1いつかはと
私アリス・サンバイン伯爵令嬢は王立学園の3年生。もうすぐ卒業をまじかに控えている。
「アリス、話がある」
「これはロイド様。そう言えばもうすぐ卒業ですね。卒業すればいよいよ私達の結婚式ですから‥」
私たちがいるのは学園の中庭。うっかり期待を口にした事に顔をしかめた。
今は昼休みで皆昼食を終えて自由時間で周りには割とたくさんの人が行き来している。
私は道路から少しに中ほどに入るようにロイドに目配せする。これで少しは一目につきにくくはなった。けど。気が重い。
久しぶりに見る婚約者の顔。彼の隣にはいつものようにスーザン・ルフナート子爵令嬢がいる。相変らずスーザンはピンクブロンドの髪をわざとらしく指にくるりと巻きつけて少し垂れ目のブラウン色の瞳を少し上向きにしてロイドを見つめている。
スーザンったらあんなドレスどこで手に入れたんだろう?ふわふわのレースがたくさんついたピンク色のドレス。
まあ、そんな事どうでもいいか。
胸に沸き上がる思いにすぐに蓋をする。
スーザンは信じられないかもしれないけど彼女は3年前に父と再婚した没落した子爵家の義理母イザベラの子供だ。ちなみにスーザンは正確には元ルフナート子爵の令嬢だが。
そもそも父が再婚なんて思ってもいなかった。
私は反対したわ。でも、一番下の弟の出産の後に母が亡くなり頼みの乳母だったマトが身体を壊して乳母をやめる事になった父は焦っていたんだと思う。だって子供の世話を誰がするのかって。うん、わかる。そんな不安が再婚を決意させたのは。
要するに父はアル(一番下の弟)の世話が出来る女なら誰でもよかったのだろう。
悪いことにイザベラは子供をひとり育てたと言う経験があった。
”アリスさん、あなたが学園が始まるんですもの。安心してアルの事は任せてね。”って。
まったくのうそだったわ。
おまけにスーザンは私と同じ年で15歳の女の子と母親が一緒に暮らしてくれれば家の事も何とかなると思ったらしい。
実際、父は仕事で忙しく義理母のイザベラは最初は父に構って欲しいとぐずぐず言っていた。それにイザベラは子供たちの世話はほとんどしなかったので父は仕事で疲れ帰れば子供たちの事で忙しくイザベラの相手をする暇はなかった。
”伯爵家のくせに侍女もいないなんて!!と怒っていた。
どうしたかって言うと再婚してすぐに友人の借金を肩代わりしていたのだがその友人が姿をくらまして父が友人の借金を背負う羽目になったからだ。
父もこんな予定ではなかったと思っただろうがすでに結婚してしまった。イザベラには我慢してもらうしかないと話をしていた。
“私はあなたが伯爵だから結婚したのよ。人の借金をどうしてあなたが払わなきゃならないわけ?もう!せっかく贅沢できるとおもったのに!!!”
”それは申し訳なかった。離縁はいつでもする。出て行ってくれて構わない。”
確か父はそう言った。けど、イザベラは伯爵夫人の肩書を手放すのが嫌だったみたい。
いまだに我が家にいて、家の事は何もせず茶会や買い物に出かけている。
イザベラ様、父はあなたに子供たちの世話をしてもらうために結婚したんですけどって言いたいけどそんな事は口が裂けても言えるはずがない。
だって、私は意外と臆病だから。
そして連れ子のスーザンは学園で伯爵令嬢のように振る舞い見目が良くて高爵位の男を見つけてはすり寄っている。
で、何でロイドな訳?
あの人侯爵家だけど次男だから後は継がないのに。
ああ、私に対する嫌がらせ?それしかないと思っている。
彼女はロイドの腕に自分の腕を絡ませて甘えるような視線で彼を見つめている。
そんなスーザンを嬉しそうな顔で見つめ返すロイド。
私は心の中で盛大なため息をつく。
ロイド、どうして?あなたは私の婚約者なのに?スーザン仮にもあなた私の義理の妹なのよ。たった数か月だけど。こんな事してお父様が許すとでも?
いやいや、私がバカだった。ロイド様を本気で好きになって、彼も私と同じ気持ちだと思っていた。でも、違った。ってとっくに気づいていたくせに言えないままだった。
これでも私は学園には特待生として入学をした。そう言えば聞こえはいいが我が伯爵家は借金で困窮しているからだって口が裂けたって言えない。
私を筆頭に弟二人、双子の妹がいて母はすでに亡くなっている。父は伯爵と言っても王宮貴族で領地を持たない宮廷貴族だ。
父は元は隣国のヴェストル帝国の第5王子だった。父の母親は身分の低い人で早くから父は上の兄達からいじめられたらしい。それもあって学園はアフラシュタイン国に留学する事に。そして偶然、学園で出会った王の妹だった母アリソンと恋に落ち伯爵位を得た人だ。
ほんとは侯爵とかに慣れたけど、父は目立つ事はしたくなかったようだ。なので王族と言っても我が家にそんな雰囲気はまったくなかった。
私はちらりとふたりを見る。お互い見つめ合い甘い雰囲気がだだ洩れだ。
まあ、今に始まった事ではないが。
思えばこの3年、婚約者とは名ばかりの扱い。彼はあちこちで色々な令嬢との噂をまき散らし、ううん、噂ではなく実際に好き放題にやって来た。
そして今はこのスーザンがロイドの‥
ロイドの視線は相変わらず隣のスーザンに向けられたままだ。
どうやらスーザンは私にいじめられているとロイドに話しているらしい。まあ、そんな話を信じると言う時点でもうすでに私たちは終わっているのだろう。
わかっている。でも、いつかはって諦めれなかった。




