04-04.致命的な弱点
ステラが動き出した。
僕は一人残り思考を続ける。
考えるべきことは沢山ある。カラミティ用の探索機には課題も多い。そもそも単純な魔力視で魂のラインが追えるわけじゃない。それならステラがとっくに追いかけている。だから通信魔道具の技術を応用する必要がある。
……しかし今はコルカに任せよう。未だカラミティを打ち倒す方法を見つけられていない。このままでは捕捉しても意味がない。ステラが分身出来るならともかく、他の誰かにあの子を捕まえられる筈がない。
……せめて方針だけは決めておかないと。あの子を完全に滅ぼすのか、あくまで生け捕りにして話し合うのか。
もちろん可能性が高いのは後者だ。あの子の望みは僕なのだ。だから話し合いで止まる可能性は皆無じゃない。
しかし、そんな甘い考えで許されるのだろうか。完全に討ち滅ぼすと決めて立ち向かうべきではなかろうか。あの子は多くの人の命を……そして僕らの父の命を奪ったのだ。
僕らは仮にも、前伯爵に対して父になってほしいと願い出たのだ。だから僕らにだって仇討ちの義務がある。あの哀しき父の運命にせめてもの救いを齎したい。あの子を産み出し、あの子の半身でさえある僕の立場で言えたことではないけれど。
……そうか。半身。僕が死ねばあの子だって。
……。
…………。
………………。
「領主様」
「やあ、ヴィオラ。どうしてここに居るんだい?」
「奥方様より見張っているようにと仰せつかりました」
「流石マリーだね。僕の考えなんてお見通しか」
「早まってはいけません」
「これしか方法が無いんだ。理解しておくれよ」
「なりません」
「頼む」
「認められません」
「どうしてもかい?」
「どうしてもです」
「……」
「聞き分けてくださいませ。アミ様。でなければステラ様をお呼びします。ステラ様の眼の前で実行する勇気は無いはずです」
ヴィオラはそう言って通信魔道具を示してみせた。
「……なんて意地の悪いメイドだ」
「アミ様!!」
今度はマリーが現れた。
なんて意地の悪いメイドだぁ……。
「今のは時間稼ぎだったんだね」
ステラと繋がっていると言ったのも嘘か真か。油断は出来ない。もう一つくらい隠し持っているかもしれない。
バチンッ!
スタスタと近づいてきたマリーが容赦なく平手打ちを放ってきた。そのまま抱きつくマリー。
「わかった。ごめん。観念するからさ。泣かないでマリー」
少々衝動的に過ぎたね。もっと計画的にやらないとダメだったよね。ステラがいないからチャンスだなんて、短絡的に考えてしまったんだよ。皆僕の考えなんてお見通しだったわけだ。本当に申し訳ない。
「決して!! 逃がしませんわよ!!!」
痛い痛い! 締まる締まる!!
「ごめんなさぁ~い~~!」
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マリーは僕を側で見張ることにした。仕事を進めながら、片時も目を離しはしなかった。
完全に信頼は失われてしまったようだ。ぐすん。
「ええ。大至急。……陛下と繋がった? もちろんですわ。陛下。はい。こちらはどうにか。アミ様もご無事ですわ。ええ。ステラ様が間に合いましたの。王都は……そうですか。ならば援軍は期待出来ませんのね。いえ。感謝致しますわ。それだけ聞ければ十分です。後はお任せを。はい。では」
何か朗報もあったようだ。
「王国軍の参戦は陛下が抑えてくださいますわ」
確かに朗報だ。寄せ集めの領軍だけなら、我が領軍でも十分に迎え討てるだろう。
「近隣諸国の軍はどうかな」
「間違いなく介入はあるものかと。しかし大ぴらには動けませんわ」
現実的に考えるなら、国境を守護する領の領軍に混ざるとか、そんなところだろう。戦争が激化すればその限りではないだろうけれど。今大っぴらにやれば王国軍が討伐に動き出す筈だ。いや。敢えてそれを狙うという策もあるか。軍が王都を……御爺様の庇護下を離れれば、カラミティが掌握することだって出来る筈だ。
ううん。違うね。カラミティは一度失敗している。ステラが戦場で全ての兵の洗脳を解いてみせた。だから同じ手段は使わない。そんなの時間の無駄だ。あくまで操るのは一部の王侯貴族程度。要するに軍隊を所有する者たちだ。
それも洗脳に頼るとは限らない。現フォルティス伯爵のように、自らの目的を持って侵攻を企てている者たちも存在する筈だ。むしろカラミティはそういう者たちをこそ扇動するのだろう。彼女は世界を巻き込む戦争がしたいんだから。
「アミ様。奴は人を使いますわ」
わかってる。
「何か理由がある筈ですわ。お姉様を振り回しておきながら未開拓領域に手を出さなかった理由が」
……。
「……カラミティ自身は呪いを扱えない?」
人を介さないと扱えない? でないと自分が汚染されてしまうから?
「かもしれませんわね。それが出来るならとっくに目的を果たしている筈ですもの」
必ず操った誰かをけしかける必要があるのか。けどそれにしたって……。
「おそらく洗脳も絶対的なものではないのかと」
それもあるかもしれない。何か最低限の思考誘導は必要なのかも。前伯爵を殺害して仇討ちという大義名分を用意したように。
或いは単純に今までのあの子は大した力を持っていなかったのかも。あの子が今程の力を得たのはつい最近なのかもしれない。そういう条件がいくつも重なって今があるのかも。
「大っぴらに動き出した要因を思い返してくださいまし。きっと何か弱点となり得る秘密が隠されている筈ですわ」
何か……。いったい何が……。




