7お祝いの準備
その日屋敷に帰るとアルが出迎えてくれた。
「おねえたまおかえりぃ~しょちゅぎょうおめめとう」
「アル、私が卒業した事知ってるの?」
「りぜがおちえてくりぇたの。おねえたまかえっちゃらおいわいちぇ!」
とげとげした気持がすぅっと消えて行く。
「そう、ありがとう。そうだアル。これからお祝いのケーキを作るよ」
「ちぇーき?くりぃむいぴゃい?」
「ええ、アルの好きなクリーム一杯よ」
アルは大喜びではしゃぐ。
ああ、私の癒しだ。
私は気を取り直してケーキを作る準備に取り掛かった。
アッサムは図書館でアーシャやアナは、お友達の所に遊びに行っている。
で、アルはずっとそばから離れない。今もキッチンの調理台の前の椅子に座って私の動きを追っている。
「アルはそこで見ててね。ちゃんと大人しくしてなきゃケーキ作れないんだからね」
「うん」
まずは小麦粉をふるいにかけなきゃ。
はたはたと粉篩から粉が落ちる様子を見つめるアル。
「おねえたまみちぇ、しろいこな、ゆきみたいでしゅね」
ああ、言われてみればそんな風にも見えるかも。
キシキシと痛んだ気持ちがアルの言葉一つでなごんでいく。
「そうだねアル。ほら高いところからやってみようか」
私は手を上げて高いところから粉をふるって見せる。
はらはらと白い粉がボールの中やその周りに落ちて行く。ボールの周りにはきれいな紙を敷いているので問題ない。
「きれいでしゅ。もっと、もっと、おねえたまぁ~」
「は~い。そうだ。アルもやってみる?」
「うん!」
アルを椅子に立たせて粉篩を持たせる。
一緒に持ってボールに粉をふるう。
「キャッ、キャッ」アルは大喜びで粉を奮う。
「さあ、次は卵を泡立てるわよ。アルは見ててね」
「ぼくもおてちゅだいしたい」
「ごめんねアル。これは無理。ここを失敗したらケーキなくなるんだよ。それでもいい?」
「いや、わかったでしゅ」
「いい子ね」
そう言うと私は必死で卵を泡立てる。これかなり忍耐力が必要。
それから粉と混ぜて型に入れてオーブンに。出来上がったスポンジを冷ましている間にトッピングのフルーツやクリームを用意する。
私はベリーが好きなので色々なベリーをたっぷり乗せたケーキにするつもりだ。
アッサムが帰って来てアーシャとアナも帰宅した。出迎えたアルがすぐにケーキの事を話す。
「おにいたま、ぼく、ケーキちゅくるの」
「ケーキ?アル、何のこと?」アッサムが尋ねる。
「お姉様の卒業祝いでしょう?お父様が買って来るって言ってたわよ」アーシャが。
「だってアル。ケーキはお父様が買って帰るんだって」
「アリスお姉様、ただいま」「ただいま」「ただいま」
「みんなお帰り。アルは嘘は言ってないわよ。ケーキはみんなで作ろうと思ってるの。待ってたわ。これから一緒に飾りつけしない?」
「アリスお姉様凄い。それでもうケーキは‥?」
みんなが慌ててキッチンに走って行く。もう準備は出来ている。
「すごい。スポンジが出来てる」アッサムが驚く。
「クリームもおいしそう」アーシャが生クリームが大好き。
「これってベリーの?私も大好き」アナが早速ベリーを一つ口に入れる。
「アナ、手を洗った?さあ、みんな手を洗ったら飾りつけするわよ」
「ぼく、てありゃったよ」
「そうね。アルお待たせ。これから一緒に飾りつけしようね。まずはクリームからよ」
みんなで順番にクリームを絞って行く。丸いケーキの四分の一担当だけどみんな真剣な顔でクリームを飾り付ける。
「さあ、最後にベリーを乗せて真ん中の一語は誰が置く?」
「ぼくできましゅ!」
最期はアルがいちごを乗せておいしそうなケーキの出来上がり!
コックのルクソンさんは今夜の為にローストチキンを用意してくれた。付け合わせにはポテトサラダやグラタン。コーンのスープなんかも。どれも私の大好物ばかりだ。
ルクソンさんもリゼもずっと厨房でごちそうを作ってくれていたのだ。
「ルクソンさん、リゼ、こんなごちそうをありがとう」
「これくらい、アリスお嬢様卒業おめでとうございます。ほんとにみなさんのお世話もされながらすげぇですよ。あの、これはリゼとお祝いをって」
「アリスお嬢様おめでとうございます。今夜は皆さんで楽しんでください」
ルクソンさんから渡された小さな包みを受け取る。
「こんな‥ありがとう。あなたたちにはいつも申し訳ないと思ってるの。お給料だってあまり増やせなかったし、それでもずっと仕事をしてもらって子供たちの事でも助けてもらってばかりで本当にありがとう。これからもよろしくお願いね。そうだ。こんなにあるんだからルクソンさんもリゼも持って帰ってちょうだい」
「そんな気は使わないで下さい。旦那様が帰られたら俺たちも帰りますので」
「そうですよ。今日はアリスお嬢様のお祝いなんですから」
包みを開けるとフリージアの絵の入った便箋と封筒のセットが入っていた。あとグリーンとブラウンのきれいなリボンも。
「覚えていてくれたのね。フリージアが好きだって、ありがとう大切に使うわ」
「お母様の好きな花でしたね」
「ええ、リボンも素敵」
「お嬢様が仕事の行く時に使って下さればと思って」
「ありがとう。大切に使うわ」
そして後は父の帰りを待つばかりになった。
「ただいまアリス」
父が帰って来た。みんなで出迎える。
「お帰りなさい。お父様、お客様も一緒です?」
「やあ、アリス。6年ぶりかな。卒業おめでとう。お祝いをすると聞いて一緒に来たんだが‥」
「えっ?あっ、ちょ!こ、国王陛下が我が家にですか?」
私はその場で硬直する。
ど、どうしてアインベック陛下がここに?彼の腕には私が父に注文したフリージアの花束ともう一種類、ガーベラやユリにカスミソウたくさんのオレンジ系の花のそれはもう大きな花束がある。
6年前に会った時、私は12歳くらい。初めて彼を見た時は脳に衝撃が走った。
私の初恋。
目の前にいるこの人は今もあの頃のまま、見目麗しく整った顔立ちにキラキラの金色の髪と琥珀色の瞳で私を魅了する。
確か騎士隊に入られてそれはもう令嬢から憧れの存在だったが鍛えられた身体は今も変わってないみたい。
はぁ、素敵。
あの頃アインベックに憧れた。でも、私の手に届くような人ではないと涙をのんだのは父が借金を背負ったころだっただろう。
確か前にあの頃はまだアインベックは王太子だった。
そもそもお母様は3人兄妹の一番末っ子で一番上のアリウスお兄様が国王陛下で二番目のお兄様アンリー様はダクセル公爵になられたけど結婚はされていない。
今は宰相としてお父様と一緒にアインベック陛下を支えている。
お母様は妹だからアインベックと私は従兄妹になるんだけど、王族を嫌う父のせいであまり親しい関係じゃないと思う。
アリウス国王陛下が落馬して亡くなられて後を継がれたのがアインベック国王陛下で、急な王位の交代で父は結局アインベックの側近として働いているんだけど。
でも、どうして陛下がうちに来るわけ?
それにしても陛下ったら前にもまして男の色気が増したんじゃ?
彼は今や少女の頃の憧れではなく目の前にいる好みの男性。
超現実的な恋愛対象者にしたいほどだけど、相手は国王陛下。私なんかが相手にされるはずがない。ただ、そんな淡い気持ちを妄想しただけ。
それに男はロイドで懲りたもの。




