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履歴書を書いてみた

 この世界に来てから一年になるだろうか? アルバイトと駅前で魔法教室に、ジムに通って過ごしていた。いくつかの資格も取る事が出来たので、これならダンジョンに潜るためにギルドに加入できるだろう。基本的にギルドもピンキリだ。一流のギルドに入るためには、それなりの準備が必要となる。


 フリーランスとかいうギルドには入りたくない。条件は低くても、冒険者の扱いが酷いのでは命が幾つあっても足りない。


 そんな僕は、身体測定などを病院で行うとステータスの更新を行った。一年間の成果をこうして見ると、成長している感じがして嬉しく思うね。


【大谷 優】【22】【ランクB】【異能・自動全回復】【支援魔法・初】【銃器資格】【職業・戦士】【まだいける! まだ伸びるから頑張れ!】


 ……表示しているコメントは変わらないが、特技というか資格が増えてた。そして、今まで表示されていなかった戦士という職業も表示されている。これは、ある一定の条件を満たしたから表示されたらしい。つまり、管理している所が、これならダンジョンに潜っても大丈夫と判断したという事だ。


 産まれながらに職業を持っていても、使い物にならなければ安全の為に表示しない事を最近知った。というか、基本過ぎて誰も教えてくれなかった。職業は、基本的に施設で一定期間学ぶか、試験を受けないと表示されないらしい。認可制かよ……


 まぁ、僕が色々と資格を取っている間に、弟は自動車免許を取っていた。少しばかり弟が羨ましい。そう思いながら、僕はネットでギルドの入団試験を行っている所を探している。


 ギルドには、スカウトされて入る方法と、試験を受けて入る二通りの入団方法がある。スカウトの方が優遇されるが、そんな人間は一握りだ。通常は試験を受けてギルドに入るのが普通である。しかし、入団というとなんだかプロ野球みたいだな。


 そしてもう一つ、ギルドにも規模はあるが大きなギルドが一流かと言えばそうでもない。大きすぎるギルドでは問題も多く、少数精鋭では稼ぎには限界があるといった感じだ。そして一流といわれるギルドは、入団したい連中などいくらでもいる。そうなると、一流のギルドには中々入る事が出来ない。出来ないというか難しい。


 僕のように最低限の技能を持って、入団したいと言えば笑われるのが落ちらしい。笑われるのは嫌なので、僕は条件に合ったギルドを現在探しているのだ。異能があればもしかしたら、そう考えた事もある。だが、異能は確かにアピールできるのだが何でも僕だけの異能らしく、認知されていないという罠があった。だから、それ以外の物でアピールしなければならない。


「と言ってもだ。僕ぐらいの技能を持っている連中は多いし、底辺ギルドは避けられるけど中堅も厳しいかな」


 ネットで画面に表示するギルドのほとんどが、最低限に必要な技能と特出した特技を求めている。どんな人間でも求めているギルドは、ブラックと呼ばれる危険なギルドばかりだ。あくどい事をしているギルドから、経営難のギルドと幅広くブラックと呼ばれている。


「もう少し色々と資格を取ってから探そうかな? でも、今のままだと駄目になる気もするし……はぁ」


 PCをシャットダウンさせると、僕は部屋から出て一階の居間にいく。冷蔵庫から麦茶を取り出して、それをコップに注いで一気に飲み干した。今からでも取れる有力な資格となると、魔法教室関係になる。支援魔法・中級を取れれば少しはアピールできるのだが……本当に難しいのだ。


 初級の資格を取る時でも、二度も落ちた。試験を受けるだけでも数万円はかかる。資格が無くても魔法が使えれば問題ない! そうも思ったが、資格が無い者が魔法を行使したら犯罪である。それと同時に、ステータスに表示されなければ意味がない。


 僕は中級魔法が使えます! そういっただけで誰が僕の事を信じてくれる? そんな事を言って信じてくれるのは母さんだけだ。


「駅前にもう一度行くか?」



 そうして僕は、魔法教室の支援魔法・中級コースを受講する事にした。たださ……実際に受講しに行って問題に気付いたんだ。中級コースは難しいから、一般の学生や社会人も多いんだよ。それこそ高校生から社会人が受けているコースだ。


 会っちゃいけない奴等と会う確率も高いよね。実際にさ、あの黒いノートに顔写真の張られていた女子が僕と同じコースを受けている所だ。向こうは気付いていないのが救いだろう。実際にバレたとしても、僕はどんな顔をしたらいいんだ。


「大谷、ソウルが無いよ! 君のインスピレーションをもっと感じさせてくれよ!」


「先生、さっきはイメージさえあれば、何とかなるって言ってましたよね」


「流石大谷! 分かっているねぇ」


 前回のコースと同じ先生が、また担当になった。そのせいか、他の受講者よりも扱いがお互いになれている。恐る恐る元クラスメイトの女子を見るが、僕には気づいていないようなので安心した。イジメは、された方は忘れないけど、した方は忘れるんだよね。



 その日の帰りに、中級コースの参考書を買おうと本屋によった。普段から利用している本屋で、駅前から家に帰る途中にあるから便利なのだ。魔法関係の書籍の棚に行くと、そこには同じコースを受講した元クラスメイトの女子の姿があった。同じように参考書を買おうとしているのだろう。


 勉強熱心だな、流石は進学校出! よく分からないがきっと猛勉強しているに違いない。僕がそうだしね。


 そのまま参考書を探すと、当然二人の目的が同じだから同じ棚を探す事になる。僕は気付かれるかとも思ったが、向こうは大して気にしていない様子だったから問題ないと判断した。


 支援魔法の参考書は少なく、欲しかった物は一つしかない。ここは指が触れるべき所だろうか? そう思ったが、向こうは気付いていないので僕はすぐに目的の参考書を手に取ってその場から去ろうとする。すると……


「あ、あの、すみません。その参考書はどこにありました? あっ、一緒のコースを受講してた方ですよね」


 本を手に取った所を見られ、僕が同じコースを受講していたのは覚えていたらしい。このまま歩き去るのもいいが、今日は受講した初日である。これからしばらくは顔を会わせるのに、今から悪い印象を持たれても仕方がないな。


 そう思って僕は彼女の顔を見ると説明した。


「支援魔法の書籍自体少ないですから、これが最後みたいですよ。棚には無かったから、店員さんに聞いてみたらどうですか?」


 そういって頭を下げて、そのまま去ろうとしたのに向こうは食い下がる。僕の顔を見て何かを思い出したのか、ジロジロと見てくるのだ。ここに来て思い出されてもなぁ……面倒臭いな。


「あ、あのぉ失礼ですけど、どこかでお会いしました?」


「さぁ、僕はお会いした記憶はありませんけどね」


 こっちは急ぎたいのに、向こうはそのまま話を続けようとする。早く帰らないと、アルバイトの時間が迫ってきた。今日はどうしてもと、店長にお願いされているから遅刻もでいないというのに! そのままだと本当に不味くなるので、僕は参考書を彼女に渡すと逃げるように店を出た。


 時間を確認すると、走れば間に合う時間だ。参考書は買い損ねたが、あのまま元クラスメイトといても時間の無駄だし、得る物よりも失う物の方が大きそうだ。復讐なんかどうでもいいしね。



 ギリギリ時間に間に合うと、僕は店長と代わる形で仕事に入った。夜勤はお金はいいのだが、物騒だし生活習慣が崩れる。一年近くやったが、流石にそろそろ辞めたい。でも、お金は必要だし……そう思いながら仕事をしていると、今度は元クラスメイトの男子が現れた。


 今日はどうして特に会うのだろう? そう思ったが、ここは元々地元である。会う事が無い方がおかしいだろう。もしかしたら、今までも気付かないだけで会っていたのかも知れない。


 レジに入ると、そんな元クラスメイトを含んだ男三人の会話が聞こえる。狭いコンビニでは、今はその男三人しかお客がいないので、声が響いて聞きたくなくても聞こえてくる。


「マジで! そんな奴がいたの?」

「マジだって! 本当にそいつ寝取られてさ、本当に酷い顔してたんだぜ」

「うわぁ、俺なら死んでるはソレ」


 ……おいおい、話の内容的に僕の事じゃないか? 説明している男が元クラスメイトだし、聞いている連中は高校時代の写真では見た事が無い。今からでも相方に代わりたいが、運悪く倉庫で整理をしている。


 男三人が、そのまま品物を持ってレジまで来ると、僕はそれをバーコードで読み込んで合計金額を告げる。


「千三百五十円になります」


「それでそいつの名前はなんていうの?」

「今でも引きこもってるんだろう」

「あぁ、大谷って……あれ?」


 金を財布から出した男が、僕の言った金額を払おうとしたと同時だろうか、僕の名前をいいながら僕のネームプレートを見ている。あぁ、なんて間が悪いんだ。


 しばらく知らない振りをして、レジからお釣りを取り出して渡す。だが、向こうは僕の顔をマジマジと見ている。今日は厄日だろうか? ここは逃げたら帰って怪しまれる。だから僕はそのままその男に知らないふりをして聞いてみた。


「どうかしましたか?」


「いや、大谷って名前だからさ。お前、もしかして同じクラスだった大谷?」


「おいマジかよ!」

「スッゲェ!」


 盛り上がる二人と、真剣に見てくる元クラスメイト。しかし僕は事実しか告げる事は無い。


「さぁ、僕はお客さんと同じクラスだった記憶がありませんけど……小学校とかですか?」


 とぼけている訳ではない。僕の高校時代に、目の前にいる男子は同じクラスでは無かったのだ。そもそも、僕は家族を失くしてからは、この世界の僕とは違う環境である。進んだ高校ももちろん違うのだ。


「何だよ、人違いかよ。つまんねーな」

「行こうぜ」


「あ、あぁ」


 そう言って店から出ていく三人に、僕は笑顔でありがとうございました、というのだ。今回も無事に乗り切ったぞ!



 色々と頑張って、今の僕は【支援魔法・中】を覚える事が出来た。基礎をしていたからか、中級は意外に早く資格を取る事が出来たのだ。これで準備も終わり、いざダンジョンへ……と行きたい所なのだが、問題が発生した。景気のいい現在の日本では、大学生の就職活動というのは売り手市場である。


 つまりは、大学四年生から就職活動をしても十分に間に合うのだ。そして僕の年齢は現在二十二歳! 高校時代のクラスメイトと出会う事は無いとは思うが、最近でもそう思って二回も出会った。一人に関しては受講するコースで必ず会うのだから、結構な頻度で出くわしているとも言える。


 その話は置いておくとして、僕は用意した数枚の履歴書を見ていた。ギルドに送る履歴書だが、こうして見ると普通の就職活動に思えるから不思議である。


 現在希望しているギルドは、【蜃気楼(シンキロウ)】か【ブレイド】というギルドだ。若干名前には言いたい事もあるが、ほとんどがこれと同じような名前である。そんな事を気にしていても始まらない、そう頭を切り替えてこの二つに絞り込んだのだ。


 人気、実績、ともに中堅と言える安心できるギルドだと思っている。最近では新興ギルドの【トライデント】が有名なのだが、あそこは若手ばかりが多くて何とも言えない。実力者はいると思うが、それだけでこれからも安心かどうかも分からない。


 新興ギルドは一時は盛り上がるが、その後はいつの間にか消えている事が多い。特に、トライデントは悪い噂も多いため信用できない。


 そう思って二つのギルドを選んで履歴書を送った。


 数日後、二つのギルドから封筒が届いた。中身は……書類審査で落ちた通知と履歴書が入っていた。


「何でだよ!」


 僕は二つのギルドに、何が悪かったのか聞く事にした。電話ではなく、メールで確認する事にして返信を待つと、二つとも同じような文章のメールが届いたのだ。


『自動全回復という異能が怪し過ぎる。本当にそんな異能があるのですか? また、あるのならどうしてそんな安易なネーミングなのでしょう? 失礼ですが、書類の偽造を疑い落選とさせて頂きました』


 …………おい待て! あの医師が勝ってに名前をつけたせいで、俺の異能が足を引っ張てる!!! これは本当に想定外の事だ。まさか、技能を得る前から詰んでいるとは思わなかった。


 こうして僕は、ギルドに入る所でも躓くのだ。まさか頑張る前か結果が同じだとは……どうしよう? いや、本気でどうしたらいいんだよ! 今から違う道を目指した方がいいのだろうか?

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