12猫型のクッキー(アリス・ケビン)
私はアルが待っているだろうと急いで屋敷に戻った。我が家は学園からも王宮からも近く歩いて帰れる距離だ。
『お嬢様、もうお帰りですか?」
「リゼ、ええ、今日は早く終わったから‥アルは?」
リゼは玄関周りの掃除をしていた。
「アル坊ちゃまはお昼寝されてます」
「そう、じゃ、私、クッキーでも作るから」
「まあ、それじゃみなさんが大喜びされますね。お嬢様のクッキーみんな大好きですから」
「ふふ‥」
中に入るとアーシャとアナもいたので一緒にクッキーを作ることにした。
クッキーの生地を色々な型抜きで抜いて行く。おうちや動物、花や星型、猫や犬型もある。
そういえばアンディ殿下の猫見つかったかな。そんな事を思い出しアーシャやアナにアンディ殿下に出会ったことを話す。
「お姉様、アンディ殿下って一人っ子なんでしょう?何だか寂しそう。だから猫を拾ったのかしら?」アーシャ。
「3歳で猫なんて、やっぱり寂しいのよ。だって、お父様は国王陛下なんでしゅう?お父様がいつも言ってるじゃない。国王は忙しいんだ。だからいつも遅くなってすまんって、ネッ、お姉様」アナ。
もう、ふたりともアンディ殿下に合った事もないのにお姉さんみたいじゃない。
「そうかもね。お母様はアンディ殿下がまだ赤ちゃんの時に亡くなったの。だからアンディ殿下は寂しいわよね」
「今度遊びに行ってあげようよ。国王陛下だって一緒に遊んでほしいって言ってたじゃない、ネッ、お姉様」
アーシャがばたばたと走って私に抱きつく。これはアーシャがいい事を思いついたって時のくせ。
「うん、今度のお休みに行こうよ。あっ、でもアンディ殿下の猫がもしみつからなかったら?きっとすごく泣いちゃうかも」アナまで。
「でも、騎士隊の人が探してくれるって言ってたからきっと大丈夫よ」
私は二人を安心させようとそう言う。
「でも、子猫って意外と怯えて奥の方に入りこんじゃうのよ。騎士隊の人だって見つけられないかも」
「そうよ。私達も探しに行かない?ねぇ、お姉様いいでしょう?まだ早いし少しの間だけ。ねぇ」
二人がこんな事を言うなんて‥
そこにアッサムが戻って来た。事情を聴いたアッサムも探しに行くと言い出してとうとう4人でさっきの路地裏に行ってみる事になった。
*~*~*
4人で路地裏に戻ると騎士たちが引き上げている所だった。
「あの‥あなた方はアンディ殿下の猫を探していた騎士様でしょうか?」
「あなたは‥ああ、先ほど殿下を助けて下さった。さっきは失礼しました。陛下のご親戚と気づかず申し訳ありませんでした」
そう言ったのはさっき一番最初に声をかけて来た騎士だった。
「いえ、それより猫は見つかりましたか?」
「いや、あちこち探したんですが見つからなくて、そろそろ引き上げる所でして」
「あの、私達も少し探してもいいでしょうか?いえ、弟や妹が心配して探したいと言うもので‥」
騎士がアッサムたちを見て納得する。
「では、私も残りましょう。もうじき薄暗くなりますので少しの間だけでしたら」
騎士は他の騎士に声をかけると他の騎士達は引き上げて行った。
「私はケビン・ロンオートと言います。あなたは確かアリス・サンバイン伯爵令嬢でしたか」
「はい、あの、ロンオート卿はもしかしてミレイユさんの旦那様では?」
「はい、ミレイユをご存知ですか?」
「実は私今季から警務局で働く事になって今日ミレイユさんに仕事を脚えてもらって‥まあ、あなたがミレイユさんの旦那様だなんて驚きです」
「いや、こちらこそ。ですが、あなたは仕事をされるなんて‥だって陛下の従兄妹になられるんでしょう?あっ、これは失礼な事を‥」
ケビンが意外だと言う顔で私達を見る。
「うちの父は王族だからって贅沢をして何もしないのが嫌いなんです。我が家はもっぱら出来る事は何でも自分でやりなさいって方針で、だから姉上も家庭の事もしますし仕事だってするんです。何かおかしい事でも?」
それに対してアッサムがはっきりと意見を言った。
凄いアッサム。さすが我が家の嫡男だ。
「いう、素晴らしい事です。そしてみなさん優しいんですね。アンディ殿下の為にこうやって子猫を探しに来られるなんて、さあ、もう一度探してみましょうか」
ケビン様は気を取り直して猫を探し始めた。
そうそう、こんな事してはいられない。ねこねこ。子猫ちゃ~ん出ておいでよぉ~。
あちこち探すがすでにどこかに逃げたのだろう。
近くのお店にもし見かけて保護したら知らせてもらいたいとお願いをして帰る異にした。
「ロンオート卿は王宮に戻られますか?」
「はい、戻ります。それに報告もしませんと。アンディ殿下が残念がられますが仕方がありません」
「良かった。では、これをアンディ殿下に。我が家で焼いたクッキーです。王族に持ち込みのお菓子などいけないんでしょうが、いえ、毒見をして頂いて構いませんので‥」
私は出がけに出来上がった猫や犬の形のクッキーを持ってきていた。本当は子猫をおびき出すためにって思ったのだがそこは内緒にしよう。
「くっ、かわいいですね。これは猫のクッキーですか・それに犬も、わかりました。必ずお届けしますので、ではみんな気を付けて帰って下さい」
「ありがとうございます。ロンオート卿もお疲れさまでした。では、失礼します」
私達はそこで別れて屋敷に帰った。
*~*~*
俺は王宮に戻り子猫が見つからなかったと報告をした。
案の定‥
アンディ殿下は子猫が見つからなかったと知らせを聞いてひどく癇癪を起された。
「申し訳ありません。アンディ殿下」
「やくしょくしたでちゅよぉ~うわぁぁぁぁ~ん」
「アンディきっと子猫は誰かが見つけてどこかのお家でミルクでも貰ってるんだ。だからアンディ心配しなくていい」
困ったようにアインベック陛下がアンディを抱き上げられる。
「ぐちゅん‥みりゅくもらちぇるでちゅ?」
涙をいっぱいに溜められた瞳で国王を見上げる殿下に俺の心はずきりと痛んだ。そうだ。アリス嬢から預かったクッキーがあった。
「陛下、これはアリス嬢が作られたクッキーだそうで、アンディ殿下にと預かりました」
俺はびくびく物でクッキーを差し出した。
陛下の目が鋭く光る。
「お前、アリスといつ会った?」
ヒェッ!
「ち、違います。俺たちは子猫が見つからず引き上げる所にアリス嬢と彼女の弟や妹が探しに来られて‥アンディ殿下ががっかりされるんじゃないかってこれを預かったんです」
「アリスが探しに来てくれたのか‥アリスは優しいからな‥それにクッキーまで焼いて‥おまけに猫の形じゃないか‥あいつ」
陛下の鋭かった目がふっと緩んで愛しそうにクッキーを手に取られた。
陛下はアリス嬢を好きなのか?いや、彼女は親戚のお嬢様だから‥唇が緩みそうになるのを必死でこらえる。
「うわぁッ、アンディこれを見ろ。ほら、アリスがお前にってどうだ?これで少しは悲しくなくなるんじゃないか。ほら見ろ!」
陛下は毒見も忘れてクッキーをアンディ殿下に差し出す。
「ありしゅ?おねえたまでちゅか?」
「ああ、アリスって言うんだ」
「ありしゅ!」
殿下は泣き止んで笑顔になった。
いや、そのまま食べられては‥俺は慌てて毒見をと申し出る。
「陛下。毒見がまだです」
「ああ、毒見な」
そう言うと陛下がそのクッキーを一欠片かじった。
「あっ!陛下。それは‥」
「アリスが作ったものだ。そんな心配があるか!ほら、何ともない。アンディ」
そう言うと陛下はアンディ殿下にクッキーを差し出した。
「あねえたま?ちゅくったでちゅか?うふっ、ねこでちゅね。とうたま、みみかじちゃでしゅね。いちゃいちゃいでちゅよ。ふふふふふ。ぼくも‥かぷっ!おいちいでちゅ!!」
アンディ殿下はアリスが作ったクッキーを見て子猫の事をすっかり忘れて大喜びでクッキーにかぶりついたのだった。
陛下はその様子をいとおしそうに見つけていた。
ふわりと緩んだ陛下の穏やかな顔なんて初めて見たな。
アリス嬢の心遣いに胸を撃たれたのは言うまでもなかっただろう。そんな事を思いながら‥‥




