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録音してみた

 エイトギルドの残党とも言える連中に、僕たちは罠にはめられた。……そういう事になっている。実際は、最初から計画を知っており、それを利用してエイトギルドを殲滅する計画になっていたのだ。門番の部屋にいない他のエイトギルドの連中だが、そちらも複数のギルドが動いて殲滅に乗り出していた。


 僕たちを担当するエイトギルドのメンバーは、上手く情報操作されてエイトギルドの凄腕たちは他に出払っている。金のいい仕事を餌におびき出したり、運良く情報を得た数少ない連中は手を貸さない事を誓い、最後はこの瞬間にも他のギルドから襲撃を受けている。


 つまり、相手の戦力に優秀な冒険者はいないのだ。


「お前ら俺たちを舐め過ぎなんだよ! そこの年増の囲っていた男も、今じゃ骨抜きだ。それによ大谷……お前の家族だって俺たちの手の中なんだぜ?」


「……」


「そんな、大谷さんの家族を人質に取るんですか!」

「聞き捨てならないな。僕もそれには腹が立つぞ、小物」


 一之瀬さんと浅野の言葉受けて、喜んだ顔をする寝取り男。スマートフォンを取り出して、家族の声を僕に聞かせようとしたのだろう。電話をかけてわざわざ通話をハンドフリーにしてきた。


『……おい、誰か出ろよ』

『えぇぇ、俺は嫌だなぁ』

『それよりも相手って誰だよ』

『ヤバいなぁ……一人くらい生かしておけば面白かったのに』


 通話からは笑い声らしき物も聞こえるが、その声を聞いて寝取り男が急に慌てだす。連絡を取っていた連中の声でないとすぐに分かったらしい。こいつが喜んで僕の家族を襲撃する事を計画していたのも、僕は事前に知っていた。


「お前ら誰だよ!」


 場に似合わないやり取りを始める、寝取り男と電話の向こう側の連中。向こうにいるのはライトファングのギルドメンバーだ。


『てか、お前が誰だよ』

『馬鹿、ほら幹部の息子だよ。あのボンボンに決まってるだろうが』


「ふざけんな! 俺にそんな口を利いていいと思っているのか!」


『あ?』

『うわ、腹立つなこの馬鹿』

『おいおい、可哀想な奴なんだから、お前らもっと優しくしてやれよ』


「テメェ!!!」

「……もういいだろう? みなさん、どうもありがとうございました。後はこちらで片付けます」


 僕が会話に割り込むと、電話の向こうから頑張ってねぇ、などという気の抜けた声が聞こえてきた。そのまま向こうから通話を切り、そのまま黙ってしまう寝取り男。広い空間には、未だに人を襲わない魔物や門番が低いうめき声を上げるくらいだ。


 そうしていると、幹部らしき白髪交じりの髪をした男が前に出てきた。さっきまでの余裕はない事を考えると、大体の事は想像がついたらしい。


 その後ろでは、別で動いている仲間に連絡する連中も慌てている。罠をはったつもりだろうが、これは戦力を分散させて襲撃する計画だったのだ。


「いつからだ! いつからお前たちは……今の今まで、情報だって正確に入ってきていたというのに!」


 現状、追い詰められたのが自分たちだと気付いた幹部らしき男。そんな男が僕を睨みつける。混乱しているのだろう、何をもって正確と判断しているかは分からなかったが、僕には答える義務もない。黙って左手に意識を集中すると、僕の真上に巨大な穴が現れる。


 そこから這い出てくるように、黒い霧に包まれた巨人が上半身を出してきた。幹部になったら、冒険者として働かなくなる人もいる。それが間違いとはいわないが、感覚というものが失われていくのだろう……僕の巨人を見て震える魔物たちと違い、人間は嬉々としている。


 ダンジョンから離れて長いのだろう、昔の実力はその幹部には無かった。


「ば、馬鹿め! 貴様の木偶の坊に対策を考えていないとでも思ったか!」


 そう言って現れるのは、複数の門番たちだった。イモリ、蛙、蛇ときて、四十階層で見た蜘蛛まで現れた。流石に驚いたが……四匹の門番たちは、まるで怯えるように僕の巨人を見ている。


「驚いたか屑野郎! こいつらは特注の札で封じ込めた門番たちだ。値は張るが、こうして従える事が俺たちには出来るんだぜ!」


 寝取り男の声も五月蝿いから、僕は黙って四匹を見る。そうしていると、巨人が僕を守るかのように左腕で僕たち五人の前に腕を置いた。遮られる視界と、光り出す巨人の目。銃声が聞こえ、巨人に弾丸の嵐が降り注ぎ魔法まで襲い掛かる。


 壁際まで後退して、巨人の左腕を壁にした簡易な要塞と言える。


「な、何なんだよこれは……」


「村田、覚えておきなさい。これが大谷の切り札よ。ただ、無暗に言い触らさない事を勧めるわ」


 脅すような口調で木崎さんが言うと、巨人の右腕が門番の一匹を掴んだ。持ちあがる門番は、そのまま空中で身体の一部を握り潰される。そうして出来た巨人の隙をついて、エイトのギルドメンバーたちが左腕の内側にいた僕たちの下へ攻め込んでくる。


 そのまま銃撃戦へと移行するが、弾丸から強化スーツの力場で守られている事もあって決め手に欠ける双方。最初に飛び出したのは浅野だった。強化スーツの力場……バリアは万能ではない。元からの特殊素材による防御と、バッテリーを使って表面の防御力を強化している。


 普通の銃では、ビクともしない強化スーツ。しかし、近接用の武器と言うのもそれなりに進歩している。特別仕様の近接武器なら斬りさく事が出来るのだ。そして、浅野はその武器を持っていた。


 右手には特注であろう飾り付けられた剣を持ち、左手には予備のナイフを握りしめている。飛び込んだ先では、一人を剣で斬りさいてナイフをもう一人に突き立てている。


「あ、あの変態、やりやがった……」


「村田! 私の後ろに下がりなさい! 一之瀬さんは魔法で牽制して!」


「は、はい!」


 動き出した全員を見た後、僕も敵に向けて駆け出した。人相手にはどうしても後れを取る巨人だが、それは戦い方次第である。両手にメイスを握りしめ、僕はそのまま全力で振り抜く。魔物で経験した血肉を破壊する感触に、魔物以上に不快感を覚えた。


 敵が来る方向は分かっており、混乱して逃げるように向かってくる連中を、僕たちは複数で叩く事で優勢を維持し始める。それは一方的ともいえる戦闘だった。時々飛んでくる手榴弾も、一之瀬さんの魔法で左腕の向こう側に弾き飛ばされて敵が被害を受ける。


「同士討ちとは嘆かわしいな」


 剣を敵から引き抜きながら言うと、斬られたエイトのギルドメンバーは悔しそうに呟いた。


「このやろ……う……」


 浅野の対人戦の実力と言う物を始めてみたが、その辺の冒険者とは桁違いの強さを見せつける。素早く移動して切るだけというシンプルな戦いだが、その全てが一撃で決まっているのだ。無駄の多い僕と違う。流石は元一流の冒険者だ。


「た、助けてくれ! 俺たちは騙されただけなんだ! アンタたちが相手だなんて知らなっ!」


 目の前で命乞いをする敵を、木崎さんがライフルで仕留めた。中層でもお目にかかれない特殊なライフルで、低階層や中層で活躍する冒険者の強化スーツに、傷を付けるどころか貫通すらする凶悪な代物だ。その分値は張るらしい。


「残念ね。自分の不運を呪いなさい」


 侵入してくる敵も少なくなり、門番たちとの戦闘も聞こえなくなる。巨人をそのままにして、僕は不用意である事は理解しながらも巨人に守られた場所から出る。辺りでは巻き添えを食った冒険者のうめき声や、生き残った魔物が僕に襲い掛かってくるくらいしかない。


「大谷さん、戻って!」


 一之瀬さんの声が聞こえるが、仲間が引き留めているのだろう……巨人に守られた場所からは出てこれない。


 中層にいるような魔物を従えさせて、いい気になっていたのかも知れない。だが、結果はこの通りだ。


「ば、化け物が!」


 寝取り男のハンドガンの弾丸が僕に向けて放たれるが、全ては避けるまでも無かった。特殊なヘルメットをかぶると、僕はそのまま歩き出す。


 すると今度は、寝取り男とは別の方から強化スーツの力場を突き破る弾丸が、僕を貫いた。そのまま反動で吹き飛んだ僕に、そのまま弾が尽きるまで弾丸を浴びせる。撃った人間は、どうやら寝取り男の父親らしい。


「貴様ら……よくも……」

「パパ!」


 足を怪我した幹部らしき男。自分の身体を貫いた弾丸の痛みに、僕は苦痛に顔を歪める。痛い……痛いが、これで自分なりに理由が出来た。踏み出せるだけの言い訳を手に入れた。頭を守るための特注のヘルメットを用意して、強化スーツも防御面に特化した物を装備していたおかげだろう。


 首元をガードしたせいで、左手のメイスが吹き飛んだのはミスだった。そのまま立ち上がる僕を見て、今度は親子が顔を歪めた。


「ヒッ!」

「パパ、何とかしてよ!」


 吹き飛んだ衝撃で落としたメイスを拾うと、そのまま二人に向かって歩き出す。まさか生き残っている連中に、この二人がいるとは思わなかった。嫌な縁がある物だ。僕は黙ってボイスレコーダーを用意する。


「待ってくれ、いや、待って下さい! あの女の事は謝ります。家族に手を出そうとしたのも謝りますから、命だけは許して下さい!」

「す、すまなかった! 過去の事は色々とあるだろうが、許して欲しい! アレは確かにやり過ぎた……だ、だから、謝罪を受け入れて欲しい。この通りだ!」


「……」


 僕が黙っているのが、ためらっているとでも思ったのだろう……二人は更に命乞いをしてくる。


「あの女はすぐに返す! い、今じゃ価値は無いかも知れないが、それなりにいい女ではあるし、何より何でもする都合のいい女だ! 絶対に気に入るから!」

「君の学歴についてもわしから何とかしてやる。知り合いがいるから、彼らに頼めばすぐにでも高卒の資格を得て大学も行けるぞ? どんな大学だって通わせるから心配ない!」


 いや、元から寝取られた女には興味が無いし、そんな学歴を得ても今更な感じだ。それに、目の前にいる幹部である男には、そんな権力はもうないだろう。それを知っていて命乞いをしているのなら、反省などしていない証拠だな。


 僕はこれぐらいで良いか、そう判断してボイスレコーダーを止める。二人が期待するように僕を見て来るが、僕の答えは最初から変わらない。


「正直言って興味が無い。僕には関係ないからね……手を出さなかったら、放置してもよかったんだよ。たださ、僕の家族に手を出した事が許せないだけ」


 そのまま両手のメイスを全力で振り下ろした。



「と、いう訳で色々とあったけど無事に復讐は完了したから」


 あの出来事から一月たち、僕の中で区切りがついたので向こう側の僕に連絡を入れた。復讐を誓っていた割に、臆病でネットで悪口を拡散しろと言ってきたもう一人の僕。電話の向こうでは、ようやく理解したパソコンで音声データを送信したのだ。


『うん、なんて言うのかな……ここまでするとドン引きするよね』


「何いってんのお前! お前だって復讐しろとか言ってただろうが! こっちはついでにお前の為に音声を残してやったんだぞ!」


『い、いや、それはありがたいと言うか、迷惑だけど……もう一人の僕が野蛮で驚いているよ』


「それより約束は守ったから、お前も僕の約束を守れよな」


『何だそれ! 約束なんかしてないじゃないか!』


 そう、約束なんかしていない。だが、こっちはお前のせいで色々と大変なのだ。少しは苦労しても罰なんか当たらない筈だ。


「いいから約束をしろ……そっちで助けてくれた親戚や知り合いがいるから、その人たちを大事にしろ。僕の約束はそれだけだ」


『……分かったよ。それよりも、君の口座の暗証番号を教えてくれないかな? 今厳しくてさ』


「お、お前、会社はどうした!」


『じゅ、順調だけど、今は苦しいんだよ! 色々とやりくりして大変なんだから、少しくらい協力してくれても』


 僕はそのまま電話を切ると、スマートフォンをベッドの上に置いた。自分も横になると、そのまま天井を見る。


 この一月の間に色々とあった。人を殺した事で、浅野と木崎さん以外が精神的にきつくなってしばらくダンジョンへは探査なし。休もうとも思ったが、木崎さんの提案で集中的に勉強する事になった。僕は上級の支援魔法を習得に向けて、村田さんは治療魔法初級を勉強中である。


 それと同時に、また激しい身体の痛みを経験した。木崎さんも三日目くらいまでは、動くに動けない程の痛みを経験したらしい。それなのに、チームでは浅野だけが身体のキレが悪い、と言う程度で済んでいる。


 現在では、数回程度のリハビリ感覚でダンジョンに挑むようになっている。金を稼いでいるからまだいいが、人工島は出費も馬鹿にならない。滞在するだけでお金がかかるのだ。いつまでものんびりは出来ない。


 一之瀬さんや村田さんも、一度は凄く落ち込んでいた。忘れるように勉強に打ち込みだしてからは、笑顔も出るようになったのだが、最初は酷かった。このままチームを抜けると言い出すとも思ったのだが……結局は踏みとどまっている。


 村田さんには、どうしても稼がないといけない理由がある。ただ、一之瀬さんの理由がいまいち理解できない。僕を意識しているとか? ……ないな。確かに一之瀬パパには勘違いされているだろうが、一之瀬さんはその辺りの事を確認していない。


 お互いに休憩所の一件で、意識はしているがそこまでだ。……そう、そこまでであって欲しい。


 これからも色々あるだろうが、僕はこの世界で生きていく事を受け入れている。前の世界が懐かしいとも思えるが、今では少し、いや、大分向こうの自分に感謝しているのかも知れない。まぁ、経緯を考えれば、素直に喜べないけどね。


 だって、平行世界の自分がニートで屑だとか、認めたくないじゃないか!

 色々と思う所があり、打ち切りという形にする事にしました。見切り発車で、グダグダになりつつあるのが理由ですね。話的にもう少し練ってから出直します。


 改訂する事も考えたのですが、一度消してしまって後悔した事もあるので、区切りのいい所で完結にさせて残す事にしました。


 次回は、設定を引き継ぎつつ三人称で進めようと思います。ここまで読んで下さった方には申し訳ありませんが、勝手ながら完結とさせて頂きます。


 沢山の感想、ご指摘、大変ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人が面白くてよかったけどなぁ‥ 続きがどこかで見られることを祈ってます(´・ω・`)
[一言] 久しぶりに読み返したけれどリメイク版を読んでみたいな……もっと長くても面白そう。
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