少女、決闘2
「ほうほう、して、どんな武勇をお持ちなのですか?」
ボスが貴族に聞くと、貴族は目を細めながら語り出した。
……遡ること約3年前、隣国コージュラ皇国国王であるコージュラ三世が我がヴィルデット王国の領土にちょっかいを出してきたことがあった、元々隣国コージュラ皇国は度々内政干渉してきたり、コージュラ皇国の属国というわけではないのに無茶苦茶な要求をしてきたりしてきて、我が国とは物凄く仲が悪かった、そして3年前、我が国とコージュラ皇国と隣接するヴィルデット王国リン州に手を出してきたんだ。
「ちょっかいって言うか侵略してんじゃねえか」
ボスが突っ込むと、貴族は困ったようにため息をつきながら
「コージュラ皇国は強国だからな、周りはコージュラ皇国のやることをウンウン頷くしか出来ないし、コージュラ皇国にとって我が国はちょっかいや冗談で簡単に侵略出来てしまうんだろう」
さて、と言って貴族は話を戻し、また語り出した。
……その時、コージュラ皇国はリン州を攻めるのに約3万、対して我が軍は一万五千、敵の半分だ、こんな絶望しかない防衛戦で先陣を切ったのは通称紅騎士、メメル・ラセだ、彼が敵陣に突撃した道筋に、まるで海が割れるように一本の道が出来ていたんだ、彼は徐々に消耗していく自分の剣や死んでいく味方をかえりみず、遂に敵の本陣まで到達したんだ、まあ敵の本陣まで到達した時には自分以外の味方は死んだんだけどね。
「………ふぅん、そりゃすごいな、で、敵の指揮官を殺したのか?」
ボスが質問すると、貴族は首を横に振って
「いや、あえて敵の指揮官を殺さなかったそうだ、変わりに敵の指揮官に自分の名前を名乗ったそうだ、いつかコージュラ皇国を滅ぼす者の名だ、てさ」
「へー、んて、そん時コージュラ皇国に勝ったのか?」
「ああ、彼が開けた道筋に後に続くように味方が流れ込んだからな、流石に敵だって内側を攻められたら崩れる、そのまま敗走したよ」
「そりゃなかなかの武勇だな」
ふむ、彼にそんな武勇があったのか、そりゃこの国で英雄扱いされて天狗になるわけだ。
「おっと、すまないが人を待たせているんだ、何か拭くものを持ってはいないか?」
ボスが貴族にだずねると、貴族は少し驚いたような表情をして
「ふ、拭くもの?」
と言って自分のポケットを漁り、一つのハンカチをとりだして、ボスに手渡した。
「これでいいかい?」
「ああ、十分だ」
そう言ってボスは一礼をして、小走りをしてレイスの所へ向かった。
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「待たせたな、拭くものを持ってきてやったぞ!」
そうボスが手を振りながらレイスに近づくと、レイスは誰かと楽しげに話しているのに気がついた。
「うん?おーい、レイス、拭くもの………お?」
ボスが近づくと、向こうも気づき、こちらに視線を向けてきた、最悪なことになんとついさっきぶつかった紅騎士だった。
「………………なんのようだ?」
ああ、すげえ仏頂面だ。
「いえいえ、私はそこにいるレイスに用があるのです、レイス、拭くもの持ってきたぞ」
ボスがそう言うと、レイスは困ったような表情を見せ
「あ、すいません……………この方がついさっきハンカチを渡してくれました。」
なぬ?
「ふん、ワインを頭から被っている奴を見てそのままにする訳にはいかないだろ」
何に対して弁解をしているのか良く分からないが、そっぽを向きながら紅騎士は吐き捨てるように言った。
「はあ、それは親切にどうも」
そうボスが一例すると、紅騎士はふん、とだけ言った、可愛げのないやつだな。
「招集ー!招集ー!」
奥の方で大声で招集をかける声が聞こえた、何事かと思って見てみると、何か巻物のような紙を持った兵士が立っていた。
「今から呼ばれた者は早く来てください、この試合が終わったら出てもらいます、ルセイン・キルク! メメル・ラセ!」
………………最悪だ。




