03-01.会談
「ようこそお越しくださいました。フォルティス伯爵」
会談の日がやってきた。
フォルティス伯爵は隣領の領主だ。
会談の目的は「相互理解」と「仲直り」だ。
現在彼は、我がフォルテイア辺境伯領に嫌がらせを行っている。発展を続ける我が領に(自領の者に限らず)人が流れないように工作を行っているのだ。
陛下の協力要請にすら従うつもりはないらしい。陛下は我がフォルテイア辺境伯領の発展……ひいては国家の繁栄を強く願っているというのにだ。
我がラクティ辺境伯家は、数百年程前にフォルティス伯爵家から分かたれた分家筋だ。
加えて、現ラクティ辺境伯であるこの僕は、ラクティ辺境伯家の血を継ぐ者ではない。どころか平民生まれの養子だ。
先代ラクティ辺境伯たる父は、二十年以上前にフォルティス伯爵家から養子を取っていた。僕の兄に当たる人物だ。
彼はとても勇敢で聡明な方だったそうだ。しかし、未開拓領域の魔物たちとの戦いで命を落としてしまわれたそうだ。
僕は直接お会いしたことがない。どころか彼の名はラクティ家から完全に抹消されてしまっていた。知る者がいないどころか、墓石にすら名を刻まれていなかった。
その情報を齎してくれたのは、元第七王女のマリーだ。つまり王家は把握している情報だということだ。あくまで消されたのはフォルテイア辺境伯領内における情報だけなのだ。
あのお父様がそんな事を自ら選ぶ筈がない。まず間違いなくフォルティス伯爵の意思が関与している筈だ。出来ることならその情報も聞き出したいものだ。
しかし慎重に進めねばならない。フォルティス伯爵の年齢が六十近い現状を鑑みるに、僕の兄にあたる人物はフォルティス伯爵の息子でもあった筈だ。
辺境伯家乗っ取りの足がかりとするなら、本家筋として血の濃い者が選ばれたことだろう。それがたとえ伯爵家自身の大切な跡取りであってもだ。
つまりこの伯爵は、自らの長男を辺境伯家に差し出したのだ。本来貴族にとって、それは屈辱を伴うものだ。自らの家の正統たる後継者を手放す……守ることが出来なかったとも取られるからだ。
しかしそれでも「辺境伯家」の地位と領地、そして勇名は魅力的に過ぎたのだろう。
何より、ラクティ家は元々はフォルティス家から分かたれた分家筋だ。本家がそれを取り戻そうとしているだけなのだから、後ろ指を指されるようなものじゃない。多少やっかみを買ったところで、このチャンスを無駄にする理由もない。
そうして欲を張った結果……なんて言い方をするべきではないと思うけれど、多くの貴族はそう考えるだろう。結果として、フォルティス伯爵家の長男であった男は、このフォルテイア辺境伯領で命を落とすことになってしまったのだ。
フォルティス伯爵にとっては散々だろう。本来伯爵家を継ぐべきだった正統なる血筋の子が、何の成果も残せずに散ってしまったのだから。
たとえフォルテイア辺境伯領では英雄のように扱われていたとしても関係ない。フォルティス伯爵にとっては汚名のようにしか感じられなかったのかもしれない。
実際後ろ指は指されていた筈だ。だからだろう。おそらく彼が許さなかったのだろう。我が兄がラクティ家の墓で眠ることを。その名を一切出さぬようにと我が父……先代ラクティ辺境伯に約束させたのだろう。
そんな因縁の地であるフォルテイア辺境伯領に、彼は自らの意思で乗り込んできた。会談を申し込んだのはこちらだけど、会場をこちらに指定したのは伯爵自身だ。
何か僕に言いたいことがある筈だ。心しよう。彼がどのような憎悪を抱いていようとも。僕にはそれを受け止める義理がある。兄の落命は父の失態だ。ひいては、現当主である僕自身の責任だ。そこは認めよう。
「ふんっ。随分と羽振りが良いようだな。この家は」
「ええ。多くの者に支えられてまいりました」
「ほう?」
「領民も、先代も。……そして、この家と領地の礎となった全ての方々に」
「……耳触りのいい言葉だ」
耳障りだったようだ。
いきなり踏み込みすぎたかな? 僕からはここまでにしておこうか。マリーが任せろって言ってたし。
受け止めはするけどさ。掘り返すのは僕の役目じゃないもんね。そういう繊細な作業は得意な人に任せるべきだよね。
「さっさと本題に入れ。世間話に付き合う暇はない」
「承知しました。では単刀直入に。我が領に対する妨害行為についてお伺いしたい」
「話にならんな」
「何故でしょう? 証拠は既に提示させて頂いた筈ですが」
だから会談を受けたんでしょ?
「青いな。……まったく以って、なっておらん」
あらま。
「お前では話にならん。執政官を出せ。お前のブレインはどこだ」
「彼女ならば、既におりますが?」
僕の側に立つ、おさげ髪の少女。
彼女はまるで秘書のような格好だ。一見して元王女と気付けないのも無理はない。例え先日の誕生会でその顔を拝見していたとしてもだ。
「王女殿下の顔をお忘れで?」
「……まさか。……貴様」
うん。そうだよ。彼女がこの地の執政官だ。




