03-03.協力者
「……話は終わっておらん」
まだ心を開いてはくれないか。これでは理解が不十分だと言いたいのだろう。
そもそも伯爵の目論見はなんなのだろう。
先程マリーは、伯爵が私怨のみで動いているわけではないと口にしていた。
つまり伯爵の行動……我がフォルテイア辺境伯領への妨害工作は、王家に対する復讐でも、ラクティ辺境伯家に対する報復でもなかったのだ。
「我々の目論見は王家とは別のところにあるのです。ですからどうか、力を貸してくださいませ。伯爵閣下」
「なにが違うと言うのだ。先程自ら口にしておったではないか。貴様らの目的も同じであると。我が息子を奪った主犯格である、かつての王太子と志を同じくするのだと」
「それは世界を救うためですわ。彼とは根本たる志が異なりますわ」
まさか話す気かい?
「ご聡明な伯爵閣下のことです。とっくにご存知なのでしょう? 赤金等級冒険者。ステラ・ディアスが振りまく破壊の意味を」
「何の話だ」
「彼女は世界を救いたいのです。我々は彼女と志を同じくする者です」
「……」
「耳にされてはおりませんか? 魔物たちの暴走を。本当に気付いてはおられませんか? 彼女がそんな魔物たちだけを狙って殲滅していることを」
「……報告は受けている」
「ならば」
「奴は王家の犬だ。証拠を消して回っていただけだ。王家が隠す禁忌の術が漏れ出したのだろう。奴はその後始末をしているにすぎん」
本心じゃないな。これは。
僕らの言葉を引き出すためのブラフだ。
わざと挑発しているんだ。やるね。僕一人だったら危なかったよ。いや。絶対乗ってたね。何せステラのことだから。
むしろ伯爵は、ステラが王家と敵対している可能性も考えていたみたいだ。
驚いたな。本当に聡明だ。マリーが言ったのはお世辞でも嫌味でもなかったのだ。どうやってそこまでの情報を?
「違うと言うなら『魔道具』についてはどう説明をつける。それが何よりの証拠であろう」
なるほど。そこに繋がりがあると考えたのか。
それに見切りも早いな。僕らが挑発に乗ってこないと見るや、即座に次の手を放ってきた。
しかし困ったね。痛いところを突かれてしまった。
魔物を暴走させる禁忌の術と、魔石を利用する魔道具。これは確かに似通っている。同じ研究の産物であると見るのはそうおかしな話でもない。
加えて魔道具の出どころについては説明のしようもない。僕の事情を正直に話したって、誰が前世の話なんて信じるというのだろうか。せめて先にマリーにだけでも話しておけば対策を練りようもあっただろうに。
「例の事件が全くの無関係とまでは申しませんわ」
ほわい?
「流用したのか?」
「表裏一体ですわ。調査の過程で知り得た知識を用いたのですわ。これは敵の技術そのものを流したという意味ではありません。研究には副産物が付き物であるという意味ですわ」
上手いな。流石マリー。
「ラクティ辺境伯は真摯に取り組んで参りました。魔道具はその成果の一端ですわ。それにドワーフの共同研究者もおりますの」
「ドワーフ……」
納得したかな?
「ボロを出しおったな」
ありゃ。怒ってらっしゃる。
「奴は我が領内に工房を構えておったのだ。奴を手引したのはやはりお前たちであったか。それもつい最近姿を消したばかりだ。私が情報を掴んでいないとでも思ったか?」
それじゃあ言い訳としては使えないね。魔道具発明の件とはタイミングだって合わないし。
「そうですわね。最近はお爺様の方もこちらにお越しになられましたわね」
「……お爺様だと?」
ありゃ? まさか?
「我々の協力者は『コルカ』という名の女性ですわ。伯爵の仰っているお方とはドワーフ違いでしてよ」
「……」
そっか。コルカは引き籠もりだったって話だもんね。それにあの容姿だ。普通に町中歩いていたって人間の少女……或いは少年と区別がつかないもんね。
もちろんマリーのことだから、下調べや根回しもバッチリなのだろう。あの爺さんに孫がいたことは誰にも知られていなかったのだろう。見られていたとしても、精々弟子の少年くらいにしか思われなかったはずだ。それくらいこの国ではドワーフって珍しい種族だし。
これなら通るかな? 言い訳として。
「……少しは悪びれよ」
「申し訳ございません。伯爵閣下。本人たちたっての望みでございましたので」
取り敢えずこの方面からの追求は諦めたようだ。
「王家の関与は否定せぬのか?」
「あいにくと、その証拠を持ち合わせておりませんの」
流石に共同調査に関する話しまでは出せないよね。
「我々は現在とある組織を追っておりますわ」
いよいよ本題だ。
「彼らの目的は全てを破壊すること。おそらくその先にあるものと思われますわ」
正直目的はハッキリしてないんだよね。ただ一つわかっていることはある。
「そのための手段には見当がついておりますの。彼らは未開拓領域の魔物たちを解き放つつもりなのですわ」
「……まさか」
「隣国、未開拓領域を挟んだ向こう側、ガルディアス竜王国に関する一件は?」
「……守護竜討伐か」
これも知っているか。それも当然か。
あれだけの大型竜だ。フォルテイアで仕留めきれなければ自領にも被害が及ぶかもしれない。その襲来は当然領主の耳に届いていた筈だ。彼女がステラに討たれたことまでしっかり確認を取ったことだろう。
「かの国の守護竜、黄金竜ガルディオンが敵の手に落ちたのですわ」
「……」
「そしてかの竜は……伯爵閣下もご存知の通り、ステラ・ディアスが打ち取りましたわ」
「……聞き及んでおる」
「結構。ならばおわかりですわね? ガルディオンは未開拓領域に呪いを振りまくために利用されたのですわ」
「……信じ難いな」
「時間がありませんの。我々は未開拓領域を切り広げて世界を一つに束ねねばなりませんわ。でなければ多くの国々が滅びゆくでしょう。あの森が汚染されれば……あの森に住まう強大な魔物たちが溢れ出せば、それは必ず訪れる未来なのですわ。かの赤金等級の力を以ってしても避けられぬのです」
「それこそ同じことではないか」
「だから人が必要なのですわ」
「危険だ。開拓を急げばしっぺ返しを食らう。それも我々だけではないのだ」
そうか。それで流入を抑えていたのか。本当に伯爵は私怨で動いていたわけではなかったんだ。
「立ち止まっている時間もありませんわ」
「伯爵。どうか僕らに知恵を貸しては頂けませんか? 僕らは見ての通りの若輩者です。未曾有の危機に対処したいという熱こそありますが、いかんせん経験が足りておりません。どうか伯爵の見識をお聞かせ願いたいのです」
この方は間違いなく優秀だ。何十年も領主を勤め上げた大ベテランだ。そして問題の本質を見抜く、極めて高い洞察力をも兼ね備えている。僕らには大人の知恵が必要だ。
「伯爵閣下。どうかわたくしどもをお導きください。わたくしどもの親代わりとなって頂きたいのです」
「……」
酷い話だ。自分の息子を弄んだ王家と辺境伯家の者たちが、今度は年老いた伯爵自身すら利用しようとしているのだ。
彼とて、長年国を支えてきた宿将だ。父のような派手な武功こそないが、間違いなくこの国のために尽くしてくれていたのだ。王家に幾度裏切られようとも……それでもなおと、領主の務めをまっとうし続けてきたのだ。
そんな彼に僕らはまだまだ働けと言う。
自身の立場も弁えずに。
本当に酷い話だ。




