03-08.帰還
ステラ擬きは本物と遜色ない力を示してみせた。
「あら~? もう終わりなのかしら~?」
「くっ……」
「口ほどにも無いわね~♪ お姉ちゃんがっかりよ~♪」
……いい。これでいい。
僕は囮だ。最初から決めていたことだ。
もし万が一、ステラが敵に回ってしまった場合。僕が一人で敵を引き付け、その隙に皆には逃げてもらう。ステラなら僕を無視は出来ない。たとえ洗脳されていたって。偽者だって。
既に領都に残っていたのは軍だけだ。大丈夫。準備は万端だ。最悪の事態にだって備えてはあったのだ。だから……。
「あら? なにかしらこれは? きゃっ!?」
ステラ擬きの眼前にふわふわと近づいていった鉄球が、突然爆発した。
「も~。危ないわね~」
ステラ擬きは当然のように無傷だ。
「まだまだ!!」
次々と鉄球を飛ばしていく。今度はふわふわとではなく、高速で。全ての鉄球はステラ擬きに近づくと、破片を撒き散らしながら爆散した。
「もう。効かないってわかっているでしょう?」
「諦めない!!」
「し・つ・こ・い~。アミが怪我しちゃうじゃない」
突然全ての鉄球が空中で静止した。完全に制御を失った鉄球はあらぬ方向へと飛ばされ、爆発することもなく地中に埋め込まれた。
「動いてはだめよ~♪ 差し詰め即席地雷原ね♪」
「やっぱりお前はステラじゃないな!!」
わかっていたことだ。確信はとっくに持っている。しかし今のは決定的な証拠だ。ステラは魂の秘術を扱えない。だと言うのに、僕以上の精度でコントロールを奪って見せた。
「あら? まだ気付かないのかしら? 今のは大きなヒントだと思うのだけど?」
そんなことを言いながら顔を近づけてきた。
「よ~く見てみなさい♪ このお姉ちゃんの顔を♪」
「……まさか!?」
そんなばかな!?
「ふふ♪ やっと気付いたみたいね♪ せいか~い♪ そうよ♪ 私は『ステラ・ディアス』じゃない♪ あなたよ♪ 『アミ・ラクティ』♪」
いったいどういうことだ!?
何故僕と同じ顔を!? 何故ステラの格好を!?
こいつは何者だ!?
「けれどややこしいわね♪ 私のことは『カラミティ』と呼んでちょうだい♪ もちろんお姉ちゃんでも構わないわ♪」
「ややこしくしているのはお前だろ!!」
待て! 今こいつなんて!?
「あら。意外と平静なのね」
そんなわけあるか! 混乱してるに決まってるだろ!!
「私の生まれを語ってもいいのだけど、こんな場所じゃぁねぇ。せめてお茶とケーキくらいないと♪ アミには私の誕生を祝ってもらいたいもの♪」
なんだこいつは!? なんなんだいったい!?
「降参してくれるかしら? そうすれば悪いようにはしないわ。私の目的はあなたよ。アミ」
「こんなことをしてステラが黙っていないぞ!」
「ええ。もう直姿を表すでしょうね。それこそ私の狙い通りよ♪」
「僕を人質にするつもりか!?」
「違うわ。あなたのことはただ欲しいだけよ。決して傷つけられない相手は人質として不適切でしょう? だから人質は別にいるわ♪」
「まさか!?」
「ふふ♪ やっぱり気付くのが遅いわね♪ そうよ♪ この愚かな兵士たちは、み~んな私の人質よ♪」
くっ!? この人数を!? 全部!?
「もちろん仕込みは済んでいるわ♪ 今も大人しく待っているでしょう♪ つまりはそういうことよ♪」
まさか!? 魂の秘術を!?
「彼らの魂を少しずつ削り取ったの♪ あなたの通信魔道具と同じよ♪ 手元の欠片を通じて本体に命令を送るだけ♪ 爆散も簡単♪ ありがとう♪ アミ♪ あなたのお陰で思いついたの♪ あなたはいつも私に与えてくれるわね♪」
「ふざけるな!! そんな馬鹿な話が!!」
「出来るわよ♪ 魔石って魔物の魂が結晶化した物質ですもの♪ 人間の魂にだって同じことが出来ない筈はないじゃない♪」
「そんな話をしているんじゃない!!」
「怒らないで。ステラが素直に言う事を聞いてくれたら無事に解放するわ。けれど私を攻撃してしまったら少し困ってしまうわね。魂の欠片を返してあげられなければ、彼らはきっと元には戻れないでしょうから」
僕に止めろって言うのか!? ステラを説得しろと!?
「アミ。あなただけが頼りなの。どうか私のことも認めて頂戴。私だって同じ顔をしているんだもの。姉妹として受け入れてはもらえないかしら?」
「何故こんなことをしたんだ!? 最初からそう言えばよかったじゃないか!! いや! 今からでも遅くはない! 人質を解放しろ! そうしたら僕が守ってやる!!」
伯爵殺しの罪は償わせる。人々を洗脳し、この領を荒らした罪も。他にも罪は数え切れない程あるのかもしれない。
けれど今はこう言うしか無い。僕には勝てない。ステラと同等の莫大な魔力を持ち、僕と同等の高度な魔力制御技術を持つ彼女に勝てる者なんて……いや。ステラならそれでも勝てるのだろう。だから彼女はこんなにも警戒しているのだろう。真っ向から戦えるなら人質なんて必要無かった筈だ。
「無理よ。ステラが決して認めはしないわ」
……それは。
「アミ~~~~~~~!!!!!」
突然周囲が暗闇に覆われた。
僕らの上空から巨大な竜が降りてくる。その巨体が影となって僕らを覆い尽くしたのだ。
「ギャァァァァァォォォォオオオオン!!!!!」
竜の咆哮を浴びた敵軍は、急に目を覚ましたかのように、散り散りになって逃げ始めた。
「嘘でしょ……これは想定外よ……」
カラミティの身体から人々の魂が抜け出していく。
「嘘っ!? 待って!? ダメよ! そんなぁ!!」
どうやら意識を取り戻した本体に引き寄せられているらしい。カラミティの制御を完全に脱したのだ。それにおそらくあの咆哮だ。何か高度な術式が込められていたんだ。
「無事ね! アミ!」
ステラが飛び込んできた。良かった。本物だ。
「気を付けて。足元。地雷が埋まってるから」
「えいっ!」
ステラの魔術は広範囲の地面を抉り取った。反応して鉄球が暴発したものの、ステラの魔力を通された土砂は欠片一つ逃さずに押し固められた。
「え~い!」
そのまま砕けた鉄球入りの土の塊を巨大な球状にして、容赦なくカラミティの頭上から振り下ろした。
「やったの!?」
「ダメね。逃げられてしまったわ」
「うっそ……あの状況で?」
「あの子、スライムだから。物理攻撃はそもそも効きづらいのよ」
「スライム……? え? なに? どういうこと?」
「後で詳しく説明するわ。ガルディオンもありがとう。悪いけれどもう少しだけ力を貸して頂戴」
『うむ』
ステラは今まで何をしていたのだろう。どうして死んだはずのガルディオンが……。
「ねえ、まさかステラが原因だったりしないよね?」
「何を言っているのよ。原因はあなたよ。アミ」
え? 僕?
「あの子はアミが産み出したのよ。私のフィリーも取られちゃったんだから」
あ、ほんとだ。フィリーがいない。カラミティの持っていたあのフィリーだけは本物だったんだ。
「ほら。ぼさっとしていてはダメよ。領主としてやるべきことがいっぱいあるでしょ」
そうだね。問い詰めるのは後にしよう。




