02-14.最高のパートナー
僕のプランを聞いたマリーはすぐに人を手配してくれた。
「ドワーフだって!? いったいどこで見つけたの!?」
「偶然ですわ♪」
なんで誤魔化すのさ。
「……」
なんだかモジモジした子だ。女の子? であってる? それともドワーフはこれで成人女性なんだろうか。なんか普通の人間の子供と大差ないよね。先にドワーフって聞いてなければ気付けない自信があるよ。
見た目は少女のようでいて、少年のようにも見える。僕のように意図的に男装しているというわけではなく、容姿に興味が無いだけっぽい。ボサボサに伸びた髪とブカブカのオーバーオール。僅かに覗く手肌もまさに生粋の職人といった感じだ。工房に籠もりきりで、何年も外になんて出ていなかった様子が見て取れる。マリーはどこから攫ってきたのかしら?
「僕はアミ。君の名前を聞かせてもらえるかな?」
「……コルカ」
「よろしく。コルカ」
「……はい……旦那様」
大丈夫かな? 俯いちゃったけど。
「取り敢えずお風呂に入れてあげてくださいまし♪」
「っ!?」
なんでいきなり裸の付き合いなのさ。
コルカも飛び上がって口をパクパクさせてるし。あ、また俯いた。顔真っ赤だったね。
「先に説明して。どっから攫ってきたの?」
「本人から聞いてくださいまし♪」
マリーは仕事に戻ってしまった。
しゃあない。メイドに任せるか。
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「なりません。領主様」
「なんでさ」
僕のメイドたちが反抗期だ。
「奥方様より言い含められておりますので」
すっかり僕よりマリーの方がこの屋敷の主になってしまったようだ。ぐすん。
「奥方様にはお考えあってのことかと」
つまり僕の性別を明かさせたいってわけね。まあわからなくもないよ。僕ってばカッコいいからね。コルカも僕が男だと思っている限りはどうしても意識しちゃうだろうからね。先に女性だって教えておくことで、妙な気を起こさないようにさせたいんだね。これはマリーなりの防衛策ってわけだ。
けどいいのかな? 僕程の魅力があれば女性だとわかっていても惚れてしまうかもしれないよ? 実際マリーだってそうだったじゃないか。コルカだってそうならないとは限らないんだよ?
「領主様。コルカ様の準備が整いました」
なんだかんだ言いつつ手伝ってはくれるのね。或いは僕が逃げないように手を回しただけかもだけど。
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「え……」
「ふふふ♪ 驚いたかい♪ 皆には内緒だよ♪」
「……はい」
相変わらず真っ赤だね。そもそも人と風呂に入ることに慣れていないのではなかろうか。
コルカもやはり女の子だった。なんなら僕よりたわわなものが付いている。下手をすればステラに迫るかもしれない。
あのブカブカ服を着ていると、まさにイメージ通りのドワーフって感じのずんぐり感だったけれど、今の彼女はそんな印象とは似ても似つかない。僕より少し肉付きがいい程度の手足に、僕よりずっと小さな身長だ。こんな小さな女の子が本当に金槌を振るえるのだろうか。不思議。
「……」
「どこか痒いところはあるかい?」
「……い、いえ」
物静かな子だ。本当に何処から攫ってきたんだか。
「流すよ。目をしっかり瞑っていてね」
もうしっかり瞑ってるよね。ずっと。
時おり話しかけながら、何度も髪を洗い流していった。
最初はなかなか泡立たなかった彼女の髪も、幾度も洗ううちに、少しずつ本来の艷やかさを取り戻し始めていた。
「ふふ♪ 綺麗な髪じゃないか♪」
「っ!?」
ビクッとコルカの肩が震えた。
「後で少しカットしてあげよう♪ きっと似合う筈さ♪」
ヴィオラはそういうのも得意なんだ♪
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背を流し、湯船に浸かる頃には段々とコルカの口数も増えていった。
「コルカは何をする為にここへ来たのか聞いているかい?」
「……魔道具」
「知っているんだね。魔道具のことはどこで?」
「……お爺ちゃん」
「はるばる遠方から?」
「……隣」
「一人で来たの?」
「……お爺ちゃんが」
「連れてきたの?」
「……無理矢理」
「そっか。大変だったね」
「……」
「お爺様は今どこに?」
「……知らない」
おや? まだ何か言いたそうだ。
「……売られた」
どういうこっちゃ。マリーは人身売買に手を出しちゃったの?
「お爺様が? 誰に?」
「……領主」
そうか。僕が主犯か……。えぇ……。
「そんな悪い領主はやっつけないとね」
「……ううん」
ありゃ?
「……悪い人……違う」
「そっかそっか♪ それはよかった♪」
「……うん……よかった」
コルカの口から少しだけ笑みが溢れた。
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「正当な契約ですわ」
開き直ったね?
コルカをヴィオラに預け、マリーを探して問い詰めると、今度はあっさりと白状した。
「だからって人身売買はダメでしょ」
この国だって奴隷制自体は存在するけどさ。だからって元々そうでもない子を奴隷にするのは違うでしょうが。
「誤解なさらないでくださいまし」
「というと?」
「コルカの祖父は一般の魔道具開発チームで雇用したのですわ」
「単に職場が別になってしまっただけだと?」
「ええ。その通りですわ」
「けどこっちで雇ったら外には出せないじゃないか」
「それも承知の上ですわ」
「肝心のコルカ本人が承知していないみたいだけど?」
「だからアミ様に任せたのですわ♪」
いきなり裸の付き合いをさせたのは、逆に……というか順当に、仲良くさせたかったからなの?
「彼女は優秀ですわ♪ わたくしもこの目で確認した時には驚きましたの♪」
マリーの目なら信じるけどさ。実際八官の皆もよくやってくれているし。
「この際です♪ 多少の火遊びも許しますわ♪」
「屋敷の中で爆発を起こしてもいいってこと?」
「彼女の心を縛りつけろと申しているのですわ」
えぇ……。
「何か問題でもありますの? アミ様はそういうのが得意ではありませんか」
まるで人をナンパ師みたいに。
「籠絡してくださいませ」
「ショックだよ。僕はマリーのことを本当に」
「勘違いしないでくださいまし」
マリーが口付けてきた。
「アミ様はわたくしのものです。他の誰にも譲りませんわ」
「僕はハーレムなんか作らないよ」
そういうのは趣味じゃないんだ。僕の愛はステラにのみ向けられるべきものだからね。マリーは……まあ、うん。とっくに受け入れているけどさ。
「わたくしも率先して増やしたいわけではありませんし、アミ様にその身を売り払えと申しているわけでもありません」
「なら変なこと言わないでよ」
「必要なことですわ。アミ様には自信をつけて頂きたいのですわ」
「マリーは軽薄な僕の方が好みなの?」
「ええ♪ まさにまさに♪ あらゆる手管を尽くしてわたくしを愛してくださるアミ様を望みますわ♪」
「コルカを練習台にしろと?」
「いいえ。その先ですわ。言った通りアミ様には軽薄になって頂きたいのですわ。お姉様への一途な愛をわたくしにも分けて頂きたいのですわ。その自制心を緩める為ならば手段を選びませんわ」
「……ごめん」
「謝らないでくださいまし。今のアミ様を好ましく思う心もまた持ち合わせておりますの。乙女心は複雑なのですわ」
「わかった。マリーの考えは。同意は出来ないけど理解はしたよ」
「それでいいのですわ♪ 簡単に変わるものとは思っておりませんもの♪」
「マリーが意外と腹黒いってことも理解できたよ」
「わたくしは一途で真摯なだけですわ♪」
「よく言うよ。ステラのことだって好きなくせに」
「双子って滾りますわよね♪」
「何言ってるか理解出来ないなぁ……」
「同じ顔で愛を囁かれるのは興奮するという意味ですわ♪」
「解説しなくていいから。それに言う程似てないから」
「そんなことありませんわ♪ アミ様が女性らしい格好をすれば顔はそっくりですのよ♪」
顔は……ね。身体は全然違うよね。双子なのに。外も中身も。
「似ている方がよろしいんですの?」
「そりゃそうでしょ」
僕だって複雑なんだ。乙女だからね。
「アミ様ってナルシストですわよね」
「えぇ……」
「自覚無いんですの? だから変なところだけ自信満々なのに、妙に奥手なんですのね」
「なにさそれ」
「後は経験だけですわ♪」
「酷いお嫁さんだ」
「将来の大王の正室ですもの♪ 寛容なのですわ♪」
「やっぱりやめようかな。世界征服」
「逃がしませんわ♪ もうアミ様だけの夢ではありませんもの♪」
心強いね。理解がありすぎて、僕よりずっと先を見ているんだね。いいお嫁さんだよ。マイハニー。




