25ガーデンパーティー1
王宮の中庭、いつもは見慣れているはずの場所が今日は全くの別世界になっている。
入り口には大きなアーチ型の花飾り。豪華絢爛に飾りつけされてそこをくぐれば噴水の前に三段上がった舞台が出来上がっていて、それを囲むように美しい曲線のテーブルやいすが並んでいる。
あちこちには花が飾られ周りの大きな木々にはリボンが飾り付けられ足元にはモザイクガラスで出来た美しいオブジェもある。
私とアインベック様は舞台の上に立ち今からガーデンパーティーの始まりの挨拶をするところ。
目の前にはまるで戦場かと思わせる光景が‥
いや、おられるのは品のある振る舞いにとても美しいドレスを纏った淑女や上品で強要のありそうな立派な紳士方ばかりだが、今の私から見ればそんな気分だと言う事だ。
「アリス、ああ、なんて美しいんだ。いいかい、心配ないから。みんなはジャガイモとでも思って。さあ」
アインベックはそう言うと私の手の甲を持ち上げ口づけを落とした。
「また、そんな事を言って‥アインベック様、何も今日婚約発表しなくても‥私、こんなの耐えられませんよ」
「いや、帝国の飢えた猛獣が君を狙ってるんだ。それに俺はもう君を一秒だって離してやれない」
私のドレスは時間がないのでと言いつつもオートクチュールの一点もののドレス。色は淡いゴールド。美しいマーメイドラインでホルターネックで背中はかなり空いていて全身には小さな宝石が散りばめられてある。
サイズを急いで手直ししたとは思えないほど身体にフィットして一歩、歩くたびにキラキラと宝石が眩く光る。
オレンジパールの髪は柔らかなシニヨンに結って髪にはフリージアの花が添えられている。
そして薬指には王家に引き継がれて来た王妃がつけると言うダイアモンドやサファイアやエメラルドなどがはめ込まれた指輪が。
合図のように彼が私の手をぎゅっと握った。
私は壇上の上でゆっくり息を吐くと一歩を踏み出した。
昨日から思いもやらない事が立て続けに起きているのに今夜の帝国使節団の歓迎パーティーでアインベック陛下との婚約発表をする事になるとはだれが予想できただろう。
アインベックは午前中のうちに父に結婚の報告をすると高位貴族たちを呼び出し(まあ、今日のパーティーの為に貴族は王都に滞在していたので問題はなかったのだけど)
その場で私との婚約の公認を取り付けて昼食には私と共に食事をした。
私は、あの後簡単な食事を終えると、すぐに侍女たちからマッサージや全身の手入れをされて王室御用達のドレスショップからたくさんのドレスが運び込まれドレスを選び、ドレスが決まれば大急ぎで手直しにと大忙しの午前中だった。まだ手直しは残っているらしかったけど。
昼食の席でアインベック様が聞いた。
「アリス、体調はどうだ?疲れただろう。午後は少し休んでガーデンパーティーに備えてくれ。すまん。帝国使節団を招いてのパーティーだからな。実はアリスにキャディ公爵家からお見合いの話があったんだ。でも、君は婚約破棄したばかりで心神喪失だから無理だと断わったんだ。でも、いきなり俺との婚約を発表することにしたからな‥ハハハ。まあ、前から俺が口説いていたと知ったら文句もないだろう」
アインベック様は終始機嫌よく話をした。
「アインベック様、それって大丈夫なんです?」
「アリス、俺はこれでも国王だぞ。他国の使節団に文句を言われるわけがない!」
まあ、そこまで言うなら‥
「それよりお父様は?」
「ああ、結果報告をした。レスターは渋い顔をしたけどな。だってもうアリスとはこんな関係になったんだし今更取り消しは無理だろう?それとも気が変わった?」
いきなり彼は近づいて私の顎を持ち上げる。自身たっぷりだった琥珀の瞳が揺れて不安の色を纏う。
彼は一方的に気持ちを押し付けていないか不安なんだと思ってしまう。
私はくすっと笑って「ええ、そうかもしれませんよ。だって、朝からマッサージだ髪の手入れをって連れ回されて、今度はドレス選びだって散々着替えをして、もうくたくたなんです。それにこれでしょう?私には無理な気がして‥」
ガタン!
アインベックが驚いて椅子から立ちあがる。
「アリス。まさか俺と結婚したくないのか?いや、無理をさせた事はわかっている。でも、それは昨晩だけ‥いや、君を見たら俺は制御不能になるから‥また君をゆっくり休ませてやれないかもしれないし‥」
「もう、そんな意味では‥」
「じゃ、何が嫌なんだ?パーティーをこっそり抜け出すか?」
「陛下!そんな事出来る訳ありません。そんな事をすれば私が悪者にされます。陛下を誘惑して自堕落にさせたって!心配しなくても私はあなたが大好きなんですから、結婚できるのがうれしいんです。でも、こんなに忙しいのになれてなくって、ただ、それだけですから」
「ああ、アリスはもう俺のものだからな‥ちゅぅぅぅぅ~」
かぶりつくようなキスをされた。
「もっとしたいが唇が腫れるとまずいからな‥」
「おとうたま、じゅるいでちゅよ。ありしゅいたでしゅか。ぼくもごはんいちょにたべちゃかちゃにょに~」
「アンディ?もう、起きても大丈夫なの?」
私はアンディに走り寄る。思いっきり頬ずりして抱きしめる。
「違うよアンディ。アンディは病気だったでしょう?だから、一緒に食べる?」
「うん、たべちゃいでちゅ」
「アンディの食べれそうなものあるかな?」
テーブルの上にはかぼちゃのスープ、チキンとハーブ煮込み、サンドイッチや果物がある。
「スュープがありましゅね」
「スープなら飲める?じゃ、あ~んしよっか」
「よし、アンディ父様が抱っこしような。二人でアリスにあ~んしてもらおう」
こんな調子で楽しい昼食を取り、それから悪戦苦闘の末、今ガーデンパーティー特設の檀上に立っているわけで。




