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恋文はお姉様から?

 第3章 恋文はお姉様から?




「で、この手紙は?」

「い、いや、し、知らない!」

 偉く不機嫌な健介が、机の上に置きっ放しの手紙を凝視して固まっていたのが、朝のHRの時で、今は昼休みだ。どうせまた『例の手紙』だろうと思っていた俺も、その手紙を手にとって、裏を見て驚いた。

 『私立白金台女学園 2年E組 高町 貴子』

 差出人にはそう書いてあったのだ。高町なる人物が、どういう人間かは俺にも分からないが、驚くべきはそこではない。

「ど、どどどどうしよう、和真! お、おおおお女の子から手紙を貰ったら、どうしたら良いんだ!?」

 健介がここまで取り乱す姿を見たのは、もしかしたら初めてかも知れない。そうか、コイツ今まで、女の子に告白とかされた事一度もないんだ。

 コイツは、中学1年の時から、ラブレターも告白も、全部男子からだったのだ。そう考えれば、この取り乱しようも頷ける。ってか、可愛いな……

 ん? 俺は大丈夫か? 健介は男だし、親友だし、幼馴染だし、親友だぞ。……親友は大事だから二回言ったんだぞ。言い間違いじゃないからな。

 でも、あれだ、男だとしてもだ。あれは可愛いよな。うん。

「和真、どした? 顔赤いぞ?」

「ぬあっ!? いや、別に! なんでもないぞ、なんでもない!」

 不意に健介に声をかけられて我に返る。俺は何を健介に赤面してるんだ?……欝だ、死のう。

「どうした? 今度は顔青いぞ?」

「……別に、なんでもない……で、お前はどうすんだよ?」

「ふぇっ!? ど、どうするって……どうしたらいいんだろう???」

 何か、突っ込まれる前に俺は話題を変えてごまかした。でも、かわいい……

 バチーンッ!

「ふわぁっ!? ど、どうした!? 和真、何があった!?」

「蚊がいた」

「ご、豪快だな……何もそこまで思い切り自分の頬をはたく事ないだろうに……あーあー……真っ赤になってんじゃん……」

「なあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

「っ!?!?」

 不意の健介のどアップに、俺はもう、大混乱。この前の健介の肢体が頭をよぎって、もう、訳が分からなくなる。

「な、なんだよ! 今度は!!」

「なああああいようはもう確認したのかなって……な」

「なんだそれ……?」

 怪訝な顔はするものの、ごまかせてしまった事で、健介の将来が少し心配になった。どう考えても不審な俺を完全スルーって……それだけ、俺を信頼してくれてるんだとしたら、素直にうれしいな。

「えーと、実は、まだ読んでないんだ」

「は?」

「まだ、中身を見てないんだよ」

「なんで?」

「なんかさ、怖くて……あは」

「あはって、お前……」

ヤバイ、マジで可愛いんですけど?なんかもう、いろんな意味で?

 …………???

 ん?

 あ、いや、そうじゃないだろ俺!!

「とりあえず、読んでみろよ」

「で、でも……」

「デモもストもないだろ! 読まなきゃ、か、書いた人の気持ちが可哀相だろ?」

「あ、そか。うん、そうだな」

 俺に言われるまま、封筒から手紙を出すと、その少女のような高音で手紙の内容を読み始める健介。

「『突然のお手紙で、驚かれたかも知れません。私は白金台女学園の高町 貴子と申します』」

「ごくっ……」

 まるで声変わり前なんじゃないかって感じの高い健介の声は、まるで少女で、読んでいる文章が文章なだけに、こう、なんと言うか、変な感じがする。もちろん、変な意味じゃないぞ。………多分。

「『初めて貴方をお見かけしたのは、我が学園の近くにある小さな珈琲喫茶の店先でした。』」

「「「「「ごくっ」」」」」

 なんか、いつの間にか、ギャラリーが出来てる。人のことを言えた義理ではないが、気持ち悪いな……俺もこんな顔をしているのだろうか?さりげなく、携帯のカメラで俺自身の顔を見ると、うむ、確かに周囲の連中と同じような、少し惚けた顔をしている。

 バシンッ!!

「ふぇっ!? ど、どうした、和真」

「蚊だ。気にするな続けて」

「あ、ああ。『貴方はその店の給仕をやっていて、私はその姿に、心を奪われてしまったのです。』」

 手紙に出てくる珈琲喫茶ってのは、俺が部活帰りに寄る、あの喫茶店だろうから、うん、間違いなくこの手紙は健介に宛てられた物で間違いなさそうだ。見ると健介は『心を奪われた』と言うくだりにどうやら、参ってしまっているらしい。真っ赤な顔をして、何処だか分からないどこかを見つめて、百面相をしているようだ。

「か、かわいい……」

 ギャラリーの誰かの言葉に、俺を含めて、その場の全員が心の中で激しく同意した。

「うおっほん……」

 うおっほんって……アレで誤魔化してるつもりなんだから、もう、本当にアレだ。……って、どうも、最近俺の頭は可笑しいらしい。どうなってんだ? しっかりしろ、俺!!

「『もしよろしければ、お返事をいただきたいのですが、本日の放課後。校門の前でお待ちしております。もしも、お話しする価値もない女だとお思いなら、そのまま私の横を通り過ぎていただいて構いません。ですが、少しでもお話する価値があると感じられましたら、お声をかけてくださると嬉しいです。貴方とお話出来ることを、心よりお待ちしております。』」

 結びは再び差出人の名前だった。なんというか、凄く奥ゆかしい感じの手紙だ。

「ど、どどどどどどどうしよう、和真!!」

 真っ赤な顔で、下からそんな上目遣いで見上げられると……何だか、可笑しい俺の頭は、健介の愛らしい仕草の一つ一つに、反応して、顔に血液を送るらしく、どうにも顔が熱い。しかし、こうして助言を求められている以上、何とかしてアドバイスを与えたいのだが……

「うぅぅぅ……」

「と、とりあえずさ」

「うん」

「どんな子か見てから決めても遅くないんじゃね?」

「そ、そうか?」

「ああ、だってあっちはお前の顔知ってるのに、お前は相手の顔全然知らないだろ? 不公平じゃん」

「そっか……で、でもそ、めっちゃ可愛かったりしたら、どうすんだよ。俺無理だよ?」

「可愛かったら、それってラッキーじゃねぇ? 困る事ないんじゃね?」

「えーでもぉ〜……」

 ばっか野郎、お前の方が絶対可愛いよ!と叫びそうになったのを、必死で堪えた俺に拍手を送りたい。本当にどうかしてるな。俺。後で、ちょっと水をかぶって来よう。うん。


「のわぁっ!?」

 昼休みも終わりに近づいた頃、何故か和真は全身ずぶ濡れで教室に戻ってきた。

「どうしたんだよ、びしょびしょじゃねぇか!」

「いや、ちょっとな。蚊だ」

「『蚊だ』じゃねえよ! 関係ないし、意味わかんねぇから!!」

 俺がタオルを鞄から出して、無理やり和真の頭を抱え込んで頭を乱暴に拭いたら。

「ぐはぁっ!!?」

 何故かタオルが赤く染まった。見れば、和真は鼻血を流して、何だか幸せそうな笑顔で倒れていた。本当に意味が分からない。

 ってか、白血病とか、そういう病気じゃないだろうな?最近アイツ、良く鼻血を出すので、凄く心配だった。




「で、だ」

「ん? 放課後だな」

「裏門から帰ろうかなぁ?」

「そうすると、彼女の申し出を完全に突き返すことになるんじゃないか?」

「う」

「いつも通り、真正面からあったらいいじゃないか。どうしたんだよ、お前らしくないぞ」

 俺達の教室は校庭に面していて、校門の様子が教室からじゃ伺えない。そわそわする健介は可愛いが……

 バチンッ!

「かず……」

「蚊だ」

 面白いが、いい加減何と言うか、慣れてきたので、とりあえず平静を取り戻した。

「まず、ちゃんと相手の気持ちを受け止めて、それでお前の気持ちを伝えれば良い」

「……でも」

「恋愛に、遠慮なんて要らないよ。エゴのぶつけ合いなんだ。それでいいと俺は思う」

 まっすぐ健介の目を見つめて、俺の気持ちをまっすぐぶつける。これは俺の考え。『好きだ』と言う気持ちを突きつける告白する側は、いわばエゴお相手にぶつけている。告白を受ける側はいつだって、この押し付けをどうするか、悩む訳だが、そもそも押し付けられたのもエゴなのだ。だったら、こちらもエゴで返せば良い。そう、告白は戦いだ。俺はそう思う。

「そうか……うん、そうかもな」

「迷う暇があったら、さっさと会って来れば良い」

「だな」

「だろ?」

 そんなこんなで、俺達は、校門へと向かったのだった。




 で、俺も健介も驚愕したのだ。

「お待ちしておりました、わたくしが高町です」

 高町を名乗った少女は、健介でも見劣りする程の、超絶美少女だったのだ!!

「あ、はい、俺は鈴原です」

「あ、俺は御手洗です」

「あらあら、ご丁寧にどうも」

 何だか、彼女のペースにあてられて、俺達まで何だか間延びしたテンポになってしまう。あれ?

「こうして会話をしてるってことは、とりあえず、お友達くらいはOKって流れじゃないか、これ?」

「そ、そうなのか?」

 ボソボソと小声で俺たちが喋っているのに、ニコニコと俺達の様子を伺っている高町さん。大らかなのか、作戦なのか分からないが、多分俺の言った事で正しいはずだ。手紙にもそんな感じのことが書いてあったし。

「もしよろしければ、お近くのレストランにでも入りませんか?」

「あ、えーと……俺は大丈夫ですけど……」

「ん? 俺関係なくね?」

「和真ぁ……」

「分かった、行くから、猫なで声禁止だ!!」

「あ、ああ。サンキュ」

 思わずくらっと来そうな健介の声に釘を刺して、俺は健介についていく事にした。

「俺なんかが一緒でいいんです?」

「構いませんよ」

「はぁ……」

 本当に、大らかなのか……? 女はもう本当に、山ほど見てきたが、今までにないタイプの女だ。なんて言うか、底が知れないと言うか、正直健介一人だと、少し不安ではある。

 ……いや、友人として心配ってことだよ? ホントだよ?





 場所を移して、ここは近くのレストラン。4人席に俺と健介と高町さんの三人だ。なんていうか、異様な取り合わせな気がする。

 まず、高町さんから。健介程ではないが綺麗な長い髪。切れ長だが大きな目。小ぶりな唇に、小ぶりな鼻。長い睫毛に整った眉。そして、健介とは比べ物にならない程の、スタイル。

って、

 バチンッ!

「『蚊だ』だろ?」

「ああ、蚊だ」

「はぁ……」

 健介とスタイルは関係ないだろ、俺!

 とにかく、俺の眼から見ても、極上。特Aクラスの美少女だ。

 で、俺の横にはもう一人の特Aクラスの美少女フェイスを持つ健介だ。周囲の人間で、誰がこの特A美少女同士が告白する側とされる側だと分かるだろうか?

 想像してみたが、俺だったら、俺=二股かけた駄目男、健介=今カノ、高町さん=元カノか何かだろうと、考えるだろうな……うん、どう転んでも、俺今すっごい視線に晒されてるよね……ああ、変な噂が立たないといいが……


 目の前の高町さんは、物静かで、綺麗で、何て言うか、漫画とか、ドラマとかに出てきそうな人だった。

「鈴原さんは、今お付き合いしている方はいらっしゃるんですか?」

「いや、こんななりなんで……よって来るのは男ばっかりです」

「あらあら、見る目がないのですねぇ……鈴原さんの周りは」

「そんな事言ってくれたのは、高町さんが初めてですよ」

 何だか、穏やかに進む時間が心地よくさえ感じた。なんだか、このまま、この人と付き合ったら、幸せになれるんじゃないかって、そんな気さえしてきた。

「私は、大好きです。鈴原さんのこと」

「っ!?」

 顔に血が上っていくのが分かる。そんな事を、真正面から女の子に言われたのは初めてだった。男になら言われた事が何度もあったのに、この破壊力の違いは何だ? もう、本当に、ふわふわとした気持ちになって、

「お返事を、聞かせて下さいませんか?」

「あ、はい……」

 思わず『喜んで』なんて言いそうになって、

「あ、一つ聞かせて下さい。俺の何処が好きなのか」

「あ、はい」

 気になっていたことを一つだけ、聞いてみた。こんな俺の、女みたいな俺の、何処がいいのか?それが知りたくて。

「私が、鈴原さんの何処に心惹かれたか、ですね?」

「はい」

 覚悟を決めて、言葉を待った。すると、

「その、愛くるしいお顔と、美しい髪ですわ!!」

「へ?」

 そこまで言い切らないうちに、高町さんは俺の頭をその豊満な胸元に抱き寄せたのだった。

「ああん、もう! 鈴原さんかわゆすぎですわ! もう、本当に、この可愛さは罪! ですから罰が必要です! よって、抱きしめて、かいぐりかいぐりの刑です!」

「ふわぁっ!? え? なんだ!? あんだこれ!?」

 もう、何だか分からないままもみくちゃにされて……




 気が付いたら、

「大丈夫か、健介!」

「ん? ああ、和真??」

 和真の腕に支えられていた。

「ああ、すいません、わたくしったら、取り乱してしまって!」

「あはは……」

 とまぁ、何だか良く分からないうちに、

「とりあえずは、わたくしも『お友達』から始めさせて頂きますね。これ、わたくしのアドレスです」

「あ、どうも、これ俺のです」

「…………」

「あの、どうしたんですか?」

「いえ、鈴原さんのアドレスを教えていただけるなんて、夢にも思っていなかったので……ちょっと涙が……」

 癖の強そうな友人が、また一人増えたようで……

「あ、これ、俺のアドレスな」

「あ、いえ、御手洗さんのは結構です」

「俺今すっごい綺麗な笑顔で、あっさり拒否されたよ!?」

「嘘です♪」

 また、俺の日常は、賑やかな方に加速していくようだった。

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