朝帰りして見た
・エロい表現が出てきます。苦手な方は注意してください。
「……あ、あれ? 頭が凄く痛い」
朝起きると、窓から朝の光が差し込んでいた。何だか頭が凄く痛いし、昨日の記憶があやふやだ。昨日、木崎さんを慰めるためにみんなで飲みに行ったのは覚えているが、その後の記憶が……。確か途中で、木崎さんに私の酒が飲めないのか! とか言われて、渋々飲んだふりをしたら、飲んだふりなんかするな! と怒られた。
少し飲んで、その後の記憶が曖昧になっている。
僕は、時間を確認しようとスマートフォンを探すのだが、ここで異変に気付いた。
「裸だ……あぁ、面倒で脱いだのかな? それはそうと時間は……あれ? ここどこ? えっ! 本当にここどこだよ!」
慌てて飛び起きると、服は着ていないし、見慣れない部屋のベッドに寝ていた事に気付いた。普段使っているビジネスホテルみたいな所とは、作りが違う。
「どうしてこんな事に?」
そう思っていると、自分の脱ぎ散らかした服が見つかり、そこにスマートフォンがあった。時間を確認すると、七時前位だ。服を集めて着ようとしたら、男物でない下着を発見する。
「ま、待ってくれ、いや落ち着くんだ僕! ここは深呼吸をして、落ち着いて冷静に考えよう……無理! どうして僕が女物の下着なんか持ってるの!? これって酔っている間に犯罪でも犯したって事か? それはいくらなんでも……」
「う、うん……」
不意にベッドの方から人の声がして、僕は驚きながら振り向いた。僕がベッドから出たのに、そこには人がいるであろう膨らみが二つ。二つ!?
眠気が一気に覚めると、急いで周りを確認する。部屋の作りは、僕が使用しているビジネスホテルと違って広々とし、ベッドは大き目で部屋の中央に置かれている。部屋のインテリアにしてはおかしい、自動販売機が設置されている。そして、その中身はジュースなどではなく、DVDなどでしか見た事の無い商品が並んでいた。
女物の服や下着は二人分。ベッドの膨らみも二つ。そして服があるという事は、寝ているであろう人物は、僕と同じように裸という事だ。それに、落ちている服装に見覚えがある。昨日、二人が着ていた服装だ。
「い、一之瀬さんと木崎さんが昨日着てた服だよな?」
「呼びました~」
「五月蝿いわね。昨日は飲み過ぎたから少し静かに……」
僕は顔を青くして、起き上る二人を見る。無駄に多い壁に貼り付けられた鏡のせいで、自分がどんな顔をしているのか分かってしまうのだ。
「……お、おはようございます」
「あれ? 何で大谷さんが私の部屋にいるんですか?」
「ちょ、ちょっと! これは、え!?」
未だに寝ぼけた一之瀬さんよりも、状況を把握しだした木崎さんが僕と同じような顔色になる。
◇
『あぁ、昨日は面倒だったから、格安のホテルに三人を放り込んでおいた。安くて、休憩所と看板がかかっていたからな。よく眠れたか友よ?』
「なんて事してんだお前は! 起こせよ、僕だけでも起こして、二人をホテルに届ければよかっただろうが!」
『休憩所だろ? 何の問題がある』
「いや、それはそうだけど……って、違うだろう!」
『それよりも今日は休日だ。僕は自分磨きで忙しいから、電話はここまでにしてくれ』
浅野の馬鹿が電話を切ると、ベッドに座る木崎さんが睨んでいる。一之瀬さんは、現在シャワーを浴びている。僕は部屋の隅で、昨日の事を浅野に確認していたのだ。結果は会話の通りで、帰りに面倒を見るのを嫌がった浅野に、この休憩所に三人とも放り込まれた。
「あ、あのぉ……シャワー終わりましたよ」
そうしていると、一之瀬さんが浴室から出てくる。木崎さんが、無言でそのまま一之瀬さんと代わるようにシャワーに向かうと、今度は一之瀬さんと気まずい空間に二人となる。気まずい、凄く気まずい! シャワーの音が聞こえる部屋で、一之瀬さんと二人。
僕は頭の中で、今後の事を考える。もしも、この事実を一之瀬パパが知ってしまった場合、僕の命の保証はされるのか? いや、あのパパさんの事だから、きっと僕を殺しに来る。
ヤバイ……殺される所しか思い浮かばない!
「大谷さん! て、テレビでも見ませんか?」
気を利かせた一之瀬さんに、僕はそうだね! と言って賛成した。二人とも、出会った時以上に緊張して声が高くなるが、そこは雰囲気だろう。きっと何もなかった。そう、本当に休憩しただけなのだから。
そうして、一之瀬さんが電源を入れたテレビからは、女優らしき人と男優らしき人の激しく絡んだシーンと、声が響いた。運悪く、そこに浴室から出てきた木崎さんがその光景を見る。僕が悪いのだろうか?
黙って髪を整えだす木崎さんが、目で僕を浴室に行けと指示を出してきた。今すぐにでもこんな所から抜け出したいと言うのに、僕は黙って指示に従う事しか出来ない。
◇
少し熱めのシャワーを浴びると、そこで色々と考えてしまう。僕たち三人は、やったのか? 結局はここに行きつく訳だ。仮に何もなければ、この話は笑い話で済むだろう。僕だって女性に興味はあるが、あの二人は駄目だ。酔ったとは言え、きっと僕なら二人に手を出したりしないだろう。
「そうだよな。少し残念だけど、僕があの二人に手を出す訳が無い」
清く正しく童貞である僕が、高嶺の花である二人に手を出す度胸など、持ち合わせている訳が無い。そうだ、きっとこれは何事も無かったパターンだ。
僕は、自分を落ち着かせると、そのまま浴室から出る。これは三人で黙っていれば何の問題も無い事だ。あぁ、浅野にも口止めをしなければ。
「木崎さん、私なんだか痛くて」
「そう、私も違和感があるのよね」
(な、何もなかった! 二人が話している事は、ダンジョンでの傷の事だ! これは勘違いをして混乱するパターン……)
それ以上は二人に聞く事も出来ず、僕たち三人はそのまま休憩所を出た。
◇
「それで、言い訳は考えてきたのだろうな?」
休憩所から出て、二人を送った後に見事に拉致られました。ライトファングの冒険者凄いの一言です。ライトファングの本部ビルに連れて行かれると、待ち構えていたのは仁王立ちの一之瀬パパさん。あぁ、何もなかったとか言っても、きっと信じて貰えないパターンですね。
「貴様たちが俺の娘に手を出さないから、今まで色々と協力してきた。だが、今回の事はどういう事だ?」
投げつけられる数枚の写真には、僕と一之瀬さんに木崎さんが休憩所に入る所が写っていました。画像綺麗だなぁ。などと現実逃避をしていたら、一之瀬パパの怒りが爆発しそうです。
「手塩にかけた娘が、その辺のゴミに穢されるのは我慢ならん。しかし、貴様も冒険者として、そこそこ名が売れてきている。ゴミだとも言い切れん」
こ、これは生存フラグか! 僕は生き残れ……
「だから、この俺と戦って生き残れば、命だけは助けてやる!」
し、死亡フラグでした……。そう思っていると、一之瀬パパの下に、綺麗な秘書さんがスマートフォンを持って現れた。そんな秘書さんを睨む一之瀬パパ。
「邪魔をするなと言ったはずだが?」
「はい。しかし、鏡花お嬢様からでしたので……」
「何!!!」
素早い動きで電話に出る一之瀬パパ。秘書さんはなれているのか、そのまま一礼して部屋を出る。
「おぉ、久しぶりだな鏡花。……何?」
嬉しそうな顔をしたかと思えば、今度は僕の顔を見て不機嫌になる一之瀬パパ。
「……俺にその辺のゴミと会う時間は無い。いや、そういう意味ではない! お前の気持ちも考えるが、俺に立場という物がある。お前の気持ちが一番だが……子供!?」
視線だけで人を殺せそうな一之瀬パパが、僕を本気で睨んでいる。怖いと言うか、あぁ死ぬんだ。みたいな感情が心の奥から湧いてきた。それよりも最後の単語が気になる。
「分かった。だが、鏡花やそいつが一人前として認められるくらいになったら連れてきなさい。いや、鏡花はすぐにでも戻ってきても問題ない。そうだ! ……いや、そうでは無くて! そうそう!」
急に焦ったり驚いたり、嬉しそうにする一之瀬パパ。違う意味で怖いです。
「それよりも困った事は無いか? 金が足りなかったらすぐにいいなさい。 ……そんな装備では駄目じゃないか! すぐにオーダーメイドで作らせる。特注を用意させるから、それまでは無理はしないとパパに約束しなさい!」
ついに自分の事をパパと言いだした。
「ぐっ……分かった。だが、お正月には顔を出すんだぞ。え? ちょっと待っていなさい」
急に僕の方を見て、スマートフォンをその大きな手で押さえる一之瀬パパ。さっきまでとは違い、威厳のある顔をしている。
「おい、年末は長期で休むのだろうな?」
「え、い、いやぁ、考えてませんでした。色々と様子を見てから決めようかと思って……」
「休むんだろうな!」
「はい! 休みにします!」
僕を脅した一之瀬パパは、笑顔で一之瀬さんとの会話に戻る。
「大丈夫だ。年末は休みになる筈だから、鏡花も実家に顔を出しなさい。……あぁ、お前の部屋はそのままだから、心配ないぞ。分かった。パパも楽しみにしているよ」
そのまま名残惜しそうに電話を切る一之瀬パパ。しかし、僕に顔を向けると、憎しみで人を殺せそうな顔をしている。
「今回の件は保留にしてやる。だが、あの子を傷つけるような事をしたら、貴様の息の根を止めてやるから気を付けるんだな!」
「すいませんでしたぁ!」
◇
前回と同じように、足元をフラフラさせながらライトファングの本部ビルから出ていく僕。夢なら覚めて欲しいと思いながら、人工島の公園まで歩いた。昼を過ぎて、ビルに囲まれた公園のベンチに座り込む僕。色々と考えるが、一之瀬パパが二人同時に手を出した事を追及してこなかったのが腑に落ちない。
そういう世界だ、そう思って納得するしかないのだろうか?
「それよりも、年末まで時間があるなぁ……木崎さんと話もしとかないといけないし、その事も含めて話さないと」
色々と考えなければいけない事はあるが、今一番の問題は『強くなる事』だ。個人としてどれだけ強くなれるか……自動全回復も、巨人も強力だ。でも、一撃で即死なら意味が無い自動全回復に、人間以下のサイズには微妙な巨人では、一之瀬パパに殺されるかもしれない。
チームとしての強さと、個人としての強さはイコールではない。身体能力の高い浅野がいい例だ。個人では強くっても、チームの和を乱すから問題児扱いを受けていた。ある程度の事が出来れば、ダンジョンで生き残る事は可能なのだ。
必要なのはチームでの連携。しかし、中層を超えるとそうもいかない。一之瀬パパがいい例だろう。個人としても強くなければ、深層では生き残れないのだ。装備でカバーできる事も出来るが、それでも限界があると聞く。
深層に潜れる冒険者は少ない。多くのギルドが、そこに至る冒険者を求め、育成している。そして、育成には時間と金もかかるのだ。稼いでは来るが、一人の冒険者を一流にしようと思えばそれだけの経験が必要になる。指導する人材、サポートする仲間。それらも一流の人材が必要だ。
最悪、それらの人材も深層では命を落とす事がある。新人が足を引っ張ると言う、どうしようもなくくだらない理由だ。
最近になって思うのは、僕がギルドの書類審査で落ちたのもそれが原因かもしれない。異能を持っていても、それが果たして深層に挑めるほど有効か? そう聞かれたら疑問だ。そして、深層に挑まなくても稼げるか、と言われると……数年の無職期間がその判断を無理! とする。
働いていない期間が長い上に、高校中退で何もしていない人間が欲しいだろうか? 人材を確保したいが、厳しい状況の中堅ギルドには、僕を取るという事は博打に近い。
人を求める側になって気付いたが、僕の履歴書を見直したとしよう。仲間に入れるとなると微妙と言うしかない。いっそ、大手に挑戦すればよかったのだ。余裕の無い中堅ギルドよりも、可能性に賭けてくれたかも知れないのだ。
はぁ、今頃気付いてもしょうがないよな。それよりも、強くなりたい……殺されないぐらいにさ。
「強くなりたいなぁ」
「強くなりたい」
うん? ベンチの後ろを見ると、涙を流した少女が座っていた。時間を見れば、考え事をしている間に随分と時間が過ぎている。背中合わせに座る僕と少女。見れば、ボロボロの服とオレンジに染めた癖のある髪が特徴的だった。
服装はつなぎで、人工島に来た新人冒険者だろうか? 大した武器も持っていない彼女は、ポロポロと涙を地面にこぼしていた。僕に気付いていないのか、未だに涙を流していた。暗くなり、元から黒っぽい服装をしていた僕に気付いていない。
……僕に近付くにしても、もっと上手くやりそうな物だ。




