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旅立ちは友と共に

 病院のベッドの上で、僕は旅行代理店の人とギルドの職員に謝られている。


「今回は本当に申し訳ありません!」

「大谷様のお支払いになった料金は、色を付けて戻させて頂きます!」


 いきなり頭を下げる二人に違和感を覚える。この日本は、弱肉強食の世界ではなかったのか? その後の話で理解したのだが、それはそれ、これはこれ、らしい。つまり、僕がどんなに間抜けでも、怪我をさせた責任は代理店やギルドにあると世間が思う事が問題らしい。


 無論、僕が間抜けだと世間は思うが、代理店もギルドも信用が落ちるのだ。それは避けたい両者が、僕に今回の事を謝罪している。口止め料という所だろう。


「今回の責任はギルドにあります。ですから、浅野をギルドは追放処分とさせて頂きました」


 ギルド側の責任は、浅野さんに押し付けるというか、元から浅野さんがまともならこんな事にはならなかったのだ。ギルドも実力と性格を天秤にかけて、切り捨てる事にしたらしい。まぁ、あの人も一流だから行く宛くらいはあるだろう。


 そうして恒例の、病院での身体測定後にステータスを更新して貰った。参加したメンバーの証言や、現役の冒険者の言葉もあり、僕のチートは正式に異能として認められた。


【大谷 優】【22】【ランクB】【異能・自動全回復】【支援魔法・中】【銃器資格】【職業・戦士】【巨人使い】【……コメント準備中】


 ……コメントが準備中? それにしても、見るからに怪しいステータスになってしまった。これでは余計にギルドに入り難い事にならないだろうか?



「それで入院して帰ってきたのかよ。何回入院すんの兄貴?」


「僕だって入院したくてした訳じゃない。ただ、今回は運が悪かったんだ」


「そうだな。確かにあれは事故だった。なのにギルドの連中が僕に罪を被せるから! いつか僕という存在を切り捨てた事に後悔する筈だ! な、優君!」


 ……僕の隣に座っているのは、ギルドを首になってしまった浅野さんである。そして今いるのは僕の家だ。病院で待ち伏せされてそのまま自宅までついてきたのだ。警察に通報したら、無駄に高い身体能力で逃げ回って家の中に入ってきた。


 それだけなら通報して終わりなのに……


「浅野君、飲み物はお茶でいいかしら?」


 満面の笑みの母さんが、浅野さんを僕の友人と勘違いした。涙を流して、僕に友人が出来た事を喜んでくれる母さんを、僕と弟は説得できなかった。父さんも母さんと同じ考えだった。


「二人とも目を覚ましてくれよ! こいつ絶対におかしいって!」


 弟が、家の中でくつろいでいる浅野さんを指さすと、父さんが怒る。


「何をいっているんだ! 俺はあの女の時に理解した。人間は外見じゃない、中身だ。優を友人と認めてくれた浅野君に失礼だろうが【幸人(ユキト)】」


「そうよ幸人、浅野君をこいつ呼ばわりはいけないわ。折角、優にできたお友達なのよ」


「ハハハ、違いますよ。僕と優君は親友です」


 浅野さんの言葉に喜ぶ僕の両親。こんなに喜ばれると、どれだけ心配をかけてきたか分かるといい物だ。向こうにいる僕の事だが、何か複雑な気分である。


「外見はまともだけど、その中身がおかしいって! 騙されてるよ父さんも母さんも!」


 弟の幸人が、二人に食い下がるが効果が無い。浅野さんは、ギルドの宿舎を使っており、事故当日に追い出されたのだという。ギルドの損失が、浅野さんの借金という形になると行き場が無くなったのだ。一流でも貯金をほとんどしない浅野さんは、お金に困っている。


「一応、一流の冒険者なんですよね? 他のギルドに入るとかしないんですか?」


 僕の質問に、浅野さんは自信満々に答える。胸を張って、両腕を組んで立ち上がる。


「ギルドという組織を舐めない事だ。あいつらは、すでに僕の情報を他のギルドに流している。底辺のギルドで働く気も無いから、僕は優君とチームを組む事にしたのだよ!」


「……堂々としてるけど、それって兄貴の力を利用するって事だろう? 何で自信満々なのアンタ」


 呆れた顔をする幸人に、浅野さんはヤレヤレといった感じで首を振る。


「あぁ、あの強さは異常と言ってもいい。このまま行けば、きっと有名な冒険者となるだろう。だから僕は優君とチームを組むんだ。そうすれば、今まで日の目を見なかった僕という存在が、世間に知られるいい機会となる。僕が優君に経験と知識を提供し、優君は僕に舞台を用意する……つまりはギブアンドテイクといった関係だ!」


「やっぱりお前は最低だ」


 幸人が冷たい目で浅野さんを見下すと、浅野さんは気にする事なくその場で目立つ自分の事を想像して笑い出した。何で想像している事が分かるかというと、周りを気にしないで自分の妄想を口に出しているからさ。



「何だこれ!」


 数日後、家に泊まり込んでそのまま僕の部屋に住み着いた浅野さんを無視して、僕はPCでギルドの求人を探していた。そのまま必要技能なども確認していると、そこからどんどん進んで支援魔法関係のページを開いてしまった。


 そこまではいい。寧ろ、エッチなサイトに行きつかなかった事を褒めて欲しい。いや、そんな事はどうでもいいのだが、そのページに匿名で書き込みを行うサイトがあったのだ。


 そこに張り付けてある画像は、魔法教室で支援魔法を学んでいた僕の後ろ姿。そんな画像の下には、説明的な文章が書かれ、その後も僕の事について色々と書かれていた。長く、書き込みも多いから省略するとこんな感じになる。


『何と引きこもりの大谷が出てきました! 今はこいつと同じ駅前の魔法教室で受講してますぅ! 最悪……でも、この前本屋で会った時に、参考書を譲ってきて凄いキモかったw 私に興味持つとか死んでろよ無能w』

『マジで!? こいつ、そう言えば〇〇のコンビニでバイトしてた。ほんと底辺を這ってる感じが惨めw』

『この前の取材で話題出したのに外に出てたの!? 空気読んで閉じこもってろよカス』


 ……あの三人じゃねーか! 何なんだよあいつら。お前らの人生に俺は関係ないから、ソッとしとけよ。


 魔法教室で同じコースだった女に、コンビニで僕に気付いた男と、最後は佐竹真奈とかいうアイドルだっけ? いつまでも僕にこだわっているお前らの方が怖いよ。こいつらまさか、見下す相手を探してるとか? 暇だなおい。


 そのままその書き込みを見ていると、色んな人が書き込みをしていた。寝取り男と、寝取られ女も書き込みしてたし、一番腹が立ったのは家族の写真まで張っていた事だ! 無能の家族とか書き込みやがって、こいつら本気で腹が立って来た!!!


 僕はそのまま向こう側の僕に連絡する。


『……もしもし、凄く眠いんだけど』


「おい、お前の黒いノートに書いてあった奴らの事を調べたい。何か方法はあるか?」


『ちょ、待ってよ! あのノート見るとか引くわ。マジ引くわ……そりゃ僕が見ろっていったけど、そこは気を使ってみない所だろ』


 眠そうな声で黒いノートに反応する向こう側の僕。しかし、そのまま怒鳴りつけるように話を続けると、流石に僕が腹を立てているのが理解できたのか話を進めた。


『興信所を使う事も出来るけど、そこまでしても金の無駄。あいつらは、基本的に進学校出のエリートだから何かあっても君が負けると思うよ。だから掲示板に悪口書いて拡散してよ』


「なんでそんな事で復讐しろとか言ってんだよお前! それなら見返す方法は無いのかよ?」


『……基本的にそっちは実力主義だから、ダンジョンで一旗揚げるとか? 僕は興味ないけどね。今は仲間たちと会社を立ち上げて忙しいし』


「もういい! そこで腐ってろ」


 電話を切ると、横で寝ていた浅野さんが眠い目をこすりながら起きてきた。


「何だい優君? 何かあったのか……」


「浅野さん、人工島に行きたいんだけど」


 人工島、それは日本の海上にあるダンジョンだ。そこに人工島を建設した日本最大級のダンジョンである。冒険者の為の設備が充実し、娯楽施設も充実した楽園とも言われている危険地帯だ。犯罪率が多いのではなく、ダンジョンで死ぬ若者やベテランの冒険者が後を絶たない。


 日本最大のレベル8のダンジョン。それが人工島と呼ばれる場所の事だ。


「決心してくれたか『友』よ! ならばすぐに行って、僕たちの存在を世界的な物にしようじゃないか!」


「いや、そういうのじゃなくてさ。普通に小者共を見返せればそれで……」


「何をいうんだ友よ! そんなどうでもいい事は後で考えて、今は人工島で一旗揚げる事を考えようじゃないか!」


「どうでもいい事じゃない! って、聞いてます?」


 部屋にある荷物をまとめ始める浅野さんは、僕の話を聞こうとはしない。そして笑顔で言うのだ。


「さぁ、世界に僕と言う存在を知らせに行こうじゃないか!」


「それこそどうでもいいよ!」



 流石にその日に人工島へ行く事はしなかったが、三日後には準備を終えて向かう準備を済ませる。向こうでの住まいも、武器も道具も無いのに浅野さんは陽気なままだ。この人は本当に一流なんだろうか? 浅野さんを含んだ家族で駅まで行くと、そのまま見送りをしてくれた。


「頑張れよ優」

「すぐに帰ってくるなよ兄貴。……さぁ、母さんも」


 幸人に言われて俯いた母さんが泣いてしまった。僕が大丈夫だからと声をかけると、泣きながら言うのだ。


「いつでも帰ってきなさいね」


 ……僕まで泣きそうになるが、隣に浅野さんがいて泣くに泣けなかった。どうでもいいけど、空気を読むという事はしないのだろうか? 先に新幹線に乗るとか、お手洗いとか、選択肢は幾つもあっただろう!


「心配ないぞ家族の皆さん! この僕がついている」


 自信満々の浅野さんに言われて、納得する家族……あれ? もしかして浅野さんに洗脳されてる?


 新幹線に乗って、僕たちは海上の人工島と本土を結ぶ電車に乗り換え、そのまま人工島を目指した。巨大な橋が架かる人工島は、船着き場も飛行機の発着場まで整備されている。昔は何度も自然破壊を訴える集団が、抗議の為にデモを行ったらしい。今ではそんな人は見かけなくなった。


 時間にすると、二時間もかからず到着した人工島は、人の出入りが激しい上に駅が迷路みたいだ。何度か浅野さんと迷いつつも出口に到着した。


 最初に目にするのは、地下に続くダンジョンの上に存在するドームだ。巨大なドームを建設し、そこには政府が管理するために様々な公務員が働いている。治安維持のために警察官がいれば、もしもの時の為に自衛軍もいる。税務課も住民課も……要は大きな役場である。


 ダンジョンから溢れる資源を買い取り、それを各国に売りつけている場所だ。周りには様々な国の人が行き来して、海の上の大都市といった感じだろう。


「さて、気圧されている所を悪いんだが、さっさと宿を取ろう。ここは物価も本土以上に高いから、安くていい宿は空きがないと思ってくれ。最低限のホテルでも確保したい所だな」


 浅野さんに声をかけられて、そのまま歩き出す。周りでは僕と同じような若い連中もいる事から、冒険者やそれに関する仕事をするために来たのだろう。少し安心して、前を向いて歩く。


「それでここからが本題だ友よ」


「何ですか?」


「実は僕の愛用していた剣は、借金で奪われて装備も何もない。出来れば金を貸してくれ。いや、貸さなくてもいいから装備を用意してくれ」


「あんた、自信満々で丸腰でこんな所に来たのかよ! 僕だってそんなにお金なんか持ってないよ」


「何! それは仕方がないな……ローンで装備を用意して貰うか。あぁ、因みに僕はローンが組めないからよろしく」


「お、お前……」


 すでに僕の中では、浅野さんからお前扱いだ。期待していたら、その期待が早くも裏切られるというこの展開。溜息を吐きつつも、今は宿を探す事を優先した。



 そうして三時間ほど歩き回り、何軒ものホテルを探した結果……一日の宿泊費が三万五千円のホテルを探し出した。高いと思うだろうが、スマートフォンで情報を探し、現地でも探した中では中々に低い金額だ。黙っていても客が来る人工島のホテルでは、ビジネスホテル並みの施設でも四万円は普通にするのだ。


 最低金額は千円という所も確かにあるが、そこは命や荷物の心配が必要な所だ。安全面を考えると、どうしてもこれくらいの値段がしてしまう。


 立地が悪いのと、騒音がするのでこの値段である。最高級のホテルだと、普通に一日百万を超え、最上階の値段は庶民には聞かない方がいい値段らしい。


 ユニットバスにトイレが付いた三畳ほどの部屋だが、ここから始めるのも悪くは無い。そう思って、初日はコンビニで買ったおにぎりでお腹を膨らまして眠りについた。まぁ、問題は色々あるが、一番は床で寝ているこいつだろう。


「友よ、何故に僕が無条件で床に寝るのだ? ここは公平にじゃんけんをしようではないか!」


「黙って寝て下さい。それからこの部屋のお金は僕が出しました。公平に折半でもいいんですよ?」


「ひ、卑怯な……」

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