00-02.冒険者登録
「んだよ? 居ねえのか?」
数日の旅路を経て隣町のギルドに到着した私たち。そこにアミの姿は見つけられなかった。
「また伝言よ♪ やっぱり領都まで来てくれって♪ 成功報酬はそこで支払うそうよ♪ 割増で♪」
「おい、まじかよ……」
「ふふ♪ アミの考えそうなことだわ♪」
「これだからお貴族様は嫌いなんだ」
「もう暫くお願いね♪ クラヴズ♪」
「やだよ。後は自分一人で行け」
「そんなこと言わないで♪ 私一文無しなの♪ 旅道具すら持っていないんだから♪」
「自慢するこっちゃねえだろ!? ていうか知ってるよ! お前手ぶらじゃねえか! 一人ん時どうしてたんだよ!?」
今更ね♪
「魔術があれば案外どうとでもなるものよ♪」
「なら俺いらねえじゃねえか!」
「女の子の一人旅なんて物騒じゃない♪」
「男との二人旅も同じだろっ!?」
「クラヴズのことは信頼しているわ♪」
「舐められてるの間違いだろ!?」
あらまあ。すっかりやさぐれてしまって。
「わかった。なら一緒に依頼を受けてくださるかしら? 私が残りの報酬を稼ぐわ♪ それまでだけでも付き合ってくださらないかしら? もちろんアミには執り成しておくわ♪」
「それは……悪くねえ提案だが……」
「クラヴズだってこのままタダ働きで終わらせるのは癪でしょう?」
「くっ……」
ふふふ♪ もう暫くお願いね♪ ナイト様♪
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「先ずは登録からね♪」
「こちらの用紙に記入をお願いします」
「はぁ~い♪」
スラスラ~♪
「魔術師志望ですか。ではこちらの水晶に」
「手をかざせばいいのかしら?」
「もう結構です」
あら? まだ何もしてないのに下げちゃった?
「お引き取りを」
あらま。
「おい。ちゃんと見てやれ。嘘じゃねえ。こいつは本当に魔術を使えるぞ。俺が見てたんだ。間違いねえ」
クラヴズが自身の身分を示す金色のプレートを提示した。
「っ!? あなたは!? まさかクラヴズさん!? 何故このような場所に!?」
まあ♪ やっぱり有名人なのね♪
「依頼だ。それよりほれ。ちゃんと仕事しねえとドヤされっぞ」
「はっ! 直ちに!」
ふふ♪ 流石はクラヴズね♪
もう一度差し出された水晶に手の平を押し当てる。
「こっ!? これは!? もう結構です! 手を!」
あ。
パリンと音を立て、水晶玉は粉々に砕け散ってしまった。
「「なっ!?」」
「ごめんなさい」
困ったわ。弁償出来るお金なんて持っていないのに。支払いは待って頂けるかしら。冒険者になるのはこれからなの。いっぱい働いてお返しするわ。
「お、奥へお越しください!」
やっぱりお高かったのかしら。
「水晶を破壊したぁ? こいつがか? 落として割ったのを誤魔化してるんじゃねえだろうなぁ?」
まあ。疑り深いお方ね。
「本当だぜ。ギルド長。俺が証言するぜ」
「なんだクラヴズ。戻ってたのか」
「通りがかっただけだ。依頼でな」
「依頼主を冒険者にするつもりか? 見たとこどこぞの貴族令嬢だろ?」
「おいおい。冗談だろ? ギルド長ともあろう者が依頼人の品定めか? そんなんだから出世できねえんだよ。お前は」
酷い物言いだわ。
「ハッ。お前が言えたことか♪」
ギルド長さんは見た目や言動の荒々しさに反して、クラヴズの言いようにも大して怒っている様子がない。どころかなんとなく嬉しそうだ。気心知れた仲ってやつかしら?
「依頼人の品定めも歴とした仕事だ。金のねえ依頼人から仕事受けるわけにもいかねえだろ。例えお貴族様相手だってそりゃ同じだ。てことでな嬢ちゃん。これに手を置いてみな。本当に魔力で割れるってんならお咎め無しだ。けど逆にそれが出来なきゃ弁償してもらうぜ。さあどうする? 試してみるかい?」
「もちろん♪」
願ったり叶ったりだわ♪
ギルド長が差し出した二つ目の水晶に手を伸ばした。
「待ってください!」
受付嬢さんに遮られてしまった。
「んだよ。やっぱ嘘なんじゃねえか」
「違います! ですがこれ以上!」
ピシリ。
「「あ」」
パリンッ!
「ハッハッハ♪ マジか♪ 触れてもいねえのに割りやがった♪ 悪かった♪ 悪かった♪ 信じるぜ嬢ちゃん♪」
「笑い事じゃありませんよ!? 始末書ものですよ!? とんでもなく高価なんですからね! 魔力水晶って!」
あら。やっぱり?
「しゃあねえだろ。事故だ事故。俺が処理しといてやる。そんなこと気にしてねえで登録を進めろ。大至急だ。急げよ。気が変わって他に流れちまう前にな♪」
「っ! はい!」
絶望していた受付嬢さんの瞳に活力が戻った。優秀な人財を見つければボーナスでも出るのかしら?
「現金な奴らだ」
クラヴズは呆れているようだ。ガハハと上機嫌なギルド長とその場に残り、私と受付嬢さんを見送った。
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「こちらへ」
最初に案内されたのは小さな教室みたいな部屋だ。
「筆記試験を受けて頂きます。ご安心ください。簡単な常識程度の問題です。文字が書けなければ口頭でも受けられますが……心配は要りませんね。始めてください」
は~い♪
え~なになに~? 硬貨の種類? 困ったわ。早速わからない問題だわ。次に行きましょう。
算数は問題ないわね。ちょちょいと♪
次は地理かしら。これもわからないわね。御爺様は魔術以外何も教えてくださらなかったもの。
薬草の種類はバッチリね♪ 食べられるものとそうでないものの違いは身を持って経験しているわ♪ さらさら~♪
更にいくつかの問題を解き、解答用紙を受付嬢さんに提出した。
「……随分偏りがありますね」
「実は山育ちなの♪」
「……」
考え込んでいる。
「……わかりました。そういうことにしておきましょう」
何か裏があると捉えてしまったようだ。まいっか。
「次は実技です」
待ってました♪
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「凄い! 詠唱も無しに!」
ふふん♪ まだここからよ♪ 威力にも自信があるわ♪
「えっ!? ちょっ!?」
私の指先に現れた火球は一瞬にしてそのサイズを何倍にも膨れ上がらせ、訓練場の的に向かって飛んでいった。
ズドーンと、お腹の芯に響く気持ちの良い音が鳴り響く。後には巨大なクレーターだけが残された。
「や、やりすぎですぅ!!」
あらま。
「ああもう!? これどうするんですかぁ!?」
受付嬢さんはその場に崩れ落ちてしまった。
悪いことしてしまったわね。少し戻しましょう。
魔術で地面を操り、訓練場を元通り平らに均した。
「え?」
「ごめんなさい。的まで元通りってわけにはいかないわね」
一応、植物をそれっぽく生やしてみたけれど。
「えぇぇぇえええええ!?!?」
うふふ♪ やりすぎてしまったかしら♪
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「わりぃな、嬢ちゃん。うちじゃあ"銅"までしか出してやれねえんだ」
「十分よ♪ ギルド長さん♪」
「嬢ちゃんなら金、いやその上、もっと上か。オリハルコン級の冒険者だって夢じゃねえ」
「うふふ♪ 期待しててね♪」
「おうともさ♪」
「なんで仲良くなってんだよ……」
なんでクラヴズは頭痛が痛いみたいな顔してるのかしら?
「んでだ。嬢ちゃん。早速だが依頼を受けてみねえか?」
「受けるわ!」
「よし! よく言った♪」
「待て待て! 内容を確認してからだ!」
「なんだ。俺は嬢ちゃんに話を持ち込んでんだ。おめえは口を出すな。別の依頼の最中だろうが。ギルドの規約は知ってんだろ。依頼の重複受注はご法度だ」
「俺の依頼主だ! 無茶苦茶やってんのはそっちだろ!?」
「へっ♪ なら丁度良いじゃねえか♪ 嬢ちゃんに色々教えてやんな♪」
「タダ働きかよ!?」
「ケチ臭いこと言うんじゃねえよ。金等級様のくせして」
「又請けもご法度だろうが!」
もう。クラヴズったら。頭に血が上ってしまっているのね。それともわざと惚けているのかしら? ならこれが交渉術ってやつなのね♪ 勉強になるわ♪
「クラヴズ♪ 一度依頼を打ち切りましょう♪ それから改めてパーティー登録をお願いするわ♪」
「打ち切るもなにも支払えるもんがねえだろうが!」
「ならどのみち同じことじゃない」
「それは! くっ!」
「落ち着いて、クラヴズ。私は逃げたりなんてしないわ。必ずお金を稼いで報酬をお支払いします。ですからどうか信じてお待ちくださいな」
「なんだそりゃ。どういう状況だ?」
「クラヴズを雇った本当の依頼主は他にいるの。けれどその依頼主が約束をすっぽかしてしまって。領都まで来ないと報酬を支払わないと言っているの」
「それで嬢ちゃんが冒険者に? 領都までなんてすぐじゃねえか。ケチケチしてねえで連れてってやれよ」
「おまっ!? 知ってるだろうが!」
「考えすぎだ。今更誰も気になんてしねえよ」
「だからって!」
「へっ。みみっちい男だな。いいぜ。ならうちで立て替えてやる。ケチなクラヴズよりこっちの嬢ちゃんの方が稼いでくれそうだもんな♪ これも先行投資ってやつだ♪」
「職権乱用が過ぎんだろ!?」
「ああ、それとな。嬢ちゃんに頼んだ依頼なんだがな。ゴブリンの巣の殲滅なんだわ♪」
「はぁぁ!?」
「いやぁ。こんなうら若き乙女を一人で行かせるたあなぁ。まぁたおめえの恥が上塗りされちまうなぁ♪ 仮にも友人としちゃぁ心苦しいぜ♪」
「ふざっ! けんなぁ!!!」




