少女、異民族
「じゃあ、先に屋敷に戻っていますね」
アルシーが魔女とデュランタルを馬車に乗せ、馬車のドアを開けながらボスに声をかけた。
「ああ、後で迎えも寄越しといてくれ」
そう言ってボスはアルシーに手を振り、馬車の運転手に屋敷に戻るように指示した、すると馬車の運転手が怪訝の表情で
「いいんですか、あのよく分からん小娘を屋敷に招いて私あいつに変な魔法で眠らされてたんですよ」
「ああ、いいんだ、悪い奴じゃなさそうだしな、うちの領内の生活の向上の為に一役買ってもらう」
そう言うとボスは振り返り、荒廃した農村に戻っていった。
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「……………さて、色々と調べねえとな」
荒廃した農村に戻り、死体を漁りながらボスは言った、ボスは検視官ではないため、外傷は一体何によるものか詳しく調べることは出来ないが、今までの仕事の経験を生かして出来るだけ解明しようという魂胆であった。
「内臓が飛び出したりしてる死体は調べようがない、外傷の少ない死体はないかなー」
ボスは死体一体一体をひっくり返し、なるべく綺麗な死体を探すこと数分、あることに気づいた。
「……………子供の死体がない」
いくら森奥の農村だとしても、子供の一人もいないのはおかしい、そう考えたボスは一旦考えを整理するため、あの魔女と書かれた民家に入り、座り込んだ。
「そうだ、あの魔女だって友達がこの村にいたって言ってたんだから子供がいたっておかしくないはずだ、なのにいないってことは…………盗賊?いや、人狼族がいるこの森にはいなそうだしな、なら人狼族か?いや、人狼族は人前に出ないみたいなことをデュランタルが言ってたような……」
ああ、もう!そう言って頭を書きながらボスは懐からタバコを取り出し、口にくわえた。
「…………ライターがない」
そう言ってボスはため息をき、タバコをしまった。
「……………そう言えば、これ」
ボスはふと魔女と書かれた壁を見た、今まで魔女がこの村を滅ぼしたと思い込んだ原因とも言えるこの文字、ボスはこの文字が気になった。
「そういやなんで魔女なんて書かれてんだろう、もしかしてこの村において魔女はなにか特別な存在だったのかな?」
そう言ってボスは魔女と書かれた壁を撫でた、すると魔女という文字が光だし、その光とともにとんがり帽子を被り、少し紫がかった黒髪に光を感じない真っ黒な目、それに貴族のようなドレスを着ている女性が現れた。
「……………なんだこりゃ」
そう言ってボスはその女性に触ろうとした、しかし触ろうとするとするりと透けてしまった、どうやら映像のようだ。
「……………そこに、だれか居ますか、この声は聞こえますか?」
女性が急に喋りだしボスは驚き、少し後ずさりしながら女性の話を聞いた。
「もし、そこに居るのなら聞いて欲しい、この村は今危機に面しています、未知なる病に侵され、人々は憔悴しきり、挙句の果てには私と夫を殺そうとしています、しかしこの疫病は天災による疫病ではありません、これはこの森に古くから住み着く先住民による攻撃です、どうか、この村を守ってください、どうか、娘を、メルを守ってください、どうか………………」
そこから先、映像にノイズが走り、瞬く間に消滅した。
「……………おせえよ」
そうつぶやきボスは民家から出た、辺りはすっかり暗く、軽く霧が発生していた。
「しっかし、先住民が住んでいるとか、戸籍ぐらいちゃんと作れよな、わかんねえ………………ん?」
ブツブツ愚痴っていると、森の奥深くからポツポツと赤い光が見えた、ボスは目を細めてその光を観察すると、その光はだんだん近づいてきた、ボスはその光を松明の光だと判断し、近くにあった死体を積み重ねて死体の下に隠れた。
ジャリ、ジャリ、ジャリ…………
足音がじょじょに近づき、次第に話し声も聞こえるようになった。
「…………ったく、なにもないじゃないのさ、だから言ったじゃない、もうこの村の子供は攫ったって」
そう妙に強気な口調で喋る聞こえた感じ女性の声が聞こえた、すると今度はしなやかな、気品のある声で
「うーん、そうですわね、まだ隠しているかと思っていたのですけど…………」
「大体、もう十分に攫っただろ?まだこれ以上欲しいのかよ」
「ええ、まだまだ欲しいですわ、私のかわいいかわいい虐めがいのある子供達………あの純粋な心を思う存分この後壊せると思うと………………んっ、興奮してきましたわ」
「おいおい、独り占めする気かい?私だって欲しいんだから、奴隷」
「ふふ、それは里に帰ったら皆で話し合いましょう、女王様も含めて………」
そんな話し合いも数分、やがて両者静かになり、また足音が聞こえ、遠ざかっていく、一目見てみようと死体を少しずらし隙間を作って見てみた、するとその姿にボスは驚愕した。
「…………っ!み、耳が長い、あれが本当に人なのか?この世界の身体障害なのか?」
そう小声で呟くと女二人は立ち止まり、片方が振り返ると同時に投げナイフを投げ、それはボスの隠れている死体に突き刺さった。
「隠れてんなら今すぐ出てきな、命までは取らねぇよ」
そう言われてボスは数分考え、ゆっくりと死体の中から這出るように姿を現した。
「ああん?見慣れない服だね、あんた貴族か何か?」
そう言ったのはさっき気の強そうな発言を繰り返した女、褐色で八重歯が目立ち、黒髪の鋭い目つきで睨んでくる。
「ほんと、見慣れない服装ですね、人間っていつも良く分からない服を着るけど、こんなのは初めてですわ」
そう言ったのは気の強そうなのとは相対し、金髪に肌は白色、それに目の中央が真っ赤に染め上がり、なんとも上品そうな面をした女だった。
「なかなか失礼だな、誰のドルチェ&ガッバーナの高級スーツが面妖なんだ、言ってみろ」
スーツを少しこだわっているボスはキレ気味に二人の女に突っかかる、すると上品そうな女から
「何をこの人間は怒っているのでしょう、訳わかりませんわ」
と、ため息をつきながら言った、すると褐色の女も
「さあな、人間の考えることは分かんねえからな」
その話に違和感を覚えたボスは、少し疑問を覚え、
「おい、さっきから聞いてりゃ人間人間って、あんたら人間じゃないのか?」
ボスがそういうと、女ふたりは顔を合わせ、笑い出した。
「アハハハ!こりゃ傑作だ!」
「フフフ、一体どこに目をつけているのですかね、フフフフフフ……………」
一通り笑い終えると、上品そうな女が、説明するように語り出した。
「いいですか?どこにこんな耳の長い人間がいるんですか、わたし達はエルフですよ」
エルフ、エルフ?聞いたことのない単語にボスは理解できず、見た目耳以外人なので、人の亜種と考えることにした。
「そ、そうか、エルフ、エルフか、よし覚えだぞ、うん…………」
そうブツブツ呟いてるボスの様子をみて、少し怪訝の表情を女二人もといエルフ二人が浮かべた。
「お前、まさか、本当にエルフを知らなかったのか?」
褐色のエルフが言うと、ボスは素直に頷いた、すると二人のエルフがさらに驚いた表情を浮かべた。
「……………はは、お前おもしれえな、殺す気でいたが、考えが変わった、お前も特別に私の奴隷にしてやる」




