02-13.技術開発
「御爺様」
「……なんじゃ。何故戻ってきた」
「魔石について教えて頂けないかしら」
「あやつが知っておろう」
「アミには話せない事なの」
「何が知りたい?」
「魔石から魔物を復元する方法よ」
「……ふむ。可能性はあるか。お主ならば或いは」
「時間が必要かしら?」
「そうじゃな。手を貸せ」
「ええ。もちろん」
----------------------
「お姉様はまだ戻らないんですの?」
「そうなんだよ。フィリーにも繋がらないし。困ったものだよ」
先日、ベルナールが来た日だって、結局こちらには顔を出さなかったし。いったい何考えてるんだか。ステラに限って万が一ってことはないだろうけれど。
でもまさかマリーとも会っていないとは思わなかった。妹だけでなく弟子まで放り出すなんて。ステラらしくもない。
「進捗は?」
「そんな毎日聞かれたって変わらないよ」
「急いでくださいまし。なんだかきな臭い気配がしますわ」
そうだね。例の件もあるもんね。
先日マリーが遅れてきた理由。それは、あの日突如として齎された情報によるものだった。
情報源は宰相補佐のユリウスだ。彼が早馬で知らせてくれたのだ。マリーはその使者の対応に当たってくれていた。
王都でまた騒動があったらしい。その件自体はすぐに片付いたそうだけれど、やはり例の組織が関わっているようだ。最近奴らの動きが活発だ。何かが動き出してる感じがする。僕らも色々やらないとだし。いつまでも工房に籠もってばかりはいられないね。
「ところで。あ・な・た♪」
今度は何さ。
「これは何かしら?」
「……」
どうしてマリーがそれを?
「偵察機とは関係のないものよね?」
「そ、そんなことはないよ。それも大切なパーツさ。だから返しておくれ」
「嘘おっしゃいませ」
ウソジャナイヨ。
「わかった。わるかった。ちょっとした息抜きだ。許しておくれよ」
「優先順位を履き違えないでくださいまし」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。これだって必要なものなんだ」
「こちらにはどのような用途が?」
「それはプロペラさ」
ベルナールに依頼し、セントリアの凄腕職人に加工してもらった品だ。
「なんですの?」
「空を飛ぶための装置を作りたくてね」
とは言っても試作品だけど。当然人は乗せられない。ヘリコプターのラジコンを作ってみようとしただけだ。
ゆくゆくは個人用の飛行魔道具、それも飛行船を作りたかったんだよ。偵察機の件とは完全に別件でね。だからまあ、個人的な趣味の範疇っていうのも間違いじゃあない。
「偵察機だって飛べるではありませんの」
そうだね。あの円盤にプロペラなんてついてないもんね。訝しむのもわからなくはないよ。この世界には飛行機だってないんだし。
「君が言ったんじゃないか。汎用化させてみせろって。プロペラはその為に必要なものなんだよ」
「なるほど……本当に関係がありましたのね」
ふふ♪ ご理解いただけて何より♪
「飛行魔術は人間が再現出来るようなものじゃないんだ。僕だってあの小さな円盤を浮かせるのが精々さ」
フィリーを使う場合はまた事情が異なるけどね。あのぬいぐるみの体を使っている間はステラの魔力で動けるし。そして当然ステラのことは気にしちゃいけない。人間の基準は当てはまらない人だからね。
ステラや、フィリーに乗り移った僕が扱う飛行魔術とは、いわば念力のようなものだ。魔力を使って直接身体を浮かせているのだが、これがもう燃費悪いのなんのって。
それもその筈。魔力を直接エネルギーに変換するなんてのはロスが大きすぎるのだ。僕や一般人程度の蛇口じゃ自分の身体を持ち上げることすら叶わないわけだ。
だから力を増幅させる必要がある。本来魔術とはそういうものだ。魔力を効率よくエネルギーに変換するのが術式だ。
だからステラのあれは、厳密には魔術ではないのだ。力いっぱい地面を蹴って飛び上がっているのと変わらない。魔力を使ったゴリ押しだ。
飛行魔術程複雑なものを術式に落とし込むのは不可能だ。なにせリアルタイムで制御を行う必要があるからね。仮に出来たとしても、術式が複雑になれば魔力制御の難易度だけでなく、必要魔力量も格段に跳ね上がる。いずれにせよ人間に扱えるものではない。
オーダーは誰もが扱える品だ。だから複雑な部分は機体側で補う必要がある。
そこでプロペラだ。浮力と推進力を機体に補ってもらうのだ。術式が簡略化出来るし、飛行に必要な魔力量を格段に減らすことが出来る。筈だ。
まあ、それでも一般術師がどうやって遠隔で操作するのかという問題は残るけれども。まさか魂の一部を定着させる秘術を広めるわけにもいかないし。
そもそも僕以外に使える人なんて御爺様くらいのもんだろう。いや。御爺様も御爺様でおかしいんだけどね。これに関してはステラにだって出来ないことなのだ。
それに僕が扱えるのは、異世界転移者だから魂の在り方が若干違う、なんて特別な理由もある。なんで御爺様がこの秘術を扱えるのか、僕にとっては未だに解けない難問だ。
いけない。脱線してきた。話を戻そう。
「だから浮力と推力を生み出す装置が必要なのさ」
今はモーター部分の開発を進めているところだ。最低限の理論は組み上がったのだけど、中々精度が安定しなくてね。やっぱり専門の技術者は必要だ。信頼出来る加工職人を招かなくては。僕の進める研究はおいそれと外には出せないし。
「どうして話してくださらなかったんですの?」
「元はと言えば、偵察機向けに考えていた技術ではないからさ。僕が個人的に空を飛びたかっただけなんだ」
だってステラばっかりズルいじゃないか。
いっそ人が乗ることを前提にしてしまおうか。最初からドローンなんて高度なものを作るよりも、シンプルな気球辺りから始めるべきだったのかもしれない。下手に最初からドローンみたいなものが出来てしまっていたから、かえって視野が狭くなっていたのかも。
操縦者は魔力電池と割り切ってしまおう。あとはどれだけ必要魔力量を抑えられるかだ。ステラが大規模発電施設だとするなら、一般人なんて乾電池だ。やっぱり難しいかもしれない。電池かぁ……。
「やはりアミ様は乗り気ではありませんのね」
そうだね。だからって手を抜いていたつもりはないけど。
「わるかった。内緒にするつもりはなかったんだ。まだ模型の一つも用意できていなくてね。これならいけるだなんて報告は出来なかったんだよ」
「アミ様は一人で働く癖が染み付きすぎていますわ」
「そうだね。報連相がなっていなかったね。次からは気を付けるよ」
「一度アミ様の頭の中身を覗いてみたいものですわ」
「怖いこと言うね」
「比喩ですわ」
わかってるって♪
「一先ずプランだけでもお話くださいまし」
「了解」
マリーも忙しいからね。手短に済ませよう。




