00-01.少女の旅立ち
「たのもー!」
「「「「「……」」」」」
少女が一人、扉を吹き飛ばしかねない勢いで乗り込んできた。華美な服装の少女だ。
少女は突き刺さる胡乱げな視線の数々をものともせず、堂々たる足取りで前へ前へと進んでいく。
「ようこそ♪ 冒険者ギルドへ♪」
受付に立つ女性は怯んだ様子もなく、にこやかに少女を迎え入れた。
「登録ですか?」
「そのとーり♪」
「ではこちらへ」
「まあ待て。嬢ちゃん」
一人の男が後ろから少女を呼び止めた。
「むふふ♪ 早速来たわね♪」
少女は不敵な笑みを浮かべて勢いよく振り向いた。
「は?」
「いいわ♪ かかってきなさい♪ 私みたいな子供は冒険者になれないって言うんでしょ♪ そういうあれでしょ♪ 私知ってるんだから♪ むしろ楽しみにしてたの♪ さあ♪ 私の実力を試してみるといいわ♪」
「んなバカなことしねえよ。ギルドは私闘禁止だ」
「え? そうなの? なによ。ガッカリね」
「じゃなくてよぉ。嬢ちゃんだろ? ステラって」
「ええそうよ♪ よく知ってるじゃない♪ 何を隠そう♪ この私こそが♪ ディアス家のステラちゃん様よ♪」
「そうかい。ならラクティ家のアミちゃん様から伝言だ」
「アミから? 伝言?」
「待ち合わせは隣町だとよ」
「あらま」
「行くぞ」
「案内してくれるの?」
「それも込みで依頼を受けてんだ」
「うふふ♪ アミったら気が利くわね♪」
「いってらっしゃいませ」
「ごめんね♪ お姉さん♪ お騒がせしたわ♪」
「はい♪ 良い旅を♪」
----------------------
アミからの伝言を伝えてくれたオジサマに続いてギルドを後にした。
「そうだ♪ あなたお名前は♪」
「名乗る程のもんでもねえよ」
「まあ♪ 謙虚なお方なのね♪」
「まあな」
「名乗りなさい♪」
「なんでだよ。そういうノリじゃなかったろ」
「ならオジサマって呼ぶわよ?」
「おじっ!? お兄さんだ!」
「はい♪ お兄様♪」
「っ! クラヴズだ!」
「偽名?」
「なんでだよ!? お袋から貰った大事な名前だ!」
「あら。それは失礼したわね」
「へっ。これだからお貴族様はよぉ」
「あら? 私が貴族だなんて言ったかしら?」
「ラクティ家っていやぁ、この辺りでは有名な貴族だろ」
「それはアミの家よね。クラヴズ様の雇い主の」
「様なんて付けんじゃねえ。俺は平民だ」
「奇遇ね♪ 私もよ♪」
「……は?」
「こんなところを貴族のお嬢様が一人で出歩いているわけないじゃない♪」
身の危険が無いからって好き好んで出歩く貴族令嬢はいないのだ。領都や王都ならいざ知らず。
「そりゃぁ……そうだが。けどお前」
「ふふ♪ 溢れ出る気品は抑え込めなかったようね♪」
「じゃねえよ! その服だよ!」
「これ? アミからの誕生日プレゼントよ♪ ふふ♪ 似合っているかしら♪」
「……」
「なによ。なんとか言いなさいよ」
「……派手だな」
「可愛いじゃない♪」
まるで魔法少女ね♪ オジサマにはわからないかしら♪
「……家名を持つのは貴族だけだ」
「アミがくれたのよ♪」
「……ならやめときな。名乗るのは」
「なんでよ?」
「考えてもみろ。いくらお貴族様の娘だからってそんな権限持ってるわけねえだろ。出来るのは王様くらいのもんだ。そんな服着て家名まで名乗ってりゃあ誰だってお貴族様だと思うだろうさ。僭称なんて首切られても文句言えねえぞ」
「あら♪ ふふふ♪ クラヴズの言う通りね♪」
「呑気な奴だな。ちっ。仕方ねえ」
布の塊を放り投げてきた。
「マント? これを着ればいいのね♪」
「なんだ。やけに物わかりがいいな」
「だってこれはこれで格好良いじゃない♪」
「そうかい……」
「あら? この程度で疲れてしまったの?」
「お前のせいだろ」
「うふふ♪ まだまだ旅は始まったばかりよ♪」
「なんだってこんな依頼受けちまったんだか……」
「頼りにしてるわ♪ ナイト様♪」
「やめろ」
「クラヴズはノリが悪いのね」
「お前は目立つんだ。せめて町の中くらいは大人しくしてろよ」
「ステラよ♪」
「はいはい。ステラお嬢様」
「よろしい♪」
----------------------
町を出て暫く歩き、今日の野営地点を定めたクラヴズは火起こしを始めた。
「ねえ、クラヴズ」
「んだよ」
「あなた魔術は使えないの?」
「使えるわけねえだろ。平民様だぞ」
「私だって平民よ?」
クラヴズが集めた薪に火を放った。
「……おい。今何やった」
「何って火を着けただけよ? やり方を教えてあげましょうか?」
もう一度火を灯して指先を振って見せる。
「おかしいだろ……。魔術ってのは詠唱あってのもんだ」
「そうなの? あいにくこのやり方しか知らないのよね」
「……お貴族様が目を付けるわけだ」
「アミが私に目を付けたのはそんな理由じゃないわ♪」
「ステラはどこの出身なんだ?」
「そう遠くない村よ♪」
「村娘だと? 冗談だろ?」
「ごめんなさい♪ 少し誤魔化してしまったわ♪」
「話したくなきゃ別に構わねえよ」
「正確には集落よ♪ 村って程の規模ではなかったわ♪」
「そっちかよ!?」
「つい見栄を張ってしまったの♪ 許してね♪」
「どこぞの大賢者様が隠居でもしてやがったのか?」
「よくわかったわね♪ 正解よ♪」
「……まじかよ」
「自分で言ったんじゃない。そこまで驚く事かしら?」
「もう何も聞かねえぞ。お前も話すな。巻き込まれるのは御免だ」
「貴族からの依頼を受けておいて? 今更?」
「指名依頼だったんだよ。しゃあねえだろ」
「まあ♪ クラヴズって有名人だったのね♪」
「言う程のもんじゃねえよ」
「うふふ♪」
やっぱり謙虚な方ね♪
「私とアミはね。双子の姉妹なの」
「おい! 話すなつったろ! いきなりぶっこんでくんじゃねえよ! てかやっぱお前貴族じゃねえか!」
「違うわ。アミだけ引き取られたのよ」
「よぉしわかった! 話したいんだな! ならコイツを貸してやる! 向こう行っていくらでもぶちまけてこい!」
「あら♪ 可愛いクマさんね♪ これはクラヴズの?」
「そうだよ! わりぃかよ!」
「良い趣味ね♪」
「なんならくれてやる!」
「それはダメよ。フィリーって誰? もしかして妹さん?」
首に巻かれたリボンを捲ると、本来の持ち主であろう女性の、或いは少女の名前が表れた。
「っ!? 目敏すぎんだろ!?」
「簡単な推理だよ♪ ワトソン君♪」
「誰だよ!?」
うふふ♪ クラヴズって面白いわね♪
「聞かせてくださるかしら?」
「そういうのは聞かねえもんだろうが! いい年した男が後生大事にんなもん持ってる時点で察するだろうが!」
「お返しするわ」
「……持ってろ」
「重すぎるわ」
「だろうよ! だから聞きたくねえつってんだろ!」
「私のは大した話じゃないわ」
「どうしてそこだけ客観視できねえんだよ!?」
「事実だもの」
「とにかく話すな! 絶対だぞ!」
「うふふ♪」
「フリじゃねえからな!」
「承知したわ♪」




