01-02.出禁
「出禁です」
「あらま」
「申し訳ございません。ラクティ辺境伯閣下。ステラ・ディアス様は国王陛下直々の命により、王都への立ち入りを禁じられております」
王都の検問でラクティ家の家紋入り馬車を目にした兵士さんたちは、私たちを脇へと連れ出して、丁重に事情を説明してくれた。
「ステラ。何やったの?」
「なにかしら? 心当たりが多すぎてわからないわ」
「おかしいでしょ。陛下はあの件を知ってるんだよ? なんでその陛下が出禁を言い渡すのさ」
なんでかしらね~?
「本当に覚えていらっしゃらないのですか?」
「ごめんなさい♪」
「第一王子殿下の件です」
「……あは♪」
「ステラ」
「いえ♪ 違うのよ♪」
「何が違うのさ。いいから言ってみ? というか言え。むしろなんで黙ってた? 僕から国王陛下に謝罪しなきゃなんないやつじゃん! わかってるの!?」
「ごめんなさい。話すから怒らないで」
そう。あれは以前王都を訪れていた時の事だった。
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「おい! 貴様がステラ・ディアスだな!」
あら? 誰かしら? 男性の四人組? 一人は少年ね。背丈も私と変わらないぐらいだわ。今の声は取り巻きの方かしら? 四人とも冒険者らしからぬ装いだわ♪ もしかして指名依頼かしら♪ きっとそうね♪
だってここは冒険者ギルドですもの♪ 高貴なお方が自ら依頼を持ち込むなんてそうそうあるものではないけれど、きっと私の実力を評価してくださったが故なのね♪ ふふ♪ 嬉しいわ♪ 最近恐れられてばかりだったもの♪
「何故傅かん! この相貌を目にして気付かんのか!」
「どちら様かしら?」
「「「なっ!?」」」
ふふふ♪ 私だって世界で唯一の赤金等級だもの♪ そうそう傅いたりなんてしないのよ♪
「こ、このお方を誰と心得る!?」
「わからないから聞いているのだけど?」
「きっ! 貴様ぁ!!」
「ああ♪ そうだわ♪ 先ずはこちらから自己紹介するべきよね♪ もうすっかり知られているからうっかりしてしまったわ♪ ごめんなさい♪ 私はステラ♪ この世界で唯一の赤金等級冒険者よ♪ 冒険者ギルドへようこそ♪ 本日はどのようなご依頼かしら♪」
「この無礼者め!!!」
まあ。乱暴な方ね。
向かってきた取り巻きの方々を軽くいなして放り返す。
「「「なっ!?」」」
「ほほう」
今度は一番立派な装いの少年が近づいてきた。
「気に入った。俺の妃となれ」
「「「ええぇぇ!?」」」
「お断りするわ♪」
「「「えぇぇぇぇえええ!!?!?」」」
「……うん? 今のは聞き間違えか? 許す。もう一度答えてみるがいい」
「ですからお断りするわ♪ 私は平民の冒険者だもの♪」
「なるほど。それは道理だ。よかろう。この場は改める」
「「「殿下!?」」」
少年、王子殿下とその取り巻きたちはあっさりと帰っていった。
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「そのまますっかり忘れていたと?」
「いえ。まだ続きがあるの」
「だよね。そんなことで陛下が出禁にする筈ないもんね」
「ふふ♪」
「ちょっと。なにさその笑い」
「いえね。あの子もあの子で面白くって♪」
「どんな無礼を働いたのさ!」
「無礼だなんてことはないわ。ともかく続きを話すわね」
「手短にね」
まあ♪ それは残念ね♪
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「ステラ! ステラ・ディアスはいるか!」
今日も王子様がやってきた。ここ最近毎日のように冒険者ギルドを訪れているそうだ。私はいたりいなかったり。そもそもここはホームでもないものね。どうしても必要な時以外はわざわざ王都まで来ないもの。
「いらっしゃい♪ 殿下♪」
「口の利き方に!」
「よい! 将来の妃だ!」
「それはお断りした筈よ?」
「俺の決定だ! 拒否権はない!」
「まあ♪ 情熱的ね♪」
「ふっ。お前も満更ではあるまい」
「一生懸命な人は好きよ♪」
「ふっふっふ! ふはっはっはっは!!」
今日もご機嫌ね♪
「殿下! こやつは!」
「くどい!」
「ですが!」
この流れもいつも通りだ。
「殿下。今日のご依頼は?」
「俺を護衛せよ!」
「はい♪ 殿下♪」
殿下は私を連れて街へと繰り出した。
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「つまりなに? 幼気な王子殿下相手にレンタル彼女ごっこでもしてたの?」
「そんな事はしてないわ。贈り物は全て断っていたもの」
「それで? 報酬はいくら貰ってたの?」
「普通よ♪ いつも通りね♪」
「あのさぁ……。赤金等級動かすのにいくら掛かるか知らないわけ無いよね?」
「殿下ってば気前がいいわよね♪」
「バッカじゃないのぉ!? いくら第一王子殿下だからってそう何度も貸し切れるわけないでしょ!? 毎回ドラゴン退治するようなものだよ!? そんなの国が傾くよ!? 陛下が怒るのも当然でしょ!? というか殿下も殿下だよ!? どうやって工面してたのさ!?」
「さあ? 気にしたこともなかったわ」
「だから怒ってるのぉ!!」
「ごめんなさい♪ けど聞いてよ。私にはどうにもならないとは思わないかしら? だって相手は王子様だもの♪ お得意様、いえ。正しくはパトロンかしら? そんなお方からのご依頼よ? 断れるわけないじゃない♪」
「だからって!」
「もちろんギルドも間に入っていたのよ? 王子が正式にギルドに対して出した指名依頼よ? 赤金等級だからこそ断れないとは思わないかしら?」
「それは……そうだけど……」
「陛下も報酬を返せとは仰られなかったでしょう? 出禁にしたのも一時的なものではないかしら?」
「……そこまでわかっているなら殿下の目論見だって理解してるんだよね?」
「私を連れ歩くことで既成事実を作りたかったのではないかしら」
「どうしてそれをわかっていて受けちゃったのさ。なんで僕に何も言わないのさ」
「言ったでしょ。断ることは出来ないわ。アミに言ったところで止められないじゃない。私以上にアミには出来ない筈でしょう?」
「本当に嫌だったら例え陛下からの依頼だって断るくせに」
「そうね。それは否定しないわ。私自身、楽しんでいたことも認めましょう」
「目的は?」
「あなたの助けになるかと思ったのよ。陛下は私に借りができるでしょう?」
「……最初から応えるつもりはなかったんだね」
「え? そんな事を疑っていたの? そんなわけないじゃない♪ 私はいつまでもあなたのお姉ちゃんよ♪ どこにもお嫁に行ったりなんてしないわ♪」
「もう……わかった。陛下とは僕が話をつけておくよ。悪いけどステラは近くで時間を潰していてよ。すぐに呼び寄せるから」
「了解よ♪」
「依頼を受けるのは無しだよ。王都以外でもギルドに顔を出すのは無し。飛行魔術で飛んでいくのもね。ヴィオラの側を離れないで。一度でも見失ったら報告させるからね」
「ふふ♪ 心配性ね♪」
「誰のせいだと思ってるんだか」
「頑張ってね♪ アミ♪」
「うん。ここからは僕の仕事だ」




