04-02.作戦会議
あの子は僕を欲しがっている。
僕だけを大切な相手と認識している。ステラはその障害だとしか思っていない……とも言い切れないのかもしれない。
何せあの子は僕の魂を持っているんだ。ステラを愛する気持ちもあるのだろう。それ以上に大切な僕を取り合うライバルと認識しているだけで。
「ごめんね、アミ。本当はあなたの魂も取り戻せたらよかったのだけど」
そうか。あの敵兵士たちを解放した術式はそのために。
けれどカラミティが僕の魂を取り込んでから長い時間が経ち過ぎていたのだろう。或いはあの魂を取り込んでしまえば僕に影響が出るかもしれない。研究はしていたけど、実際に取り戻すわけにはいかなかったということか。もしかしたらまだ先があるのかも。研究半ばで慌てて飛んできてくれたのかもしれない。
「続きを話すわね」
「うん。お願い」
「……あの子はフィリーを介して私の研究を覗いていたの。私はそれに気が付かなかった。あの子はぬいぐるみのフリをしていたから。あの子はそうやって、ずっと私とアミの様子を見守っていたのでしょうね」
伯爵が通信魔道具を持っていると知っていたのも……。
「あの子は私の研究が完成すると急に飛び出して行ってしまったの。その後は世界中を飛び回ったわ。あの子ったら私から離れても自由に飛び回るんですもの。それも私にすら追いつけないスピードで。その時になってようやく気付いたわ。今フィリーの中に居るあの子はアミじゃないって」
遅いよ……。もっと早く気付いてよ……。
そうしてまんまと時間を稼がれたと……。
「あの子は自分で全てを話してくれたわ」
「拒絶したの?」
「誤解があったのよ」
だからステラは許してくれないって?
「罪は償いなさいって、そう言っただけなのだけど」
何か間違って伝わっちゃったのかな。あの子って、僕の話もちょくちょく聞いてなかったよね。元がスライムだから、何か言語や思考にズレでもあるのかもしれない。
「最後にあの子はこう言ったの。王は手中に収めたって」
「それで御爺様を連れて向かったんだね」
万が一のためだけじゃない。きっと御爺様も責任を感じたんだ。普段どれだけ倫理観の欠如した言動をと取ろうとも、自分たちを苦しめてきたのと同じ呪いが広がろうとしている現状には、思うところがあったのだろう。……或いは実験台を求めて……なんてことでは流石にないと思う……けど。
「ええ。実際あの子は王都でも好き勝手してくれたみたい。誤解を解くにも随分と時間が掛かってしまったわ」
そんなことになっていたんだ……。
「私は通信魔道具を届けに来た使者の話を聞いて、慌てて飛んできたわ」
あの時居たんだ。向こうに。ステラも。
「そっか。あの子が王都で。一度目の使者はそんな話してなかったのに」
「その後でしょうね」
タイミングがバッチリだね。
「本当に全て筒抜けだったわけだ」
「ええ。けれど安心して。今のあの子はもう覗けないわ」
あらま。流石はステラ。それにガルディオン。まさかもう手を打ってくれていたなんて。
言われてみれば、あの子、僕との戦いの最中も一々驚いていたもんね。あの時ステラはまだ現れていなかった。なら僕の側じゃなくて、あの子の方に何か細工を仕掛けたのか。
「それも誤解とやらの原因なのかな」
「そうでしょうね。あの子にとっては許し難いものだから」
僕との繋がりを強制的に断たれたことで、ステラに対して強い不満を抱いているのだろう。憎んでいるという程の敵意は感じなかったけれど。やっぱりどこか遊びの延長のような態度だったように思うし。
「次はどんな策を仕掛けてくるかな」
「本当に王都は心配ありませんの?」
どうだろう……。近隣領の兵士たちで足りないなら、次に動かすなら王国の正規軍って可能性は高そうだけど。
「きっとまだフォルティス軍も諦めてはいないわ」
ああそっか。ガルディオンに驚いたのと、洗脳が解けた混乱で逃げ帰っただけだもんね。それも現場だけで、後ろで踏ん反り返っているであろう者たちがどうなっているのかはわからない。
「アミ様。現フォルティス伯爵は洗脳下に置かれていないのでは?」
「今はそうだろうね。カラミティが所持していた魂の欠片たちはあらかた解き放たれたようだったし」
「いえ。そうではなく」
「最初から?」
「はい。ここまで用意周到にお二人を振り回してみせたのですわ。元がスライムと侮るべきではありませんわ」
そうだね……。御爺様の魂の一部とそこに付随する知識も有しているみたいだし。相当知恵は回るんだろうね。
「今度は洗脳無しでもう一度仕掛けてくるつもりかな」
「可能性はありますわ。竜種の討伐ともなれば冒険者ギルドも動きますわ」
「ステラのふりをして仲間を募るのか」
「こちらが偽者であると吹聴するつもりではないかと」
厄介な……。
「王国軍と連携して挟み撃ちに出来ないかな」
陛下は事情をご存知のようだし。
「それは無理ね。理解を示してくださったのは陛下だけよ」
王都は依然としてステラを敵視していると。カラミティが残した爪痕は大きそうだ。
「内地の領軍だけならともかく、冒険者たちまでとなると厳しいね。戦争が長引けば国中、或いは近隣諸国からも兵力が集まってくるかもしれないよ」
カラミティの目的を考えれば十中八九巻き込むだろう。周辺諸国は我が国の内戦に嬉々として、或いは鬼気として手を出すだろう。ある者はアルカディア王国の切り取りのため、ある者は未開拓領域をも刺激しかねない争いを止めるため。
「マズいな……とにかく早く動かないと……あそこで取り逃がしたのは失敗だったね」
「いいえ。あれだけを捕らえてもあまり意味はないわ」
「というと?」
「あの子の肉体はあれ一つではないの」
「なにそれ。どういうこと?」
「言ったでしょ。あの姿は投影体。お化けのようなものだって」
「そんなのがいくつも存在するの?」
「ええ。あの子は分裂出来るのよ。スライムだから」
えぇ……。
「いざとなれば核となるスライムの肉体を捨てて魂だけを回収できるの。擬似的な転移みたいなものね」
「なぁにそれ……」
僕が戦ったのは投影機の一つに過ぎないのか……。
これって本体がどこかに存在するわけでもないのだろう。きっと全てが同等の存在なんだ。
「けれど逆に言えば、一つでも捕まえれば他を辿れるんでしょ?」
「その必要はないわ。アミの魂だって同じだもの」
「もしかして辿れるの?」
「それをするのはアミの役目でしょ」
……そうか。通信魔道具の技術と魔力視。それに偵察機も使えば、世界中に散らばった僕の魂の欠片を辿れるかもしれない。その先に必ずあの子はいる。例え何体に分裂しようとも、全ての居場所を特定出来る筈だ。
「いや無理だ。世界中に配備するには時間が掛かり過ぎる」
中継地点を設置しながら広げていかないと。そんな事をしている間に戦争は止めようも無い程広がってしまうだろう。
『我の魔石を使え』
「……そうか。ガルディオンの魔石なら」
ステラが取り込んだのはその一部だけって話だ。まだその殆どはガルディアス竜王国で保管されている筈だ。
「あれで偵察機を……本当にいいのかい?」
『無論だ』
しかし量産が間に合うだろうか……。
仮に全てのカラミティを見つけ出したとしても、捕縛に掛かる人員だって足りていない。ステラですら一筋縄ではいかない相手だ。それを世界中でほぼ同時に捕らえていくだなんて出来っこない……。
「アミ様」
「……うん。マリー。とにかく動こう。出来ることは全てやるしかない」
「はい! アミ様!」
「コルカも全力で頼むよ」
「はい。旦那様」
「ステラ。僕らは引き続き作戦会議だ。もし一体でも捕らえれば対話で解決することだって出来るかもしれないからね」
「ええ。アミ」
「よし! やるよ! 皆!!」
「「「はい!!!」」」




