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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第二章「使徒」
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第七十ニ話「減らない悪夢」

ーー生命


開始から、三十秒。


広場はすでに原型を失っていた。


四方八方から伸びる植物が、まるで巨大な生物の触手のようにうねり、都市の景観を呑み込んでいく。


天音は、その中心で光を振るっていた。


「――ッ!」


天之が、横薙ぎに閃く。


白光が軌跡を描いた瞬間、空間ごと裂かれたように植物群が分断される。切断面は炭化し、再生を許さない純粋な断絶。


だが。


斬った端から、次が生える。


石畳の割れ目から、建物の壁面から、空中に漂う胞子からさえ――生命は増殖していた。


「数が……!」


天音は着地と同時に、背後から迫った蔦を反転斬撃で叩き落とす。だが、その反動で体勢がわずかに崩れる。


その隙を、見逃さない。


上空から、槍状の根が降り注いだ。


「天音、右上三時方向!」


零の声が飛ぶ。


同時に、空間が鈍く軋んだ。


――アリスモス・クリオス。


天音の頭上、半径一メートルの領域が演算停止する。降下していた根が、時間ごと凍結したかのように空中で静止した。


「助かる!」


天音は踏み込み、停止領域を一閃で切り裂く。凍り付いた植物が、粉砕されたガラスのように崩れ落ちた。


零は膝をわずかに沈め、呼吸を整える。


演算領域は、すでにフル稼働だった。


(増殖速度……想定以上。生命活動の起点が単一じゃない)


視界に流れる情報を、数式へ落とし込む。光の線が無数に走り、植物の伸長角度、再生周期、密度変化が逐一更新されていく。


(核がない……? いや、違う)


零は、アピロゾイオスへ視線を向けた。


男は、ほとんど動いていない。


ただ立っているだけ。


それなのに――戦場全体が、彼の延長のように脈打っていた。


「天音!」


零が叫ぶ。


「斬る優先順位変える! 地面じゃなく、空中発生源から落として!」


「了解!」


開始から、一分。


天音は跳躍する。


空中で体を捻り、天之を縦に振り下ろす。光が柱となって走り、上空に漂っていた微細な胞子群をまとめて焼き払う。


その直後。


背後から、巨大な樹幹が横殴りに襲いかかった。


「――ッ!」


回避は間に合わない。


だが次の瞬間、足元に幾何学模様が展開する。


零の演算補助。


重心計算を強制補正され、天音の身体が不自然なほど滑らかに回転する。紙一重で樹幹を避け、その勢いをそのまま斬撃へ変換する。


「ナイス!」


「まだ分析途中! 油断しないで!」


開始から、二分。


アピロゾイオスが、初めて一歩だけ動いた。


それだけで、植物の動きが変わる。


密度が、跳ね上がる。


「……来るぞ」


天音の声が低くなる。


地面が波打つ。


次の瞬間、広場全体から無数の芽が同時に噴き出した。先ほどまでとは比較にならない量だった。


「増殖パターン更新! 操作系じゃない……環境支配型に近い!」


零は高速で演算を回す。額に汗が滲む。


(個体操作じゃない……生命圏そのものを展開してる)


「天音、三歩後退!」


「任せる!」


天音は即座に従う。


直後、零が停止領域を連続展開する。半径一メートルの静止空間が階段状に連なり、植物の突進を一瞬だけ鈍らせる。


その刹那。


天音が踏み込む。


「はああああッ!」


天之が連続で振るわれる。光の残像が幾重にも重なり、停止した植物群をまとめて切断していく。


開始から、三分。


天音の呼吸が荒くなる。


斬撃は通る。


確実に、押し返している。


だが。


減っている感覚が、ない。


「零……」


「分かってる」


零は唇を噛む。


(再生じゃない。これは……“補充”だ)


戦場の外縁部、そしてアピロゾイオス。


そこから、新しい生命が供給され続けている。まるで、この世界そのものが敵の器官になっているようだった。


開始から、四分。


アピロゾイオスが、静かに腕を上げた。


それだけで、地面が裂ける。


地中から、塔のような巨大植物が複数隆起した。


「デカすぎるだろ……!」


天音は舌打ちし、空へ跳ぶ。


巨塔の側面を蹴りながら駆け上がり、その頂点へ到達する。


「まとめて斬る!」


天之が収束する。


純白の刃が、巨大な円弧を描いた。


塔が――まとめて両断される。


崩壊。


だが、その残骸から、新たな枝が蠢き始める。


「再展開早すぎ……!」


開始から、五分。


零の視界に、ようやく“規則性”が浮かび始める。


(生命密度の上昇……アピロゾイオス中心に指数拡張)


零は息を呑む。


(時間が経つほど、戦場が完成していくタイプだ)


「天音!」


声が、わずかに焦る。


「長期戦はまずい!」


「今の相性と最悪じゃねぇか!?」


その瞬間。


天音の足元から、今までにない速度で蔦が噴き上がった。


「――!」


回避が、半拍遅れる。


脚に絡みつく。


次の瞬間、地面へ叩き落とされる。


石畳が砕け、衝撃が広場に響いた。


「天音!!」


零が叫ぶ。


だが、瓦礫の中から――光が走る。


蔦が、内側から断ち切られる。


天音が立ち上がる。


肩で息をしながら、それでも前を睨んでいた。


「……まだ六分経ってないだろ」


天之が、再び輝きを増す。


零は、その背中を見ながら、演算をさらに加速させる。


(あと少し……もう少しで解析ラインが繋がる)


戦場では、生命の波がさらに膨れ上がっていた。


六分経過。


ーー解析終了まで、残り十四分。

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