02-15.得意な仕事
「まあ♪ まあまあまあ♪ なんて愛らしいのでしょう♪」
マリーのテンションがぶち上がった。
散髪を終えて綺麗な服を身に纏ったコルカは確かに美少女だった。正直気持ちはよくわかる。なんというか、抱きついて頬ずりしたくなる可愛さなのだ。マスコット的な意味で。ステラならやってた。間違いなく。
「……」
当のコルカは煩わしげだ。慣れない服で落ち着かないのだろう。それに髪を編み込まれて顔が隠せなくなったことにも困っているようだ。
「ヴィオラ。髪型は変えてあげられないかな」
「ご不満ですか? 領主様の好みに沿うよう仕上げたのですが」
何故僕がおさげフェチだと知っている。
「特に前に垂らすタイプがお好みかと」
心を読むな。
「あら。そうでしたの?」
「はい。間違いありません。ステラ様がそのような髪型をされている際には普段の二割増でご機嫌度が向上致します」
なにさそれ。
「わたくしの髪も結ってくださいまし♪」
「そんな暇無いでしょ。仕事に戻りなよ」
「ヴィオラ! 大至急ですわ! ご機嫌度が下がっていますわ!」
「御意!」
「御意じゃないよ! ほら! 行った行った!」
「ふふ♪ ならば今晩改めてお披露目致しますわ♪ 楽しみにしてくださいまし♪」
マリーとヴィオラは賑やかに去って行った。
「……」
コルカ、今こっち見てたよね?
「僕らも行くよ。仕事場に案内してあげる」
「……服」
「今日のところはそれでいいよ。似合ってるし」
「……うん」
この子はすぐ真っ赤になるよね。
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「てなわけでさ。これが高速で回転すると空気が押し出されて風が生じるの。もっと言うとその反動を利用していてね」
「大丈夫。全部わかった」
理解が速い。
それにさっきまでの遠慮がちな喋り方が引っ込んだね。
「貸して」
僕の作りかけのモーターを受け取ったコルカは、目にも止まらぬ早業で丸ごと作り変えてしまった。
「見事なものだね」
精密さが段違いだ。
試しに魔力を流してみると、驚くほど滑らかに回転を始めた。そうそうこれだよ♪ 求めていたのはこういうのさ♪
「凄いね♪ 本当に♪」
「材質が不向き」
コルカ自身は不満げだ。
「リストを上げておくれ。全て仕入れさせるよ」
「無駄な機構が多い」
「変えてもらって構わないよ。僕は技術者じゃないからね」
「何を参考にした?」
「まだ秘密だ。悪いけどね」
「……」
「大丈夫。僕を信じておくれ」
「……わかった」
「良い子だ♪」
「子供じゃない」
「そうなのかい? ドワーフの年齢はわからなくてね」
「三十」
あらま。
「それは失礼した。けれどドワーフは寿命が長いんだろ?」
何百年も生きるんだから、三十でも子供みたいなものじゃないかな?
「関係ない」
何か拘りがあるようだ。この話題はやめておこう。
「けどよかった。実は僕って姉フェチなんだ♪」
「……」
冗談だってば。そんな顔しないでよ。
「良ければアミって呼んでくれないかな?」
「……旦那様」
気に入ったらしい。それとも警戒故だろうか。
「よろしくね♪ コルカお姉ちゃん♪」
「……やめて」
ちょっと悩んだね。
「コルカ。次は制御機構について意見を聞かせておくれ」
コルカは手先の器用さのみに留まらず、僕の意図を汲み取る読解力や、それを機械的な構造に落とし込む知恵と想像力にも長けていた。
僕らは時間も忘れて魔道具開発に熱中した。コルカもやっぱり物作りが好きなようだ。かくいう僕も、今まで想像の産物に過ぎなかった物が次々と形になっていく様には興奮すら覚えていた。まるで小さな子供になった気分だ。
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「なんだい。マリーお姉ちゃん」
「おねっ!?」
「今いいところなんだ。急ぎでないなら後にしておくれ」
「なっ!? 酷いですわ! あんまりですわ!!」
君が言い出したことじゃないか。
「もう。なんだい? 手短に頼むよ」
「ま、先ずはご報告を頂きたく!」
そっか。もうそんな時間なんだね。
「順調だよ。ほら。見てて」
ラジコンヘリを離陸させてみる。通信機の技術を応用したコントローラーを使って、ぐるりと頭上を旋回させた。
「素晴らしいですわ♪ やはりわたくしの見る目に間違いはありませんでしたわね♪」
コルカの件だろう。
「本当に素晴らしい人を連れて来てくれたね♪」
「……」
コルカはまた赤くなっている。僕と二人の時は平然としていたのに。もしかしてマリーに惚れてる? ふふ♪ 僕のマリーは綺麗だろう♪ 直視出来ない気持ちもわかるぜ♪
「ところでマリー。その髪型なんだけど」
「どうしてそこで気付くんですの?」
「何の話?」
「……」
あかん。何故かご機嫌斜めだ。
「とっても似合っているよ。いつもの君も素敵だけどね♪」
「……まあいいでしょう」
よくなさそう。
「おいで、マリー」
片手でマリーを抱き寄せて、もう一方の手で頭を撫でる。
「ああ。君はなんて美しいんだ」
「お芝居は結構ですわ」
気分じゃないらしい。
マリーは待ち切れないとでも言うかのように、力強く口付けてきた。
「っ!?」
視界の端でコルカが縮こまっている。何か怖いものでも見たかのような反応だ。陽の気が強すぎたかな?
「……熱烈だね。妬いてくれているのかい?」
「伝えたはずですわ」
もう一度口付けてきた。一度や二度じゃ済まなそうだ。
「……名残惜しいけどここまでにしておこうか」
指先を差し込んでマリーの唇を少し離す。
「……いけずですわ」
「コルカが驚いているよ」
「見せつけているんですのよ」
「焚きつけるために?」
「それも伝えましたわ」
「やり方が強引すぎると思うんだ」
「わたくし本気ですのよ」
「わかっているけどさ」
「わかっておりませんわ。わたくしがどれほどアミ様をお慕い申しているかだなんて」
「不安なのかい? ステラなら必ず戻るよ」
「やっぱりわかっておりませんわ」
そんなことは無いよ。マリーの不安は手に取るようにわかるよ。今の君が余裕を失いかけているのは僕との関係だけが原因ではない筈だ。マリーはそれ程弱い人じゃないからね。
「おやすみ、マリー。今日は早めに眠るといい」
「妻を一人で寝かせるつもりですの?」
「僕にはまだやることがあるからね」
「手伝いますわ」
「それは今じゃない。僕らが作るのはただの道具だ。それを扱うのが君の仕事だよ。ドローンが完成したらステラを見つけておくれ」
それで君の余裕も取り戻せる筈だ。
「何もかも間違っていますわ」
「そうでもないさ。僕を信じておくれよ。マイハニー」
「……仕方がありませんわね」
「ありがとう♪ 愛しているよ♪ マリー♪」
「おやすみなさいませ。アミ様」




