## 零細生活者の生態 ### 第二十六章 駅前での邂逅
野太い声が前方から響いた。
ヨシオが顔を上げると、目の前に立っているのは—谷岡だった。
「またこいつに会ってしまった」
ヨシオの胃が締め付けられる。
谷岡は明らかに酔っており、ネクタイを緩めた高級スーツ姿で仁王立ちしている。
「なんだぁ?この汚いホームレス野郎は!」
谷岡の目が血走っている。
「駅前で呑気に酔っぱらいやがって」
ヨシオは咄嗟に立ち上がろうとしたが、酔いと恐怖で足がもつれた。
その拍子に谷岡と肩がぶつかる。
「あっ!」
「貴様ぁ……」
谷岡の顔が怒りで赤黒く染まった。
手を振り上げる—と思った瞬間、
「谷岡か?」
ヨシオの言葉に谷岡の動きが止まった。
「お前……」
谷岡の表情が歪む。
「春野か?」
二人の視線が交錯した。
かつて同じ会社で働く同僚だった男。
しかし今は全く違う立場にいる二人。
「久しぶりだな......」
ヨシオが呟くと、谷岡は口元を歪めて笑った。
「ああ、本当に久しぶりだが......」
谷岡の声が冷たく響く。
「ずいぶん落ちぶれたもんだな」
彼はヨシオの体を上から下まで舐めるように見まわして
谷岡はさらに踏み込んでくる。
「どうしてそこまで落ちた?」
「お前に関係ないだろ」
ヨシオが言うと、谷岡は大きく笑った。
「関係ない?ふざけるな!」
彼の声が大きくなり、周囲の通行人が振り向く。
「お前がいた会社を潰したのは誰だと思ってる?」
その言葉にヨシオの顔が強張った。
「お前だよ」
谷岡の目が憎悪に燃えている。
「お前が担当したプロジェクトを台無しにしたせいで……」
「違う!」
ヨシオが声を荒げた。
「あの失敗は俺のせいじゃない!」
「証拠もあったのに?」
谷岡は冷笑する。
「部長に告げ口したのは誰だと思う?」
二人の間に緊張が走る。
周囲の人々が不審げに見ているが、誰も介入しようとしない。
「俺が……」
ヨシオは言葉に詰まった。
「俺がしたことは……」
「とにかく」
谷岡は鼻で笑った。
「今のお前を見たら家族はどう思うかな?」
その言葉がヨシオの胸を刺した。
みゆきの笑顔。
美咲の優しい眼差し。
それら全てを失った夜の記憶が蘇る。
「帰れ」
ヨシオは低い声で言った。
「これ以上絡むな」
「帰るのはお前の方だろ」
谷岡は冷笑を浮かべた。
「こんな場所でホームレスやってるヤツが言うセリフじゃねぇな」
彼は急に表情を変えた。
酔いの勢いで怒りが爆発したようだ。
谷岡がヨシオの襟を掴んだ。
「やめろ!」




