少女、奴隷
「…………ふん、つまんねえな、少しは抵抗するのかと思っていたんだがなぁ」
里への道中、褐色エルフが心底退屈そうにボスに視線を向けた、あの後ボスは抵抗を見せるやと思ったら、両手を挙げて『ならさっさと連れてけ、俺は逃げやしねえよ』と言って、全てをエルフ二人に捧げたのである、不敵な笑みと共に。
「抵抗してもいいが、その前にお前らが住んでいる里ってやつが見たくてな、里を観光してから抵抗することにしよう、と思い立ったのさ」
ボスが観光名所に来た外人のように、ニヤニヤと笑いながら褐色エルフに告げた、すると褐色エルフはその態度が気に入らなかったのか、舌打ちをして
「随分と余裕だな、奴隷には思えねえな、クソつまんねぇ、もう殺しちまおうかなぁ…………」
褐色エルフがそう言うと、色白エルフが眉間に眉を寄せて、褐色エルフに抗議した。
「ちょっと、それはいけわせんわ!私の奴隷なんですから丁重に扱ってください、殺すなんて言語道断です!!」
色白エルフがそう言うと、こんどは褐色エルフが顔に青筋を浮かべ、色白エルフに怒鳴り込んだ。
「ああ!?こいつはあたしのだろうが!焼くも殺すも私の自由だろ!」
やがて二人のエルフの口論は徐々にエスカレートしていき、遂には歩くのをやめて、その場で奴隷の利権争いが勃発した。
「ああもう我慢できねぇ!一発ぶん殴んねえと解んねえみたいだな!!」
「やれるものならやって見なさい!完膚なきまでの敗北を与えましょう!」
そういうや否や、色白エルフは聞き取れない声で呪文を唱え、手のひらからまるで蜘蛛の糸のような細いレイピアを出現させた。
「は!上等だ!」
褐色エルフはそう言うと、両拳を思いっきり握り締めた、すると拳から火が吹き出し、やがて赤黒い巨大な斧を出現させた。
「「ふしゅ~~~~~~~」」
両者睨み合い、一触即発な雰囲気をただよわせるエルフ二人に、一人蚊帳の外に立たされたボスが、アクビをしながら二人に言った。
「なあ、俺はいつになったら里に行くことが出来るんだ?」
「「うるさい!今取り込み中!!」」
声を揃えて言うエルフ二人に、ボスはその場に座り込み空を見上げ、ため息をついた。
「おらァァァァァァ!!」
雄叫びを挙げながら褐色エルフが重量感ある斧を空気を切り裂きながら色白エルフに斬りつける、それに対して色白エルフはひょいひょいと斧を避け、褐色エルフが斧を振り切った直後を狙ってレイピアを突き出した。
ビキィィィィィ………
レイピアは褐色エルフの喉元につく直前、褐色エルフが回避行動を行い、レイピアは喉元を貫くことなく褐色エルフの服を破いた。
「ちょこざいな!」
褐色エルフは斧を地面に突き刺し、斧を軸に色白エルフ目掛けて飛び蹴りを食らわした、色白エルフは腹部に蹴りをくらい、地面を転がるように吹き飛んだ。
「くそ、脳筋が!」
今度は色白エルフが叫び、即座に立ち上がって褐色エルフに刺しかかる、褐色エルフは最初その攻撃を斧でなんなく弾いていたが、次第に攻撃速度は早くやり、所々に腕や足に穴があき、血が噴き出すようになった。
「チッ! ハチドリかよ!!」
褐色エルフは絶え間なく続くレイピアの攻撃にしびれを切らせ、刺されるのを覚悟してレイピアが刺しかかると同時に斧を思いっきり振った。
バッキィィィィン
レイピアは色白エルフの手から離れて木々の向こうに飛んでいき、斧も褐色エルフの手から離れた。
「くっ!なんの、これからですわ!」
「望むところだ!」
そこから先は肉弾戦、両者手加減なしで殴り合い、顔は腫れ上がり、所々に痣がついていき、拳には血が滲む、それでも二人は殴り合い続ける様子に、ボスはまたため息をついて立ち上がった。
「………よっこらしょ」
ボスはゆっくりエルフ二人に近づき、殴りあいの仲裁に入ろうとした、するとエルフ二人は、近づいてくるボスを冷静に判断することができず、敵と認識してボスに拳を振りかざす、が
「ほーらよ」
パシッグィィィィ………
襲ってきた二つの拳をボスは捌き、手首を持って関節をねじ曲げたのである。
「ぐぅ! 離せ!」
「痛いですわ! 離しなさい!」
エルフ二人がボスに敵意を向けて睨む付けると、ボスは二人の顔を交互に見て、少し間を置いて
「殺すぞ」
エルフ二人とは比べ物にならない邪悪で敵意剥き出しの睨みをボスはエルフ二人に向けた、その表情にエルフ二人はゾクリ、と恐怖が身体を揺さぶった。
「てめえらが喧嘩しているせいで森が更に暗くなっちまってんだよ、こちとら早く里が見てえんだよ、これ以上待たせんな、わかったか?」
ボスがそう言うと、褐色エルフが少し視線を逸らしてブツブツと言い訳のように呟きながら
「ど、奴隷が指図すんじゃねえ、よ…………でも、喧嘩はやめてやるよ…………」
褐色エルフの発言に、色白エルフも便乗して
「わ、私もやめてあけますわ……」
エルフ二人の発言にボスは納得し、二人の手を離した、二人は即座に自分の手首を摩り、なんともないか確認し、褐色エルフがまた睨み、強がるように言った。
「べ、別にお前の睨みにビビったわけじゃねえからな! 調子にのんなよ!」
その発言にボスはしばらく無言になり、またついさっきのように睨みつけた、それも今度は近づきながらである。
「え、うう……………」
まるで田舎のヤンキーの如く首を傾げながら睨みを効かせる、この
威嚇は思いの外エルフ二人に有効だったようだ。
「はあ、さっさと案内しろや、御主人様」
ボスはエルフ二人より前に出て、森の深くに足を踏み入れ、先行していった。
「…………くそ、つまんねぇ、本格的なお仕置きが必要だな…………」
褐色エルフが爪を噛みながらボソッと呟いた。




