少女、心配
「………使い魔さん、帰ってきませんねぇ…………」
アルシーの寝室の窓縁に肘をつき、頬に手を添えながら夜空で煌々と輝く月を眺めながらアルシーはボソッと呟いた、こんな暗くなっても帰ってこない、一体何があったかと心配でならない様子のアルシーに魔女が寄ってきた。
「ア、アルシーちゃん、そろそろ寝ないと体に悪いよ?」
「あ、魔女さん、ちょっと使い魔さんが帰ってこないから、どうしたのかなって」
そう言ってアルシーはニコリと魔女に笑いかけた。
「使い魔ってあの怖い人?なんか使い魔って雰囲気じゃなかったけど、名前はなんて言うの?」
魔女にそう聞かれ、メルシーはうーんと唸り、腕を組んで思い出そうとした。
「……………う、うん?うーん、あれ?えっと……………そういえば、名前は聞いていませんね、使い魔さんがいた世界の話とかは聞いたことがあるんですけどねぇ、うーん……………」
「そうなんだ…………どうやって使い魔を召喚したの?」
魔女がそう聞くと、首に掛けているペンダントを、首から外して魔女に見せた。
「これに祈ったら目の前に大きな魔法陣が出てきて、気がついたら使い魔さんが立ってたんです」
「へえ…………ちょっと見せて?」
魔女が両手を指し出すと、その上にアルシーがペンダントを乗せた、魔女はまじまじとペンダントを眺め、次第に魔女の目は輝きだした。
「わぁ!これ純度の高い魔晶石だよ!!始めてみたよ!」
魔女がすごい!すごい!、とはんば狂乱している姿を見て、アルシーはちょっと怖がりながら魔女に聞いた。
「そ、そんなに凄いものなんですか?」
「うん!純度の高い魔晶石はなかなか採掘されないし、錬金術で生成しようとしても二億回試して作れるかどうかなんだよ!」
「へ、へぇ………そうなんですか」
「王都で競りにだしたら金貨29000枚だよ!」
29000枚!その値段にアルシーは口をあけて呆然となった、と言うのもこのウィルデット王国の一日の労働で得る賃金は約銅貨18枚、1ヶ月だと558枚、一年で約6696枚である、これを銀貨に換金するとウィルデット王国の基準だと銅貨4枚で銀貨1枚、つまり一年で銀貨1674枚、これを金貨に換金すると銀貨12枚で金貨1枚なので、金貨だと一年で約140枚、これをこれまたウィルデット王国国民一生60年に換算すると金貨8730枚となる、つまり人一人の一生分の労働賃金でも用意できない大金である。
「ねえ、こんな凄い魔晶石どこで手に入れたの?」
魔女がそういうと、アルシーは少し話しづらそうに俯き、少し誤魔化すように
「はは………それお母さんの形見なんです……………殺されちゃったんです、お母さん………」
そう言うと、魔女はさっきまでの狂乱から、物の重大性を感じ、大人しくなって魔晶石のペンダントをアルシーに返した。
「ご、ごめんね…………何も知らずにはしゃいじゃって……………」
魔女が申し訳なさそうに言うと、アルシーがニコリと笑い
「いえいえ、まあ、そんなことがあったから心配になってしまうんですよ、使い魔さんのことが」
そういってアルシーはまた月を眺めた、その様子に魔女は腕を組み、しばらく考え込み、思い出したようにアルシーに声をかけた。
「ねえねえ、アルシーちゃんがあの使い魔の契約者なんでしょ?」
「え、ええまぁ」
「なら使い魔の場所がわかる魔法があるよ!」
そう言って魔女は寝室から出ていき、しばらくすると両手に大きな石と小坪を持ってきた。
「な、何ですかそれ?」
魔女が床に道具を並べている様子をアルシーは興味深そうに眺めて質問した、すると魔女は一つ一つに指をさして答えた。
「これは明鏡石、これに契約者の血がかかると使い魔の視界が映し出されるの、それでこの小坪に入ってるのは晒しインク、これを地図の上に垂らすと使い魔の現在地がわかるよ」
「そ、そんなすごい物なんですか?さすが魔女さんですね!」
アルシーが興奮気味に言うと、魔女は少し照れながらも、道具の準備を始めた。
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「アハハハハ!すごく似合ってるぞ!」
鎖付きの首輪を付けたボスを見て
、褐色のエルフは鎖を引っ張って歩きながら笑いだした、そのそばで歩いている色白エルフもボスを見て、うっとりとした様子でボスを眺め
「んっはあっはぁっ、だ、ダメ、この後のことを考えると激ってしまいますわ」
そんな二人のエルフを見て、呆れたようにボスは言った。
「おいおい、首輪をつけるのはお前達が話していた里に着いてからでもいいんじゃないのか?歩きづらくてだめだ」
ボスがそう言うと、褐色エルフは下品にニヤニヤしながら
「いいやダメだ、御主人様は一体誰か今のうちに躾をしておかないと、それに女王様に会ったときに粗相のないようにしないとな、くふふふふ」
褐色エルフの言葉に、ボスはため息をついた、そしてやれやれ仕方ないと言う感じでボスはズボンからあるものを露出させた。
「お前ら俺を人間人間って言ってたけどよ……………ちょっと違うんだぜ、こいつを見な」
ボスが露出させた物、それは尻尾であった、長い間ズボンに隠して自分自身でも忘れていたがボスはこの世界では使い魔、使い魔らしく尻尾があるのである。
「どうだ?人間には尻尾は生えていないだろ?」
そう自慢げに尻尾を振りまくるボスに対し、褐色エルフと上品エルフの二人は眉間にしわを寄せ、褐色エルフが近づいてボスの匂いを嗅いだ。
「スンスン…………随分と人間臭い魔物がいたもんだね、じゃああんたはどこの種族なんだい?」
褐色エルフに睨まれながらそう言われ、ボスは無言で眼帯を外した。
「ほう……………こりゃ契約印の魔法陣だねえ、じゃああんた使い魔かい?」
「その通り、俺は既に使役されてるって訳だ、あんたらが捕まえているのはあくまで人間なんだろ?なら俺を捕まえるのはお門違いじゃないか?」
ボスは解放の時は今か今かといった様子でエルフ二人の反応を伺っていると、再度褐色エルフが下品に笑い
「私は別に人間だけを奴隷にするなんて言ってないぜ?欲しいものは力ずくでも奪ってやるぜ」




