04-06.膠着状態
状況を整理してみよう。
現在、我がフォルテイア辺境伯領はフォルティス伯爵領との戦争を継続中だ。
敵軍の掲げる目的は"偽ステラ"、通称"ディザスター"及び、ガルディオンの討伐。
これに対し、王都は沈黙を貫いている。本音を言えば討伐に参加したいところだが、陛下がそれを良しとしていない。
しかし各地の領軍は違う。次々と参加を表明している。これは周辺諸国も同様だ。
敵軍は日増しに数を増やし、次第に我が領の領堺を覆い尽くしていった。しかしそれ以上には進めていない。何故なら複数体のガルディオンがその侵攻を阻んでいるからだ。
ここまでが外からみた客観的事実だ。
我が領の者たちは全領民が領都に収容され、軍は対フォルティス伯爵領と未開拓領域の二手に別れて展開されている。
ステラは偵察機を用いることで自身から離れた場所であってもガルディオンの投影体を出現させることに成功した。
つまり偵察機は、ガルディオンの投影機にもなるのだ。領堺に配備された偵察機たちから幾体もの巨大な黄金竜が出現し、常に睨みを利かせている。敵軍は嫌がらせの攻撃こそ行ってくるものの、犠牲を恐れて攻め込みきれずにいる。
ステラのチートっぷりが増々増しているのは良いのだが、ガルディオンは元々ガルディアス竜王国の守護竜だ。その偉大な姿は世界中に噂として伝わっていた。その事実もまた、敵に利用される結果となってしまった。
既にこの戦争は、ガルディアス竜王国の侵略戦争としても認識され始めている。意図的にそう煽る者がいるからだ。こちらのステラのことは偽者と断じつつ、分身したガルディオンのことは全て本物だと言い張るつもりらしい。なんとも都合の良い主張だ。やりたい放題だね。
この戦争を終わらせるには首謀者を討つか勝つしかない。このまま防衛だけを続けているわけにもいかない。ガルディオンに……ステラに人を殺させるわけにはいかないのだ。
その理由はいくつもあるけれど、一番の理由は戦争が終わらなくなるからだ。一人でも死者が出れば引き返しようがなくなるだろう。
今現在、敵軍の目的は偽ステラの討伐に遷移している。既に前伯爵の仇討ちだけでは済まされない状況なのだ。
もちろんこれにもカラミティの扇動が関わっている。
加えて僕らがガルディオンを持ち出したことで、実際に剣を交えるまでもなく敵軍を追い返してしまった。
ガルディオンに脅かされた者たちは、わけもわからず逃げ帰ったことだろう。しかし当然ながら、そのまま報告するわけにはいかなかった筈だ。でなければ罰せられてしまう。
さぞかし僕らの悪事を盛って伝えたことだろう。結果的に余計な証人が増えてしまった。洗脳が解けた混乱があったからって、自領に帰り着くまで混乱しっぱなしだったわけでもないだろうしね。指揮官は保身のために必死になって知恵を絞ったことだろうさ。
周辺諸国の参戦理由は主に二つ。
一つはこの戦争が未開拓領域を刺激しかねないものであること。もう一つは複数のガルディオンというわかりやすい脅威が彼らの危機感を煽ったことだ。
こちらの地域では噂にしか耳にすることのなかった、かの有名なガルディアス竜王国とその守護竜が、世界に向けてその牙を突き立ててきたのだと誤解されてしまったのだ。
かと言って、今更ガルディオンの防衛線を解くわけにもいかない状況だ。
膠着状態も長くは続くまい。カラミティは犠牲を恐れてなんていないのだ。今は単に準備が終わっていないだけなのだろう。完全に軍が行き渡ったら、犠牲も厭わず突撃命令を下すだろう。そうなれば僕らだって戦わざるを得ない。当然犠牲者も出るだろう。
そして残念ながら話し合いに応じるつもりはないようだ。
相変わらずカラミティを捕まえて話をする機会は得られていない。
「マリー。やっぱり僕も前線に」
「なりませんわ。敵の目的はアミ様なのです」
「だからこそ都合が良いんじゃないか。僕が直接説得に赴くよ。先ず何よりそのキッカケを掴まないと」
「わからぬのですか? こちらにアミ様がいるからこそ敵は攻めあぐねているのですわ。万が一があっては困るのです」
「それはガルディオンが」
「いいえ。カラミティがあの秘密に気が付かない筈はありませんわ」
……そうだね。カラミティにとっては数十体のガルディオンだって大した脅威にはなりえないんだ。
「いかなお姉様と言えど、同時攻撃を行うには魔力が到底足りませんわ」
わかってるさ。
「でも何か手は打たないと」
どの道時間の問題だ。
「ならば未開拓領域を盾にとるのは如何です?」
「……まさか。意図的に刺激して魔物たちを追い立てるのかい? 周辺諸国にけしかけて、このまま攻め込んだらどうなるかって見せつけるのかい?」
「防衛のために軍を引かねばならなくなります。一石二鳥ですわ」
「それをやれば陛下が王国軍を止められなくなる」
それに犠牲者だって。それも戦争に直接関わるものではなく、ただ未開拓領域の近くに住んでいただけの人々から犠牲になるのだ。
「いずれは通る道ですわ。アミ様は世界の覇王となるお方なのですわ」
「僕が世界を取ろうとしたのは守るためだ。奪うためじゃない」
既にその理由は無くなった。カラミティさえ捕まえれば世界を滅ぼそうとする者はいなくなるのだから。
「その世界が牙を剥いたのです」
「いいや。悪いのはカラミティ一人だ」
「違いますわ。どのような理由があれど、彼らはその者の提案に乗ったのです。彼らには戦う覚悟があるのですわ」
「……僕には無いって。そう言いたいのかい?」
「わかっているではありませんの」
「……世界を取るために戦えと?」
「ことここに至って遠慮の必要はありませんわ。存分にそのお力を振るってくださいまし」
「僕に力なんて……」
「あるではありませんの。こうして領地を敵軍に覆い尽くされて尚、対抗し得る力が」
「それはステラの力だ。しかもハリボテだ」
「いいえ。それはアミ様に戦う意思が無いからですわ」
「……」
「やりようはいくらでもありますのよ。特別な魔術を放たずとも、あの巨体が人の上で暴れ回れば大勢が死にますわ」
「そんなの!」
「犠牲者を出さずに追い払うだなんて都合の良い方法は存在しませんの。どうか現実をお認めになってくださいまし。魔術は加減の為の手段ではありませんのよ」
「そんなの……」
「彼奴めは舐めているのですわ。アミ様には非情な決断が下せないと高を括っているのですわ。それを誰よりも理解しているのですわ。虚を突くには奴の想像を越えるしかありませんわ」
「……けど」
「ならばお姉様を差し出しますか? ガルディオン共々縄で縛って敵の中に放り込みますの? それともこのまま抵抗も許さず死んでもらいますの? 前線に立て。しかし決して人は殺すな。そんな矛盾を押し付けますの? お姉様たちにはその身が崩れ落ちるまで壁になってもらいますの?」
「……させるわけないだろ」
「ならば決断を。アミ様が為すべきことはそれだけですわ。前線に出て魔術や剣を振るうことでも、兵たちを鼓舞することでもありませんわ。ただ決断を。それだけですわ」
「……」




