2ここまでだったとは
そもそもロイドと出会ったのは父が借金負わされた時、彼の父、ヴァルト伯爵には借金の肩代わりを申し出てくれた時だった。
ロイドとは幼いころに王宮の記念式典や母が良く行っていた教会の集まりなどで何度か顔を合わせた事はあった。
しばらく見ないうちに彼は逞しく見目麗しい男に変貌を遂げていた。
私はロイドに見惚れていたと思う。彼も私を見初めてくれてのだと思った。
我が家は救われその時ロイドとの婚約も決まった。私は一目で彼に恋をした。
だって、今まで同じ年齢の男性と出会う事もなかったんだもの、当然じゃない?
だが、こんな女性にだらしない男だと知っていたら‥
今は悔やんでも悔やみ入れない。
おまけに私には貴族なら多少でもある魔力もないし。
「おい、アリス」
「はい、何でしょうか?」
「お前の家への資金援助を止める事にした。代わりにスーザンの家に援助をしてもらうよう父に頼むつもりだ」
「えっ?それはどういう事でしょう?」
脳内が混乱する。
「チッ!物分かりの悪い奴だな。婚約はなかった事にすると言ってるんだ!」
ぐさりと突き刺さったロイドの言葉の刃に倒れそうになる。
「あの‥スーザンの家に援助とは?イザベラ様は私の父と結婚してますし、スーザンは一応伯爵家の‥?」
「お前知らないのか?スーザンの母親はお前の父親と離縁するんだ。そしてスーザンが返上したルフナート子爵家を再興する。彼女はルフナート子爵の子供なんだから申し立ては受け入れられるはずだ!」
あなた頭おかしいんじゃ?一度返上した爵位をまた下さいって?王家だってばかじゃないんです。ちゃんとした準備を整えて見込みがあると判断されればそうかもしれませんが‥例えあなたのお父様が王家と故意にしているとしてもそんなの無理ですよ。
短絡的な考えで資金繰りも父親を当てにして、私との契約を一方的に破棄するような人間に例え親子だとしてもそんな無謀な事するとでも?
まあ、ねじの緩んだ頭ではその程度が精いっぱいなんでしょう。なんて思ったが口には出来るはずもない。
それにしてもここまでばかな男だったとは!!
こんな男に捨てられるくらいなら捨ててやる!
私の中で一気に彼への恋心が砕け散った。
今までこいつにどれほどの屈辱を味あわされて来たか。婚約をなかった事にするですって!
何よ!そこまで勝手だとは思わなかった。
そんな都合のいい事させるもんですか!
ここははっきりさせるべきだと破棄を主張すべきよね?恐る恐る尋ねる。
「ロイド様、それは婚約破棄という事ですよね?」
ロイドが顔を歪ませた。
「ばか、そこは婚約解消だろう。お互い丸く収める方が外分も悪くないだろう?アリスお前は魔力なしだし騒ぎを起こさない方がいいだろう?」
はっ?ふざけてます?魔力がない事が何の関係があるって言うのよ。そう思ってもやはり引け目を感じてしまう自分がいる。
私はジレンマに陥りるが、すでに我慢の限界が来ていた。
ぎゅっと唇を噛みしめ思い切り嘲りの視線で二人をねめつけると頭の中が冷えて行く感じがした。
ずっと見下されて粗悪な圧愛を受けて来たこの男に何の遠慮があるって言うのよ。
私は自然と考えもなしに言葉を迸っていた。
「騒ぎを起こさない方がいいですか?ですがロイド様、私に落ち度はありませんよ。私は婚約者としてのガイドラインをきちんと守って来ました。ですがロイド様あなたはそうではなかったではありませんか!それなのに一方的に婚約をなかった事にすると仰ってるんでしょ?!ちょっとあんた、私に解消で丸め込もうってつもり?いい加減にしなさいよ!どこまで人を馬鹿にするつもり?それに一応まだスーザンは私の義理の妹。ったく!婚約者が妹を誘惑ですか?それとも、スーザンが貴方をたぶらかしたのか。まあ、どちらでもいいですけど。あきらかに二人とも不貞ですからね!」
途中からはとげとげしい言葉で攻撃していた。当り前だろう。
ロイドが私の剣幕にたじろぎ半歩下がる。顔色を悪くして「見ただろうスーザン。アリスはこんなひどい女なんだ。俺が今までこいつにひどい目に遭ったかわかってくれるよな?」
「ええ、ロイド様ぁ~、知ってますぅ?アリス様ってすごっく恐いんですよぉ~。家ではいつだって大声で怒鳴ってってぇ、私いつも隅で小さくなってるんですぅ~」
下から上に視線を向けて私を値踏みでもするような態度。
あなたがそれを言うの?何の手伝いもしないくせに食事には文句をつけてお皿だって片付けないじゃない!それに持っているものだってどうして私よりいいものなのよ!!
ブチブチと脳内で何かが切れる音が。
「あら、スーザン様当然でしょ。家族となった以上協力するのが当たり前。それなのにあなたといいイザベル様といい、はぁぁぁぁぁ~協力どころか浪費ばかり、ところであなたわかってるの?婚約破棄の原因はロイドとあなたの浮気。原因はあなたにもあると言う事。お父様とイザベラが離縁ならあなたにも慰謝料の支払いを請求するから覚悟しておいてよ!」
スーザンの顔が強張ったと思ったら開き直った。
「ちょっと待ちなさいよ。ロイド様は私とだけ付き合っていたわけではないじゃない。それはアリス、あなたも知ってるはず。責任を押し付けられても困るわ」
「あら、でもスーザン。あなたがロイドと婚約するわけでしょ?その責任は取ってもらうわよ。まあ、とにかく婚約はなかった事にと言う話だけは了解致しました。但し、責任はすべてロイド様にありますから、そこをお忘れなきよう。手続きは改めて父からヴァルト伯爵の方とさせていただきますので」
「いや、おい、待て!何が俺だけの責任だ。そんな言いがかり誰が信用するか!!」
ロイドが食って掛かる。まあ、スーザンの前だ。男が廃るってわけ?だよね。カッコつけなきゃね。
だったらなおの事、私だって容赦しないから。
「では、裁判に訴えますけど?私はあなたが私に行った行動を逐一記録に残してあります。それに学園でのあなたの行いも。出る所に出れば誰が悪いかすぐにわかると思いますが、私はこれでも穏便に事を終わらせるつもりでしたのに残念ですわ」
しまった!
ここで少し失敗したかと思った。せっかく婚約をなかった事にすると言っているのに、じれたら婚約を解消しないって言いだすかも‥
だが、私はロイドを睨みつけ強気の態度で踏みとどまった。
ロイドは焦ったらしい。しかめっ面のまま舌打ちをすると苛立ったような声で言う。
「わっ、わかった。アリス。この話は君の父上と俺の父と交えて話をするから」
「わかりました。まあ、どうせ時間の無駄です。ロイド様有責の婚約破棄は変えようがありませんので‥では、失礼します」
「アリス!お前。クッソ!」
ロイドが後ろで悪態をつくが私は気づかぬふりでその場を後にした。
そうだった。期待とは裏切られるものだったと思い出した。
母の死。借金。魔力。イザベラ、スーザン。
みんな私の期待を裏切って来た。




