第六十九話「欲」
ーーあの後
話は、天音と零二人を送り出した直後へと戻る。
円柱状の空間は、再び静寂に包まれていた。天井は見えず、星盤がゆっくりと回転を続けている。星々の軌道が、まるでこの場そのものが宇宙の縮図であるかのように、淡い光を投げかけていた。
そこに立つのは――二人。
プロメテウスと、ノグティス。
互いに距離を取ったまま、言葉は無い。だが沈黙は気まずさではなく、長い時間を越えてきた者同士だけが共有する、重い理解に満ちていた。
やがて、先に口を開いたのはプロメテウスだった。
「……お前も、もう使徒でいいのだな」
静かな声だった。確認であり、宣告でもある声音。
ノグティスは、短剣を腰に提げたまま、わずかに視線を落とす。
そして、小さく――頷いた。
否定も、迷いも、そこには無かった。
プロメテウスはゆっくりと手を掲げる。
空間が歪み、星盤の上に一つの世界が映し出された。
見たこともない世界だった。
「お前には、この世界に行って、覇権をとってもらう」
淡々とした口調。
その言葉に、ノグティスの眉がわずかに動いた。
「……世界の破壊が目的じゃないのか」
問いは鋭いが、感情は薄い。ただ純粋な確認。
プロメテウスは、星盤を見つめたまま答える。
「違う」
その一言には、迷いがなかった。
「我は、できるだけ多くの世界を手に入れる」
星盤に映る世界が、次々と切り替わる。文明の形も、生物の姿も、法則すら異なる世界群。
「そして、他の管理者を下につける」
その声は、静かで、確固としていた。
「その上で――創造神様の後継者となる」
空間の光が、わずかに揺れる。
ノグティスは、その横顔を見た。
そこには狂気も、暴走も無い。ただ純粋な意思がある。
だからこそ。
ほんの僅か、目を細めた。
「……欲深いな」
短く、吐き出すように言う。
プロメテウスは否定しない。
ノグティスは続ける。
「まあ、それもそうか」
星盤に映る世界群を一瞥する。
「“人間”を創ったくらいだし」
その言葉に、ほんの一瞬だけ。
プロメテウスの瞳が、微かに揺れた。
だが、それ以上は何も言わない。
沈黙が落ちる。
ノグティスは踵を返すと、空間の端に現れた門へと歩き出した。白銀の扉はすでに開かれている。
足を止めることはない。
振り返ることもない。
そのまま、門の前に立つ。
そして――
一歩、踏み出す。
光が、ノグティスの姿を飲み込んでいく。
その瞬間。
誰にも聞こえないほど静かな、心の声が零れた。
(二人だけには、背負わせない)
決意は、刃のように静かだった。
光が閉じる。
円柱の空間には、再びプロメテウスだけが残された。
星盤は、何事も無かったかのように回転を続けていた。
また、天音と零視点に戻ります




