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新人教育してみた

【村田 早紀】【16】【ランクB】【無し】【パンピー!】


 公園で出会った少女、村田 早紀(ムラタ サキ)さんのステータスは、見事に一般人と言える物だった。十六歳で技能を求めるのは酷かもしれないが、こんなステータスで人工島に来るなんて自殺行為に等しい。どうしてこんな所に来たのかを聞けば、金が要るという当然な理由しか話さない。


 僕が声をかければ、渋々ながらもステータスを記載した書類を見せてくる辺り、常識も無いらしい。以前の僕を見ているような感覚になり、僕は彼女をスカウトしてみたいと思った。人工島に来てからは、荷物持ちのアルバイトをして生活費を稼いでいたらしい。


 結構たくましい少女で、オレンジに染めた髪から分かるように元不良だった。そんな状態でこの人工島に来たものだから、騙される訳で……


「一日の報酬が一万円!? ないない、そんなの絶対にないよ! こんな危険な所で荷物持ちをして、本土と変わらない賃金なんてぼったくりもいい所だよ!」


 僕がこれまでどうしてきたかを聞くと、厳しい生活の話を聞く事になる。だが、それ以上にこき使われ過ぎて哀れになってきた。


「で、でもよ、中卒はこんなもんだって!」


「荷物持ちに学歴なんかいらないよ。どれだけの荷物を運べるかが重要なんだから……低階層前半にいる冒険者は荷物持ちは必要ないし、後半にいる連中はそれなりに稼げるからもっと貰うのが普通なの! それとも荷物を持つ量が少ないとか?」


「ふざけんな! こっちは大人の男と同じ量を運んでるんだ! 楽なんかさせて貰った事もねーよ。くっそ、ふざけやがってあの女……」


 過去の仕事を思い出したのか、悔しそうにする村田さん。可哀想だが、ここでは騙される方が悪いと言う風潮だ。しかし、騙すのは普通に良くない。綺麗事でなく、今後の仕事に影響するからである。何度かはそれでもいいだろう、騙してお金を儲ける事が出来る。しかし、現代ではネットと言う物があり、そうした悪い噂はすぐに広がるのだ。


 あそこは金払いが悪い、そうした噂が流れると人が集まらなくなる。そうして段々と悪い方へ流れていくしかなくなるのだ。人が集まらないから借金の肩代わりで奴隷のような人間を集め、最後には自分たちの首が回らなくなる連中も多い。


「それに村田さんは技能が無いよね? これでこの先どうするつもりだったの?」


 僕が村田さんのステータスの事に触れると、村田さんは凄く不機嫌になる。どいつもこいつも技能、技能と言いやがる。そんな事をブツブツいいながら、自分の考えを話し出した。


「そんなもんは、ダンジョンで魔物を倒して認められれば問題ないんだよ! アンタみたいな技能に拘る連中の気がしれないね。世の中は、実力が物をいうんだ!」


 一理はあるが、間違っている。この人工島を始め、多くのダンジョンで技能を重視している理由は数多くあるが、それは今までの経験から培われた物だ。知識や技能を身に着けたという証明を重視する社会で、それを否定しても始まらない。


 僕が思うに、ダンジョンと言う環境に置いて、実力も大事だが技能も大事だ。どちらが欠けても駄目なのだ。


「村田さん、今のままだと本当に死んじゃうよ。これは脅しじゃないし、君の事を思っていっている事だ。うちにも同じような馬鹿がいるけど、そいつには村田さん以上にずば抜けた実力がある。それでも前に所属していたギルドから追い出されたんだ。実力も大事だけど、それ以外も大事だって事は覚えておいてね」


 今では遠い昔に思える出来事だが、中学生時代に荒れていた僕に周りの大人が言っていた事を思い出す。両親が亡くなった時は親戚が、アルバイト先では店長が僕に教えてくれた事だ。喧嘩をしていた時は、そんな事をしていても駄目だと言われた。


 アルバイトを始めた時は、なれない事ばかりで人付き合いを疎かにしていた。挨拶をしなかったり、自分よりも年上の人間を馬鹿にしていたのだ。そんな時に、店長が僕に色々と教えてくれたのだ。今では凄く感謝している。


「……うちのチームに来るかい?」


「な、何だよ急に!」


 説教されていると思ったのか、不貞腐れていた村田さんが僕を驚いた顔で見る。騙されてきたから、多少の疑り深さを身に着けたようだが、食い付きそうな感じが僕でも分かってしまう。


「スカウトさ。ただ、うちに来るなら荷物持ちから始めて貰うし、その後は技能なり実力をつけてからでないと実戦は無理だ」


「……分かった」


 こうして村田さんをスカウトした。



「信じられないわね、この男」

「大谷さん……」


 次の日、皆をドームに集めて新人紹介を行った。ただ、どういう訳か女性陣の目が冷たかった。木崎さんは冷たい目で僕を見るし、一之瀬さんは泣きそうになっている。浅野の馬鹿は、自分よりもステータスが劣る村田さんを見て、少し安堵していた。


 これ以上、チームで存在感が薄れるのは避けたいとかなんとか言っていたが、大丈夫だろ? お前の存在感は突き抜けているから……


「それじゃ、村田さん挨拶して」


 村田さんが頭をかきながら、照れくさそうに挨拶をする。そうすると僕の方から全員の自己紹介を開始した。木崎さん、浅野、一之瀬さんと来て最後は僕だ。


「村田さんを入れると五人のチームになるね。これから宜しく」


「……待ちなさい。この子って技能は何一つ無いじゃない? 荷物持ちは大事だけど、チームメンバーとしては扱えないわよ。育てる事は私だって考えたけど、流石に何も特技を持たない人間はお断りよ。最低でも三ヵ月。それ以内に何かしらチームの役に立てるようになりなさい」


 木崎さんは、村田さんを見ながらそう言う。浅野はその意見に賛成でも反対でもないようで、興味無さそうにしていた。一之瀬さんは、庇うかと思ったが、意外な事を言ってきた。


「そうですね。流石に何もできないと言うのは困りますね……あ! うちのチームには回復役がいませんから、治療系の魔法を覚えたらいかがでしょう!」


 いきなりハードルを上げ過ぎる一之瀬さんに、村田さんは唖然としていた。治療魔法はダンジョンで重要な魔法だ。基本的に重要ではない魔法は少ないが、絶対に欲しい魔法ではある。しかし、それは新たに言語を覚えなければならないと言う事になる。


 支援魔法を習得した僕だが、他の魔法にも手を付けた事がある。最早別物だと言えるその言語に、習得を諦めたほどだ。ハッキリ言って難しい。難しさで行けば、いくつもの魔法を習得した一之瀬さんがダントツではあるのだが……一之瀬さんに、一般の感覚を期待してもだめらしい。


「い、一之瀬さん、流石にそれは厳しいよ。だから、ここは先ず銃器の取り扱いから覚えて貰う方向で行かない?」


「? それくらいならすぐに取れますよね。浅野さんだって昨日で試験に受かりましたし」


 驚いて浅野の顔を見れば、自分に視線が注がれたのが嬉しいのだろう。物凄くいい笑顔でスマートフォンの画面を僕に見せてくる。そこには確かに銃器資格の文字が表示されていた。……こいつ、出来るのに興味の無い事はしないタイプだ。いや、分かってはいたけどさ。


 そんなやり取りを見て、辞めるとかいい出さないか心配した僕。村田さんのフォローに回ろうとすると、村田さんが宣言する。


「いいぜ! それくらい何とかしてやるよ。そしたら三か月後にその二つの技能だが資格を取って、正式なメンバーになってやるよ!」


「その意気ですよ早紀ちゃん! 私も勉強のお手伝いをしますね」


「……早紀ちゃん!? っていうか、勉強って何? 魔法って何を勉強するの!? 実技だろ!」


 色々と混乱する村田さんは、どうやら魔法の事を理解してなかったらしい。どう考えても勉強は必須ですよ村田さん。だが、一度宣言した事を取り消すのは嫌らしく、村田さんはそれを条件にうちのメンバーとなる事が決まった。



「お前は男だろ! 自分の荷物くらい自分で持てよ!」


「ふっ、軽装でスピードを活かす事が重要な僕に、荷物を持つ事など不要なのだよ! 君はアレかい? 戦闘面で役にも立たないのに、護衛を兼ねる僕の重要度を理解していないのかな?」


「何なんだよお前は! いちいちムカつく野郎だな、おい!」


 ポーズを決める浅野に、村田さんが詰め寄っている。一人加入した事もあり、低階層でダンジョン攻略の調整をしているのだ。しかし、色々と基本を知らない村田さんの行動で、僕たちは指導する事になった。想像以上に大変なのだ。


 低階層とは言え、危険な事に変わりはない。そんな中で、素人を守りながら教えると言う難易度の高い仕事。成程、新人教育に悩む多くのギルドの気持ちが少しは理解できた。


「はぁ、やっぱり数時間の簡単な説明じゃ無理ね。それ以前にあの子、座学は苦手なタイプみたいだし……」


 呆れている木崎さんは、僕に聞こえるように言ってくる。何だかんだと言って、一番面倒を見ているのは木崎さんだ。村田さんの状況を確認すると、支度金をチームの資金から用意してくれた。格安なホテルも探し、技能獲得に必要な書籍も手配してくれている。


 結構、面倒を見る事が好きなのかもしれない。駄目な部分もあるが、やはり優秀なのだろう。元彼が寝取られた時は、酷い状態だったが……今後は無い事を期待したい。まぁ、寝取られは辛いしね。多分だけど……経験ないし。


「大谷は荷物持ってるだろうが!」


「フム、そこに気付いたか不良女。ならば言わせて貰うが、お前がそれ以上の荷物を持てないのが原因だ」


「俺はまだ余裕がある!」


「ほう、それでは今後回収する魔石や鉱石関係はどうするつもりだ? まさかお前、それを考えないで余裕があると言うのではないだろうな」


 こうしていると、浅野がまともに見えてくるから不思議だ。まぁ、本人は荷物を持つのが嫌でそんな事を言っているのだろうがな。


 そんな二人のやり取りを見ていると、一之瀬さんが僕に話しかけてきた。


「早紀ちゃんは元気ですね。……お、大谷さん!」


「何?」


 急に真剣な顔になる一之瀬さん。彼女は村田さんを見た後に、僕に質問してきた。


「早紀ちゃんとは、どんな関係ですか?」


「……え?」


 真剣に聞いてくる物だから、何事かと思えばそんな事かよ。僕は一之瀬パパの呼び出しの事は控えつつ、村田さんとの出会いについて話した。公園でたまたま出会った事と、村田さんが騙されていて可哀想だった事をだ。


 しかし、一之瀬さんはどうも納得しない。いや、納得しようとしているのだが、方向がおかしいと言えばいいのだろうか? 自分にいい聞かせるように何かを呟く一之瀬さん。


「お父様も複数の女性を傍に置きますし、男性がそうなのだとは理解していたのに……でも、大谷さんも男性ですから、私も覚悟しないといけませんよね」


「一之瀬さんどうしたの?」


「え、いや……な、何でもないです」


 俯いてしまう一之瀬さんを見て、僕が首をかしげる。あのホテルでの一件以来、二人との距離感に微妙な違いが出来てきたのは僕にも分かっている。木崎さんとの壁が薄くなった気がするのは、彼女の駄目な部分を見たからかもしれない。


 一之瀬さんは、僕に積極的に話してくれるようになった。前までは、俯いたり話が途中で途切れていたのでいい傾向だと思う。そう、そう思いたいだけなのだ。実際は、何事も無かったとは分かっていても、相手を意識してしまうのが現状だ。



「お、終わった」


「おつかれ村田さん」


 ダンジョンから帰還すると、ドームで換金するために荷物を降ろす事が出来た僕たち。ここまで来れば後はお金と換金して解散になる。最後の方では無理をしていた村田さんは、周りが無理するなと言ってもそれを聞こうとはしなかった。


 最後には呆れていた木崎さんが、無理されてもこっちが困ると説教をしてようやくいう事を聞いてくれたのだ。


「村田、アンタはまだこれからが大変なんだから、ここでへばってちゃ駄目でしょう。ホテルに戻ったら勉強の続きをするのよ。折角、一之瀬さんのホテルに泊まれる事になっているんだから、最大限に利用させて貰いなさい」


 あれ? 村田さんは一之瀬さんのホテルに泊まるのか? そう思っていると、木崎さんが一之瀬さんと村田さんに聞こえないようにぼくに説明してくれた。


「彼女の裏が取れたわ。ギルドや組織との繋がりは無いし、これからも監視はするけど一応は大丈夫と言えるわね。それに、一之瀬さんの泊まっている部屋は、数人で押しかけても十分なスペースがあるから大丈夫なのよ」


 そうして、彼女の事を簡単に説明してくる木崎さん。何でも、母子家庭で母親が入院したのが原因でお金を稼ぎに来たらしい。元から貯蓄も無く、暴れ回っていた村田さんがお金を簡単に稼ぐには人工島だと思って友達にお金を借りてここまで来たんだとか……色々と同情してしまう。


「……下手な同情はしない方がいいわよ。ここにはそれ以上に苦しんでいる連中もいて、酷い結果に終わる事も多いのだから。まぁ、一応は警戒して彼女の母親はうち(ライトファング)の出資している病院に移したけどね」


 流石は木崎さん! そう思っていると、急に木崎さんの顔が曇る。


「色々と報告するついでに、前の一件の事も散々聞かれたわ……まぁ、生き残れはしたけど、今後一生鎖に繋がれた人生になるかも知れないわ」


「ご、ごめんなさい」


 色々と申し訳なく思い、謝った僕。しかし、木崎さんは不思議そうな顔をして僕を見ている。


「何を他人事みたいな事を言っているの? 君が一番大変じゃない。ギルドマスターは君がお嬢様に相応しくなるように、って色々と考えているみたいよ」


「……え!?」


 僕は木崎さんが何を言っているのか理解できなかった。何を考えているんだ一之瀬パパ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きがマジみたいです。
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