17配膳係の手伝いの後
翌日アンディはすっかり元気になった。
医者からも口の中や手の発疹も治まって来ていてしっかり食べて休めばもう大丈夫だろうと診断された。
私は昼前には仕事に戻る事にした。
「ありしゅあねえたま。やでしゅ。いちょにいちゃい」アンディには泣きつかれたが。
「アンディごめんね。でも、お仕事行かなくちゃ。今度絵本を読んであげる。それに猫のクッキーも作りましょう」
「やくしょく?」
「うん、約束」
指切りして何とか納得してくれた。
去り際に瞳をウルウルさせて手を振るアンディが可愛すぎてと戻りしてぎゅっと抱きしめた。
「アンディはいい子。またすぐに会えるからね。行ってきます。ちゅっ」
柔らかな頬にキスをした。
「うん、あねえたま、だいしゅき」
あっ、これ心をえぐるやつ。もう、かわいぃぃぃぃぃ~!!
ある意味脳内がお花畑になりつつ仕事に戻った。
アインベック陛下はすでに仕事らしく顔を見ることはなかった。
警務局に戻るとミレイユさんに声をかけられた。
「アリスちょうど良かった。今日騎士隊の食堂の人手が足りなくて手伝いに行かなくちゃならないのよ。一緒に来てくれない」
「ええ、仕事なら何でもしますよ」
「すまない。急病で配膳係が休んだもんで」
配膳係の人がそう言いながら出来上がった料理を食堂の配膳台に持って行く。私達も一緒に手伝いながら説明を受ける。
騎士が配膳台の手前でメニューを決める。AとBの料理があって、今日のA料理は肉の煮込みシチューとサラダでB料理は魚のソテーとスープとサラダだ。
私とミレイユさんは配膳台で待ち構えていて肉の煮込みはミレイユが担当。私は魚のソテー担当。料理は後ろから次々に運ばれてくるので私達はそれを配膳台に並べて行く。サラダやスープは別の人がする。
騎士たちはそれをトレイに自分で取って行くというシステムらしい。
そして昼食の時間が来た。
一斉に騎士が溢れるほど現れる。一体どこにこんなにたくさんの騎士がいたんだって言うくらい。
「あれ?今日はいつものおばちゃんじゃないんだ。お嬢さんって今度警務局に入った新人だよな?なぁ、今度デートしない?」
「お前狡いぞ。なぁ、俺とデートしようよ。今度の休み一緒にどう?」
通りすがりにそんな声を掛けられる。ったく、女と見たら見境がない訳?これって誰でもいいって事よね?いくら騎士がもてるからってあんまりいい気にならないでよね。
内心そんな事を思いながらも、笑顔でそれを交わし、次々に料理を置いて行く。ミレイユさんは何度か経験があるのか手慣れた様子でそんな誘いを適当にあしらっている。
まあ、彼女は結婚してるし。
「今日は手伝いに回されたのか?大変だな。ご苦労さん。今夜一緒に帰ろうな」
ミレイユさんの夫のケビンさんだった。
「うん、わかった。ったく、この人達うるさすぎ。ケビン何とかしてよ!」
「だってよ。俺の妻なんだからな。みんないい加減にしろよ」
さすがケビンさん。そう言うとみんなが一斉に「恐ぇなぁケビン。かたい事言うなって。そっちの新人はフリーなんだろう?なぁ、今夜一緒にどうだ?」
「お前らいい加減にしろよ。彼女はそんなんじゃないんだよ。ほらほら早く飯食え~」
ケビンはあの時の女だって気づいたみたい。こっそり「失礼しました。何かあったらいつでも言って下さいサンバイン嬢」と言われた。
「そのことは内密にお願いします」内密って言ってもすぐにわかる事だろうけど。
「アリス!アリスじゃないか。どうしたんだ?こんな所で‥おい、お前らアリスになにか言ったんじゃないだろうな。彼女は俺の婚約者なんだからな」
現れたのはロイド。
はい?私はもうあなたの婚約者ではありませんが‥!!
「なぁ、アリス。俺は今度こそ反省した。本当に悪かったって思ってるんだ。だからもう一度俺と‥なぁ頼む。一度話がしたい。出来れば今夜会って」
「困ります。そんな気はありません。私は忙しいんです。Bセットの魚のソテーを乗せたら移動して下さい。はい、次の方どうぞ」
「なぁ、アリス。頼むから」ロイドはそう言ったが私は無視する。
仕方なく諦めたロイドはテーブルについて食事を始めた。
やっぱり、ここで会うかもって思ったのよね。ああ、いやだ。あいつ何で私にしつこく迫って来るのよ。スーザンとは別れたかもしれないけどもう婚約は破棄されたはずよ。いつまでつきまとうつもり?
次の相手を探せばいいじゃない。
やっとランチが終わり私とミレイユは解放されて警務局に戻った。私達はこれからランチタイムだ。
ミレイユと一緒にお弁当を持って中庭に行く。
早速ミレイユが尋ねた。
「アリス。ロイド・ヴァルト伯爵令息に声かけられたたわね。彼とはどうなったの?」
「どうって、完全に終わったわ。私は二度と彼と一緒になる気はないし、彼もそれをわかってるはずなのに」
「でもさっきの態度。わかってなさそうよ。どうもヴァルト伯爵に悪いうわさがあってあなたと婚約破棄になった事を伯爵がすごく怒ってるらしいわ。あなたは王族関係者。あなたとの結婚は王族と縁を繋げるチャンスだった。伯爵はあなたを利用して王家に助けてもらうつもりだったんじゃないかしら?だからロイドはあなたとの関係を修復してどうしても婚約を、ううん、結婚したいんじゃない?このままだとロイドは伯爵家方追い出される。当てにしていたスーザンも子爵位は返してもらえないみたいだし。ロイドにはもう後がないって事よ。だから、気を付けた方がいいわ」
「ええ、わかってる」
その日の夕方、私は仕事を終えて歩いて屋敷に戻っていた。
いきなり後ろからスーザンが近付いて来た。スーザンは数人の男と一緒だ。おまけにすぐそばに馬車まで。
「アリス。ちょっといいかしら?」
「悪いけどあなたに用はないわ」
何だか嫌な予感がしてスーザンから距離を取る。
「そんな事言わないでよ。ほら、そこのカフェでいいから」
「お断りします。私急いでるので!」
行く手を男に塞がれる。
「なんだお前?ちょっと話をするだけだ。いいから来い!」
二人の男に片方ずつ腕を掴まれてひきずられるように馬車に引き込まれる。
「たすけ‥」
口はすぐに男の大きな手でふさがれた。




