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罠にかかってみた

『聞いたか、佐竹の奴がテレビ業界から干されたらしいぜw』

『もう旬が過ぎてたし、それよりもその情報が古い』

『あれだろ、例の不祥事で護衛対象全滅させたって奴』

『あれって大谷が出てたよね?』

『俺の所属しているギルドで、大谷との関係をかなり聞かれた。まぁ、知らない振りはしたけどさ』

『絶対にバレるだろそれ? お前も底辺行だなw』

『最近は大谷の情報来ないね?』

『元から佐竹が粘着してたし、自分の子分を使って情報集めてたしな』

『エイトのランクって、今はCクラスだろ? それってヤバイの?』

『ヤバイっていうか、中堅でも下のクラス。それ以上に見せしめの意味が強いだろアレは』

『規模も縮小しないといけないんだっけ?』

『そんな決まりないよ。ただ、優遇されないから縮小する方向に行くだけ』


 ……最近の書き込みには勢いがない。以前は、そんな所まで見てるんじゃねーよ! そう言いたかったくらいなのに、今ではポツポツと書き込みがされているだけだ。


 今では全く関係ない書き込みまで増えている。何故だろう……それにも腹が立ってきた。お前らもっと反省する事があるだろう! そう書き込みたい衝動を抑えつつ、僕はテレビの電源を入れて気を紛らわそうとした。テレビでは、連日のギルド同士の争いを面白そうに報道している。


 今日も胡散臭い専門家を招いて、司会者が話をしていた。


『トップギルドになると、様々な優遇処置があります。それを狙って、中堅も新興勢力のギルドも今は激しく争っている事でしょうね、〇〇さん』


『そうですね。ただ、エイトから抜けた実力者たちは苦労しているそうですよ。人が欲しい筈のギルドも、エイトの関係者にはスカウトをしたがらない。まぁ、風評と言う物もありますが、そうなると新人を引っ張ってくるしかない訳ですよ』


『企業も新たにAクラスになるギルドとの繋がりを持とうと必死ですし、今後も目が離せませんね。若い冒険者に期待できますか?』


『私的には今一番の新人はこの子です』


 そう言って専門家が出したボードには、女性冒険者数名の事が色々と伏せてありながらも紹介されている。他のコメンテイターからも、可愛いとか美人ですねとか声が挙がっていた。……不味くないかコレは? いや、最初から仕組まれているのかも知れないけどさ。


『特に、この子は逸材ですよ』


 そうしてフリップを新たに出して紹介した冒険者は、生徒会長だった。いや、今は大学を卒業していたから生徒会長ではないけれど、黒いノートに記された人物。そう言うとなんか格好いいな。実際は復讐を誓った引きこもりのノートなのに。


 今では、多少赤みを帯びた髪をした綺麗な女性になっている。映像では全身は表示されないし、分かるのは顔だけだ。


『おぉ、また美しい冒険者ですね。〇〇さんの好みで選んでませんか?』


『多少ではありますが、確かに贔屓は有りますね。何しろ可愛い、美人な冒険者は貴重ですからね。因みにこの子は現在は『トライデント』に所属しています。新興のトライデントですが、しっかりと人材を揃えている事を考えると、もしかするかも知れませんよ』


『成程、これはますます面白くなってきましたね』


 テレビを消して僕は一言呟いた。


「面白くないよ」



 それから数週間、僕たちは周りが慌ただしく動き出している中でのんびりとは行かないまでも、無理はしない程度に頑張っていた。五人になると出来る事が増えるので、一回の探査でもより稼げるようになる。これが人数が増えすぎると効率が落ちるのだから、本当に難しい。


 下手に人数を集めても稼げないのでは意味が無い。そう言う意味では、少しずつでも加入していく方が安全ではあるのだ。


「村田ぁ……未だに銃器の資格を取っていないのは何でかしら?」


「い、いや、木崎さん、これは何と言うか、実技は問題ねーんだけど、筆記が……」


 いつも強気の村田さんも、ここ最近では木崎さんに頭が上がらなくなってきている。


「三回落ちても、まだそんな言い訳をするの? 次に落ちたら、受験費用はアンタの分け前から引くからね!」


 割とチームにはなれてきたが、ついて来るのがやっとな状態だ。その上、終われば勉強もしなければいけない。これでは可哀想とも思うが、木崎さんは逆の感想を持っている。


 勉強できる時にしていない村田が悪い、そう言うのだ。まぁ、そうなのだろうが、村田さんに味方をしたくなる僕も、実際は勉強を疎かにしていたから何とも言えない。この平行世界に来てから勉強できたのは、家族が生きていてくれたおかげと言うのが大きい。


 最近では、村田さんが怒られてから解散するのがパターン化してきている。そうして別れると、一之瀬さんと村田さんをホテルまで送った後に木崎さんから呼び出された。


 居酒屋の個室で、人目を避けるように会う僕と木崎さん。密会している雰囲気はあるが、話の内容はちっとも嬉しくない。エイトギルドが、最近僕たちの事をつけまわしていると言うのだ。それも、僕の事を目の敵にしているという。


「色々とこちらでも調べさせて貰ったわ。言わせて貰うなら、君の過去も今回の件も君自身は悪くないわ。けどね、嫌な連中に目を付けられたのは確かなのよ」


 数枚にまとめられた資料を手渡されると、そこには寝取り男の事が書かれていた。幹部である父親が、人手不足で人工島に呼び出しているというのだ。こいつ自身には思う事も少なく、手を出してこないなら放置でも僕は問題なかった。そう、問題なかったのに……


「私的な理由で探偵を雇ったけど、こうして見ると色々と動いているのが分かったの。それで結論から言うと、こいつらを潰す事になったわ」


 私的な理由……元彼の事か。口ぶりからすると、元彼の事もこいつらの復讐の一環のようだった。それよりも潰すと言う表現が怖い。


「そこまでしますか?」


「君は甘く見過ぎているわね。実際に私も舐めていたわ。ライトファングに所属していたら、私は彼を取られなかった筈だけど、奴らは行動した。偶然かと思ったけど、結構陰湿な連中なのよね……恨みもあるから潰したい気持ちがあるのは認めるけど、君も仕返しの対象だって分かってる?」


 木崎さんが淡々と説明する内容に、僕は背筋に寒気を覚えた。寝取り男の父親も、同じような屑だったのだ。仕返しの対象に僕の家族が含まれていた。


「人質を取って、無理やり加入させる事も視野に入れているみたいね。一之瀬さんの情報が得られないのを怪しんでいるけど、君の情報は相当向こうに渡っているわよ。君とお嬢様を自分たちのギルドに引き込むか、それとも八つ当たりで消そうとしているのよこいつら」


 数枚の書類を握る手に力が入り、僕は書類をくしゃくしゃにしてしまった。


「言っておくけど、君が動かなくてもライトファングが動くから何も問題ないわ。でもね、ギルドマスターは、君に大事な物を守るだけの度胸と実力があるのか、を見極めたいらしいの。その為の試験だと思えばいいわ」


「……随分と酷い試験ですね。人を殺せって事でしょう?」


 僕の言葉に、木崎さんは表情を変える事は無かった。綺麗事が通じない所があるダンジョンで、人間同士の殺し合いなど日常茶飯事と言える。法では禁止されていても、ダンジョンに警察と出会う事など宝くじを当てる方がまだマシな確立だろう。


「殺さなければ、ギルドマスターとライトファングのメンバーがそいつらを殺すだけよ。それにね、こういう連中は他のギルドにとっても邪魔なのよ。裏のギルドも、こいつらのやり方で相当損をしたらしいから、こいつらを消すのに文句は出ないわ。まぁやらないならそれもいいわよ。人殺しを嬉々として行って貰っても気味が悪いし」


 頭の中では理解したつもりだったが、こうも現実を突きつけられるとためらう自分がいる。家族に手を出す連中に、慈悲など必要ないと思う自分。人を殺してはいけないと言う感情が僕を悩ませる。だが、天秤にはかりをかければ、当然家族の大事だ。


 それにだ、僕にはこいつらを自分の手で殺したいと言う感情が芽生えていた。綺麗事を抜きにして考えれば、殺しに来ている連中を許しておけるほどに僕は聖人ではないし、ましてや家族の命がかかっている。他人に任せてはおけなかった。……二度も失いたくはなかったのだ。


「……やります」


 僕の答えを聞いて、木崎さんはタブレット端末を取り出して説明を始める。心なしか、僕の事を心配してくれている感じがした。説明する時に、いつもの厳しい口調が無かったからそう思っただけだが。


「なら向こうの計画を話すわよ。ここはライトファングのメンバーが見張っているから、安心して話せるわ。でもね……ここを出た後は敵がどこに潜んでいてもおかしくないの。作戦はこの場で覚えて。メモも分かりにくい暗号にするか、残さない方向で……この場で覚えるのがベストね」


 そのままエイトの復讐計画を話し始める木崎さん。不確定要素も多いが、そこは試験だと思うようにと言われた。護衛として動くライトファングのメンバーも、一之瀬さんの危機以外は動かない事をここで聞く。きっと一之瀬パパも苦渋の決断をしたのだろう。


 何が起こっても、一之瀬さんだけは助かる事は確実だ。木崎さんもそう言っていた。



 それから更に数週間たった頃、僕たちは普段通りに行動している。村田さんは巻き込みたくなかったが、木崎さんは別行動する方も怖いし、メンバーを特別扱いする事は出来ないと言って参加させる事になる。少しでも生存確率を上げるために、チームの資金から装備一式を購入させた。


「俺もこれで一人前だな」


 喜んでいる村田さんに、最近ではよく話す浅野が絡んだ。二人は意外と同レベルなのかもしれない。……何と言うか中身が。


「ハハハ、装備をしただけで一人前かい不良女よ。それなら僕は世界一の冒険者になっているね」


「何だと変態!」


「貴様! 僕を変態と言うのか? ふん、まぁいい……凡人には理解されない天才の苦悩と言う奴だな」


「お前、本当に頭の中身は大丈夫かよ?」


 低階層の後半、三十階を前にして余裕を見せる僕たち。そんな僕たちをつけている集団に、僕と木崎さん以外も気付きだした。最初は情報を求めてつけまわす連中だと思った浅野だが、次第に雰囲気が変わってくる。


 この計画を知っているのは、僕と木崎さんだけだ。他の三人は理由があって知らせていない。浅野は馬鹿だから論外として、一之瀬さんにライトファングの事は話せない。そして、村田さんは知らせて逃げられても困ると木崎さんが判断した。


 捕まって人質にされるのを嫌がったのだ。それに、この計画後に抜けると言うなら、抜けて貰っても構わない。そう言っていた。


「……なんだか今日は特におかしいな。友よ、今日はこのまま帰還しないか? 嫌な予感がする」


 流石に腕は確かなだけはある。敵を前にして何かに気付いた浅野に感心しつつ、僕はそれを断る事にする。今日は三十階層の門番を倒す事がノルマにしてあるのだ。その理由は、僕たちが今日、ここで門番を討伐する事を知らせたからである。


 敵を呼び込んでいるのだ。


「浅野の勘は信じるけど、ここから逃げる気はないよ。それから……全員準備をしてね」


 僕の言葉を聞いて、全員が武装の準備をする。浅野だけが首をかしげたが、文句をいわずに武器を用意してくれた。少しごねると思っただけに、これはありがたい。


 木崎さんの方を見れば、黙って頷いてくれた。それは計画通りと言う事だ。エイトのギルドメンバーが、三十階層の門番の部屋で待ち構えている事を示している。


 僕たちは黙って三十階に降りる階段を降りると、そこには暗い部屋がある。ダンジョンの中で迷路でも通路も無い部屋は、門番や初心者殺しの部屋である。後は、トラップで大量の魔物がいる部屋であろうか? そうして僕たちがその部屋に入ると、入り口の扉が閉まった。


 普段はこうすると部屋が明るくなり、門番が一匹出てくるのだが……今日に限って言えば、部屋は必要以上に明るくなり、門番らしき魔物の他にも、多くの魔物がひしめいていた。


「よう、久しぶりだな屑野郎」


 ドーム状に広いその部屋で、奥の方に位置する場所にいるのは、あの寝取り男である。その周りにはエイトのギルドメンバーにニヤニヤした雇われた連中だ。最初から情報で、ろくでもない連中を雇ってくるだろうとは予想していたが、思っていたよりも数は少ない。


 そして、そんな寝取り男の後ろには、エイトの幹部らしき男たちが数名いた。こちらを見ながら、苦々しい表情をしている。


「お前のせいで俺たちの面子はボロボロだ。だからよぉ……お前に助けて貰う事にしたんだ。お前やそっちの女には、これから俺たちの為に働いて貰う」


「大谷さん、何を言っているんですかあの人は?」


 状況に理解できない一之瀬さんがオロオロとしているが、それ以外は武器を構えて戦闘態勢を取っている。寝取り男の言葉を聞きながら、僕は段々と不快になっていった。


 村田さんはただならない雰囲気に息をのみ、浅野は慌てる事無く武器を構えている。


「成程な……意地が悪いじゃないか友よ。知っていたのだろう?」


「お、大谷さん?」


 浅野の言葉に一之瀬さんも、僕に答えを求めて来る。そんな二人に木崎さんが厳しい口調で口を出す。


「二人とも戦闘よ。それから村田、アンタは生き残る事を考えなさい。出来るだけ私の後ろにいるように……でないと死ぬわよ」


「う、うっす!」


 ニヤニヤと笑っている寝取り男やその他の連中。彼らの奥の手も僕たちは知っている。そして、彼らがその奥の手を過信している事も、僕たちは知っていた。


「……関わらなければ、殺す事も無かったのにな……」


「ああ? 今なんていった屑野郎!」


 持ちなれない事が分かる、ハンドガンを向けてきた寝取り男。黙って僕も準備を始めた。

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