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その3

上ったばかりの太陽の光を横目に、鳥が高々と空を舞う。耳元で風がごうと音を立てる。広げた大きな翼が、目の前に広がる城下町に影を落とした。気持ちがいい。

街で一番高い教会の尖塔すらも、遥か下。屋根の上で日向ぼっこしている黒猫が大きなアクビをした。

そして、よく見知った”友人”たちの家――『勇者』と『魔女』と、その息子の住む家の屋根も遥か下。

(あ――)

ふと、その家から人が出てきた。すっかりと身支度を整えた『勇者』、それを見送る息子の姿だ。

思わず視線を奪われていると、

「彼らのいつもの『儀式』だね」

背中越しに同じものを眺めたミシェルが笑った。

「『儀式』?」

「そう、『儀式』。毎朝必ず、こうして――」

父親が、息子の頭をゆるりと掻き混ぜる。優しい優しい笑顔だ。

「彼は出勤するんだ」

「出勤、て」

仕事、してたの? 思わず尋ねると、背後で騎士団長殿が噴き出した。

「そりゃしてるさ、しないと生きていけないだろう?」

「だって、『勇者』でしょ? その、報奨金とか」

「うん、確かにもらった。でも彼はそれを全額寄付したんだ」

「どこに?」

「孤児院に」

なるほど、と頷く。いかにも『勇者』らしい善行だ。

「で、本人は出稼ぎに出ている、と」

「そう」

新しく王都と隣街を繋ぐ街道を造ってる話は知っているかい? 尋ねると、魔王は首肯する。

「その街道を造ってる人たちを護衛する仕事をしている」

「あー」

ごめんなさい、と魔王は再び頭を垂れた。魔族といっても、人間に好意的な者ばかりではない。

それに、人間を捕食しなければ生きて行けない種というのも確かに存在している。これから彼らをそうでなくとも生きていけるように種として進化に導くのも、自分および『魔女』の仕事のうちの一つではある。


全ての魔族を統率して人間を襲わないようにするには、自分にはまだまだ力が足りない。


それに騎士団長殿が苦笑する。

「キミは本当に変わった『魔王』だね」

「うん、部下にもよく言われるよ」

でも、変わってるわけでもないと思うんだけどなぁとケイオスは密かに思う。

「変わってる」と形容するからには、彼らには『魔王像』というものがあって。それはでも、古くから人間が魔族を恐れてきたがゆえの伝承でしかない。

実際のところ、魔族という種は今も昔もそれほど大きくは変わっていないはずだ。多少、その時々の『魔王』によって違いはあるかも知れないけれども。


そして、人を捕食対象として襲う魔族は、ほんの一部の下級魔族に過ぎない。


だがそれを知る人間は少なく、魔族といえば十把一絡げで人を襲うものだと思っている。だから魔族を討伐しようとするし、魔族はそのため人を忌避して自己防衛のためにその力を振るう。

(もしかしたら――)

父が人間に戦争を吹っかけたのも色々とすったもんだのあった末に、ただ人間のそういった『魔王像』に答えただけなのかも知れない――


「お互いに、お互いを知る必要があるのかも知れないね」

騎士団長がぽつりと言う。上空を旋回し、『勇者』が出勤するのを見届けてから。

「私は今日キミに会うまで、魔族というのは見境無く人に仇為す存在かと思っていたよ」

「そうだね、確かに僕たちはお互いを知らな過ぎる」

ケイオスは苦笑して答えた。

自分も恐らく、森に引きこもっていて『勇者』と『魔女』とその息子に会わなければ、今回ミシェルに遭遇してもあっさりと魔族の敵として殺してしまっていたかも知れない。


魔族とて、人間に対する先入観はある。つまり、その種を滅してこようとする天敵という認識が。

古くからある、人間と魔族の対立構図。度重なる衝突に、終止符を打てればそれに越したことは無い。

自分はそのためにも、『魔王』としての責務を全うしなければ。


「さてと、そろそろ僕はお暇するよ。部下が口うるさくてね、仕事しろー仕事しろーって」

にっこり笑って言う。騎士団長が驚きに目を見張った。

「仕事? 魔王なのに??」

「キミたち人間の言う労働では無いけどね、魔王には魔王の責務があるんだ」

空の散歩、楽しかったよ。ありがとう! 言うが早いか、魔王の身体が緑色の光に包まれた。ミシェルが見ている前でその姿が見る見るうちに変わり、小さな小さな緑色の球形になる。

――魔王本来の姿。世界樹を守りし、小さな小さな精霊。

ほんのりと淡く柔らかい光を放ちながら、その光が空を舞った。思わずミシェルは手を振って叫ぶ。

「また、また会えるかい!?」

返事は物理的な声ではなく、頭の中に響くように聞こえた。穏やかなテノールの声だった。




”キミがそう望むなら。そして僕もそう望むよ”

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