地点まで進撃した所、領主様と思わしき人物が軍を止めたそうです、恐らく退却中の先鋒隊の物たちと共にこちらに来ると思われます」
「そ、そう…………わかった、下がってもいいわ」
デュランダルがそう言うと、伝令兵は一礼し、そそくさと何処かに消えた、今デュランダルの脳内はボスに会ったら質問したいことを色々考えていた、なぜエルフと共に生活したのか、エルフ達をこの後どうするのか、また孤児たちもどう対処するのか、と………。
「………エルフより、私の方が…」
「やあやあ諸君、久しいね、かれこれ数日ぶりか」
先鋒隊の列の先頭から陽気に手を振りながらボスは馬車に近づく、気付いたアルシーと魔女が真っ先に近づき、ボスの帰還を喜んだ。
「使い魔さん! よく無事に帰ってこれましたね、でもなんでエルフの里なんかにいたんですか?」
「ああ、ちょっと魔女のいた村が壊滅した原因を調べていたらエルフの連中がまだ奴隷となる子供がいないか探ってんのに遭遇してな、大人しく捕まってエルフの里に潜入したわけさ」
「潜入? その割には随分楽しんでいたみたいじゃない」
腕を組み、ずかずかと足音を立てながらデュランダルがボスに言った、デュランダルの顔は少し引き攣ったような笑いで、ボスは何故か胃袋を掴まれるような感覚に陥った。
「な、何を言ってるんだ? 俺は原住民であるエルフ族との和睦の為に………」
大丈夫、あのことはバレているはずない、そう思いながらもデュランダルの一言一言にハラハラを覚え、ビクビクしながら目を泳がせてボスは答えた。
「現地のエルフ達とイチャイチャして楽しかった? 夜はさぞ盛り上がったでしょうね!」
ドン!とデュランダルが足を地面に叩きつけ、フーフーと荒く息を立て顔を真っ赤にし、まるで肉食獣のようにボスを睨みつけた、ボスはデュランダルの言動に動揺を覚え、少し後ずさった。
「な、なぜそこまで……」
「この魔女っ子のおかげよ!」
そう言ってデュランダルは魔女の頭をわしわし撫でた、魔女はなぜ自分が撫でられているか解らなかったが、気持ちがいいので満更でもない様子だった。
「こんなに心配したのに、まさか向こうでキャッキャウフフなことばかりしてたなんて、信じられない!! 最低よ!」
ぐ、ぐう……………反論できない、正直あそこでやったことと言ったら褐色エルフとの……………いや、言うまい。
「ま、まあその話はまた後にして欲しい、今はそれどころじゃないんだ、屋敷に戻ったらやらなければいけない事が一杯ある」
「ふん、解ってるわよ、あの孤児達の面倒でしょ?」
「…………なんでそこまで知ってるんだ? 不気味だわ」
なんですって! とデュランダルがボスに掴みかかろうとした所で将兵達が止めに入った。
「まあまあ、双方そこまでにしてください、それより領主様、我ら将兵一つ質問がありまする」
「なんだ?」
「あのエルフ達にどの様な処分を下すのですか?」
その将兵の発言にボスの表情は強ばる、なぜならエルフ達との間で起きたことは一種の外交である、故に一筋縄でいかず、屋敷の官僚達とゆっくり話し合おうと思っていたのだ、詰まる所、今は答えが出ない。
「もしまだ決まっていないのならば、我らから提案があります、我らでエルフ達を養殖してルセイン領の特産物に致しましょう」
…………は? 何を言っているんだ?
ボスには将兵が言っている意味が解らす、ただ、部下の提案を即却下するのも領主としての器を疑われるので、取り敢えず話だけは聞くことにした。
「領主様はご存知ないかもしれませんが、エルフは都では奴隷として流通しております、しかし今やエルフは乱獲され続けその数は減少し続けており、価値は高騰しております、ですが今回偶然にもエルフの里をルセイン領で見つけることができました、これは利用しない手はないかと」
将兵の提案にほかの将兵達も頷き、中には具体的なエルフ一体の値段の話までする輩まで出てくる始末である、もう軍人でなく商人
を目指したらいいのではないか、と思うぐらい彼らはエルフを特産物として流通させ、懐を潤したいようだ。
「………俺は、なるべくエルフ族とは穏便に、和睦を望んでいる、都で高値で取引されているのは解ったが、それでエルフの取引をするのは人道としてどうかと思う」
ボスがきっぱりと言うと、将兵達は、はぁ……と溜息をつき、失望したような表情と目で、さっきよりも低めのトーンでボスに質問した。
「領主様、貴方は魚を食べる時に哀れみを感じますか、草を踏む時に悲痛な思いになりますか、私はなりません、恐らく領主様もそうでしょう、なのになぜエルフだけは特別なのですか?
貴方は万物の病を治せる薬草を雑草の中に埋めようとしているのですよ? それに第一………」
一呼吸置いて、将兵は賭博に溺れた博徒のごとく欲に塗れた笑でボスに笑いかけ、
「領主様がそこまで気に掛ける義理などありませんではないですか、エルフ族とはご親戚でもなあんでしょ?」




