8こんな美人だと聞いてないぞ(アインベック)
俺は久しぶりにアリスと会った。
最後に会ったのは6年くらい前だったと思う。叔母のアリソンと一緒に王宮の記念式典に来ていたと思う。
父はまだ健在で子供は俺だけだった父からすれば子だくさんの叔母が羨ましそうだった。
アリスは特に父のお気に入りでもっと遊びに連れて来いとよく話していた。でも、レスターは帝国時代で王族に悪いイメージを持っていて王宮に出入りする事を嫌っていたので王宮行事の時くらいしか会えなかった。
俺だってアリスやアッサムにそれから‥アーシャにアナ、そうアルは可愛い、大切にしたいって思っている。
それにアンディという我が子が産まれてそう言う気持ちは余計強くなった。
だから国王になってから父がしていたようにレスターの家族には王家の護衛を秘かにつけた。秘かにだ。
一瞬、我を失った。アリス?この子が?なんて美しいんだ。
透き通った肌、凛とした雰囲気。切れ長の瞳に俺と同じ琥珀の瞳。髪は見惚れるほどきれいなオレンジパールでまさに俺の好みドンピシャって感じだった。
こんなの報告書にはなかったぞ!!
おいおい、アリスは俺の従兄妹だ。そもそも恋愛すらしたことのない俺がそんな事を思うなんて。
俺は結婚していた。隣国チェランド国の王女ローズと政略結婚を。
恋愛感情はなかった。でも、お互いに尊重し合っていたと思っていた。なのに彼女は俺を裏切った。不義を働いたんだ。そして毒を飲んで死んだ。自殺したんだ。まだ生まれて間もないアンディを残して。まあ、どうせあのままでは離縁するしかなかったんだが。
あの事を思い出すのは辛いし嫌だ。
だから俺は二度と結婚なんかしようと思わない。跡継ぎがもういるから心配ないし、もしアンディに何かあってもアッサムやアルもいる。そして叔父のアンリーもいるんだから。
大きく息を吸い込んで気持ちを切り替えた。
アリスはフリージアが大好きだと聞いたがレスターがフリージアの花束を買って帰ると譲らないから俺はアリスの髪色をイメージするような色合いの花束を用意したんだが‥
なんだ?そんなに驚く事か?
アリスは何より俺が来た事に相当驚いていた。
まあ、国王になったしそうかもしれないな。
「アリス久しぶりだな。卒業おめでとう。そうそう警務局に就職したって聞いたぞ。これからは王宮に来るんだ。ちょくちょく会いに来てくれよ。俺たちは従兄妹なんだからな」
これからは仲良くしたいと思った。
「はい、よろしくお願いします。こく‥」
「頼むアリス。身内だけの時はアインベックと呼んでくれないか。みんなから陛下陛下って呼ばれて俺は辟易してるんだ」
「はい、あ、あいんべっく陛下」
「だからアインベックだけで」
「はい、アインベック様」
「ああ、まあいいか。レスター、一緒にお祝いさせてくれるんだろう?まさか、ここで追い返すなんて言わないよな?」
俺はレスターの嫌な視線を感じて先にそう言った。
「だそうだ。アリスお前が決めていいぞ。今夜は家族水入らずでゆっくり過ごしたいんだろう?」
レスターの奴、やっぱり俺を追い返す気か?!
突然一番小さいアルが前に出て来た。
「あいんべっきゅしゃまもいちょでいいでしゅよ、ねっ、おねえたま」
みんなが啞然としている中アリスが慌てて俺の招き入れる。
「ああ、そうね。せっかくいらしてもらったんだもの。さあ、アインベック様むさ苦しいところですがどうぞ中にお入りください」
俺は無事サンバイン伯爵邸に入れた。
こじんまりしているが叔母の趣味だろうか、趣のある屋敷だった。それに作りもいいし調度品も品質の良く掃除もきちんと行き届いている。
ふっと居心地のいい空間にほっと肩の力が抜けた。
「ちょうど夕食の準備も整っていますのでダイニングルームにどうぞ」
「ああ、ありがとう」
ぐちぐちと文句を言うレスターと一緒にダイニングに入った。
いい匂いがする。ローストチキンか?うまそうな匂いだ。鼻がひくついて腹が鳴る。王宮では食欲もあまり湧かないのにこの差は何だと思う。
重厚なダイニングテーブルの上にはごちゃごちゃとごちそうが並んでいる。よく見ればあちこちに傷がついているがそれさえも家族の歴史を感じさせる。それは見ていて嫌な物じゃなく何て言うか本物の家族の食卓って感じがした。
「ったく。アリス。気を使わなくていいんだぞ。陛下。お食事を増しあがったらすぐに帰って頂きますからね」
レスター、お前冷たい事を言うな。まあ、家族水入らずの所を邪魔した俺も悪いけどな。
「ああ、わかってる。食事をしたらすぐに帰る。でも、アリスとはこれから王宮で会うんだし、これからは王宮にもみんなで来て欲しい。アンディもいるし一緒に遊んでやって欲しいんだ」
俺は本心アンディの為にも付き合いをもっとしたいと思っていると、テーブルの周りに子供たちが座って行く。みんなごちそうを前に目を輝かせている。
アンディにもこんな雰囲気を味合わせたやりたいと思う。
そして食事が始まった。
「アル、あれほちい」
「ええ、あれはローストチキンって言うのよ。みんなに切り分けるまで待ってねアル。先にせっかくルクソンさんが作ってくれたコーンスープを飲まなきゃ、スープが可哀想よ」
「きゃわいしょう?」
「私だって美味しいのよって、ほら、あ~んして」
俺はその光景を見て一緒に口を開く。あ~んって。
「アインベック様ったら‥」アリスに見られて笑われた。
「す、すまん。アンディに食べさせている癖で‥つい」
ばつが悪くて頭をぽりぽりかく。
「まあ、お父様自らお食事を?いいパパなんですね」
「アンディには俺しかいないからな‥」
「あんでぃ、あるといちょ?」
「ああ、アンディの母親は亡くなったからアルと一緒だな。これから仲良くしてくれるかい?」
「もちろんでしゅ!ねっ、おちょうしゃま」
「ぶっ!」レスターがスープを吹く。
「陛下!アルを見方につけるなんて卑怯です」
「レスターそう言うな。俺たちは家族だろう?これからはもっと仲良くやるべきだ。そう思わないか?」
「家族との時間を削られているのは私ですよ。陛下、即位されて1年、そろそろ私も家族と過ごす時間を増やしたいと思っていたので、よろしくお願いしますね」
「おいおい、俺たちは協力して国政をやらなくちゃ。そうだろうレスター。君が頼りなんだから頼むよ」
レスターは仕方がないと言う顔でこちらを見た。やっぱりレスター頼りになるぞと思っていたらアリスが言った。
「アインベック様はお願いがお上手ですね。だからお父様もいつも遅くなって‥まあ、仕事ですから仕方がありませんけどね。でも、アンディ殿下の事は気になっていましたから、アインベック様が良ければアンディ様と交流もしたいと思いますよ」
よっしゃぁ~!!そう言えばアリスたちとアンディはあった事がなかったな。俺としたことが‥
アリスが好みだとかそういう事は抜きにしてこれからはこの子たちとも仲良くしていきたいと思った。
今度王宮にみんなを呼ぼうと決めた。
久しぶりにうまい食事の後、さらに驚くことが起きた。
「ごちそうさまでちた。あねえたま。ケーキ!」
「アルったら、もう、お腹いっぱいじゃないの?」
「ケーキたべれましゅ。あいんべっきゅしゃまも食べましゅ?」
「何だ?ケーキもあるのか。それはぜひご一緒したい」
出されたケーキに驚愕する。
ベリーのケーキだとはわかる。だが、なんだこれは?四等分に盛りつけがばらばらじゃないか。真ん中のいちごが妙に存在感を醸し出してはいるが‥
「おお、すごいな。みんなで飾り付けをしたのか?」
レスターはもろ手を挙げてうれしそうな声を出した。
凄い?確かに凄いが‥
「姉上がスポンジを妬いてくれてクリームをそれぞれで、そして飾りつけは公平に四等分して、姉上が好きなベリーを一杯乗せて、どうです父様、最高のケーキでしょう?」アッサムが自慢げにそう言った。
なるほど家族の愛を結集させたケーキなんだな。
「これはほんとに凄いケーキだな。アルすばらしいよ」
「でしゅ」
アルがグイっと背筋を伸ばして誇らしげに手を差し上げる。
「姉上。ケーキにナイフを入れて下さい」
「ええ、そうね。順番に取り分けるから。アルが一番ね」
アリスは幸せそうに微笑んでケーキを切り分けた。
そのひと切れを皿にのせて俺に差し出してくれた。
「うん、うまい。このケーキ最高だ。あの‥アンディにも一切れ貰ってもいいだろうか?」
「ええ、こんなケーキでいいんですか?何だか笑われそうですけど‥」
そう言いながらも嬉しそうにケーキを取り分けてくれるアリスにしばし見惚れた。
正直、ローズがあんな事を起こして俺の心はズタズタになっていた。当然だろう。
誰にも知られないようにあんな事何でもないと鎧を着て来た。でもほんとは平気なんかでいられるはずがなかったんだ。
ずっと辛かった。こんな温かい温もりが欲しかった。柔らかな微笑み。温かな時間。それがここにはあった。
あの日から固まった心に今夜ほんの少しひびが入ったみたいに、俺の心はアリスのおかげでじんわり温かくなった。
ほんと、いい女になったなアリス。




