00-03.初めての依頼
「クラヴズはどうして領都に近づきたくないのかしら?」
「なあ。そういうこと聞くかぁ? 普通よぉ」
何か失敗でもしてしまったのね。
「ふふ♪ 大丈夫よ♪ クラヴズなら♪」
だってこんなに優しいんですもの♪ 結局依頼にも付いてきてくれたじゃない♪
「約束だからな」
「あら。忘れていなかったのね」
「ああん? あれは。ほれ。報酬を釣り上げる為だ」
「まあ♪ 悪い人♪」
「んなこたねえよ。あの程度の上乗せで金等級の冒険者が動くんだ。ギルドにとっても損はねえ」
ふふ♪ やっぱりわざとだったのね♪
「他にも理由はあるぜ。あん時も言ったが依頼の重複受注や又受けはご法度だ。そうならねえようにギルドにも話を通しとく必要があったんだよ。元々な」
「そっちが本命なのね♪ 勉強になるわ♪」
「いい心がけだぜ。お前さんにはそういう勉強こそ必要だ」
「まだまだ教えてほしいわ♪」
「残念だな。今回が最初で最後だ」
「まあ。寂しいことを仰るのね」
「ゴブリンとはいえ巣穴の殲滅だ。報酬は十分だぜ」
「そういうものなのね」
「依頼票は見てねえのか?」
「もちろん見たわ。けれど相場がわからなかったの。クラヴズがアミにいくらで雇われたのかもね」
「お前さん、よくそれで代わりに支払うだなんて言えたもんだな……」
「クラヴズを信じているもの♪」
「やれやれ。困ったお嬢様だぜ」
うふふ♪
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「これがゴブリンの巣穴ね♪」
目撃情報のあった森の中に洞窟を見つけた。入口を二匹のゴブリンが見張っている。
「おいバカ! 魔術なんて放つな! 捕虜が居るかも知んねえだろ!?」
「まあ!」
それは盲点だったわ! 巣穴ごとぺしゃんこにしてお終いというわけにはいかないのね!
「接近戦は出来るのか?」
「実はそちらの方が得意なの♪」
「まじかよ……」
うふふ♪ 魔法少女と言えば肉体言語♪ それが私のよく知る常識よ♪
「クラヴズには補助をお願いするわね♪」
「合わせてやる。好きにやってみろ」
「まあ♪ 自信があるのね♪」
「仮にも金等級様だからな。魔術師にそっちまで負けたら自信無くしちまうぜ」
「頼りにしているわ♪」
「おう」
それでは行きましょう♪ レッツ魔物退治♪
「は? ちょっ!? 嘘だろ!? お……」
何か言ったかしら? あら? クラヴズは? 私の邪魔をしない為に完全に気配を消して付いてきているのかしら? やるわね♪ 流石だわ♪
「~♪」
ひ~ふ~み~よ~♪ えいっ♪
「ギャッ!?」
「ゲブッ!?」
「ギギィッ!?」
「ゴブッ!?」
次々行きましょ~♪
「~♪」
い~む~な~や~♪ そりゃっ♪
「ガッ!?」
「グボァッ!?」
「ベブッ!?」
「ダバッ!?」
こ~と~♪ どぉ~ん♪
「「ギャァッ!?」」
「あら? もうお終いかしら?」
あっけないわね。それとも奥にもっといるのかしら?
「捕虜さ~ん♪ 居たらお返事してくださいまし~♪」
……。
…………。
………………。
「もう居らっしゃらないのかしら?」
捕虜の方どころかゴブリンも見かけないわね。もしかして狩りにでも出かけていたのかしら?
「クラヴズ? あなたはどう思う?」
……。
…………。
………………。
「あら?」
返事がないわね。まだご満足頂けていないのかしら?
「どこかに隠し扉でもあるのかしら?」
もう一度よく探してみましょう♪
……。
…………。
………………。
「ビンゴ♪」
見つけたわ♪ まさしく隠し扉ね♪ 岩に擬態して隠れていたわ♪ この先は宝物庫かしら♪
「~?」
なんだか不思議な匂いがするわ。何かしらこの匂い。とっても嫌な匂い。あまり長居したい場所ではないわね。
更に奥へ奥へと進んでいくと、鉄格子のようなものが見えてきた。匂いも更にきついものになっている。それに何かの荒い息遣いも感じる。きっとゴブリンたちが居るのだろう。
それだけじゃない。明らかにもっと大きなものが潜んでいる。上位種のオークかしら? 魔力も持っているみたい。シャーマン? それともキング? この世界ではなんと呼ぶのかしら? 魔物の種類もそう詳しいわけではないのよね。
そもそも何故魔物の巣に隠し扉と鉄格子なんてものがあるのかしら? 人間の作った洞窟を棲家にしてしまったのかしら? だとしたらそこに居た人間は? もうすぐそれもわかるのかしら?
「フガっ!?」
気付かれた。大柄な、やっぱりゴブリンではなくオークらしき何かが複数体。ドシドシと洞窟を揺らしながら駆け寄ってくる。
「火は……使っちゃダメなのよね」
あまり触りたくはないのだけど。匂いの原因はあれらで間違いないようだし。
「「「グギャァッ!!?」」」
結局魔術を使うことにした。地面から鋭く尖った岩を隆起させ、オークたちの屈強な肉体を刺し貫いた。
「……ニンゲン」
あらま。言葉がわかる個体もいるのね。
「オンナァ……」
うわ……。捕虜ってそういう……。
問答無用で魔術を放った。しかし一際大きなオークには岩の槍が通らず砕け散ってしまった。魔力を練り込まれた肉体の硬度は時に鋼すら上回る。下手なシャーマン系よりこっちの方が断然厄介だ。あれがボスで間違いないのだろう。
「硬いわね」
どうしたものかしら。巨大オークは人間の女性を盾にしている。あの方がまだ生きているのかはわからない。いずれにせよあまり乱暴な魔術は使えない。かといって手足の皮膚は硬すぎて岩の槍では貫けない。それでもここが洞窟の中でなければもっと他にやりようもあったのだけど。
「やるしかないわね」
諦めて拳を構える。あまり触れたくはないから手早く終わらせましょう。今は一刻を争う状況だ。早くあの人たちを救出しなければ。
「オンナァ~~~~!!!!」
襲いかかってきた巨大オークを飛び越えて、脳天に踵を振り下ろした。
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「おい! 無事か!?」
「あらクラヴズ。ナイスタイミングね」
「なっ……!? オークだと!? しかもなんて数だ!? これ全部お前がやったのか!?」
もう。クラヴズったら。惚けちゃって。タイミングを計っていたのなんてバレバレよ。捕虜の女性たちに気を遣ってくれたのよね。
「それより清潔な布を持っていないかしら?」
「っ! これだ! これを使え!!」
二人で囚われていた女性たちに布を巻き付けていく。既に魔術で洗浄と治療は済ませておいたが、彼女たちには休息と栄養が必要だ。早くこんな場所は脱出してしまいましょう。
クラヴズと二人で女性たちを抱え上げ、洞窟の外へと運び出していく。更に少し離れたところで野営の準備をし、大急ぎでスープを拵えた。クラヴズは流石の手際だ。あっという間に準備を整えて女性たちの看病を始めてくれた。
「くそっ! 何がゴブリンの巣穴だ!」
一通り落ち着いたところで、クラヴズは声を潜めながら吐き捨てた。
「クラヴズ? あなた震えているの?」
「お前こそ! なんで平気な顔してっ! ……悪ぃ」
「いいえ。本当に助かったわ。ありがとう、クラヴズ」
「……おう」
クラヴズの震えは恐怖によるものだろうか。それとも憤りによるものだろうか。
「……聞かねえんだな」
「私でも空気を読む時はあるわ」
「……なら聞いてくれ」
「ええもちろん。吐き出したいことがあるのなら聞かせて頂くわ」
それで少しでも楽になれるのなら。
「……俺の故郷はオーク共に襲われたんだ」
「そう」
「……オーク共は皆攫っていきやがった。女子供は全員だ」
「……」
「……男は全員殺された。生き残ったのは俺だけだ」
「復讐は果たせた?」
「……最初に聞く事がそれかよ」
「ごめんなさい」
「……変なやつだな。お前ってやつは」
「自覚はあるわ」
「そりゃ驚きだ」
本当に驚いているわね。そのお陰と言うのもあれだけど、少しだけ震えが収まったようだ。
「やめだやめ。柄にもねえこと話しちまった」
「続きを聞かせて頂けないかしら?」
「やめだっつってんだろ。勝手に話し始めておいて悪いとは思うがな」
「私が力になるわ」
「必要ねえよ。俺がガキん頃の話しだ。とっくにオーク共は殲滅されたさ」
「……妹さんは」
「よく聞けるな……。ほんとお前は……。そういうとこは直せ。マジで」
「ごめんなさい」
「妹じゃねえ。姉だ。俺を庇って攫われた。とっくに死んじまったさ」
「……ごめんなさい」
「泣くくらいなら聞くなよ……」
「……うん」
「なあ。やっぱりお前が持っててくれねえか」
クラヴズがクマのぬいぐるみを差し出してきた。
「姉が死んだのもステラくらいの頃だ。これもなんかの縁だろうぜ」
「……うん」
ぬいぐるみを受け取って抱きしめる。
「悪ぃな。感傷に付き合わせちまって」
「……ううん」
「悪かったな。気付いてやれなくて。本当はお前も無理してたんだよな。あんな光景を見りゃ当然だよな。精一杯気を遣ってくれていたんだよな。だってのに俺は甘えちまった。こんなんだからいつまでも姉離れ出来ねえなんて言われちまうんだよな。いやこんなこと言い出したら気持ち悪ぃよな。まるでステラを姉と重ねていたみたいな言い方だもんな」
「……うん」
「そこは否定してくれよ」
「……だから領都に近づきたくないの?」
「違えよ。そりゃまた別件だ。こちとら金等級様だぞ。陰口で逃げ出す程弱っちいわけねえだろ」
「……なんで?」
「この期に及んで聞くかぁ?」
「……この際よ」
「実は泣いたフリしてるだけなのか?」
「酷いわ……流石にそれは傷つくわ……」
「そんな殊勝な玉じゃ……すまん」
「……話して」
「……オークが怖えんだよ。それでやらかした。そんだけの話だ」
「……そっか」
「つまんねえ話聞かせちまって悪かったな」
「……ううん」
「お前ももう寝ろ。見張りは俺に、っ!?」
「……クラヴズ?」
「マズい! お前はここに残れ! 皆を守れ!」
「え?」
「まだいやがった! 数も多い! 俺が注意を引く! 出来れば数も減らしてやる! どうにもなんなきゃ一人ででも逃げろ! ギルドに応援を呼びに行け! わかったな!」
「待って! クラヴズ!」
クラヴズは制止の声に振り向かず、夜の森へと溶け込んだ。




