表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第二章「使徒」
70/78

第六十八話「技術」

ーー鍛冶屋


食べ終わった二人は、街の中心部から少し外れた区域へと足を運んでいた。


ネオンとホログラムが重なり合う大通りから外れるにつれ、空気の色が変わっていく。高層建造物の表面を走っていた光の広告は消え、代わりに無骨な金属壁と配線の露出した建物が増えていった。


だが、それでもこの世界特有の精密さは消えない。壁を流れる配線一本に至るまで整然と配置され、浮遊式の搬送ドローンが静かに資材を運搬している。遠くでは、自律型の整備機械が建物の外装を修復していた。


そんな景色の中で――


その建物だけが、明らかに異質だった。


木造。


煤けた外壁。


手打ちの鉄看板。


そこには簡素に「鍛冶屋」とだけ刻まれていた。


天音は足を止めた。


「……ここ、だよな」


零は静かに頷く。


「座標は一致してる。間違いない」


自動扉も、認証装置も無い。木製の引き戸に手をかけ、天音が横に引いた。


カラン、と小さな鈴が鳴る。


内部は、外観以上に時代を感じさせる空間だった。炉が中央に据えられ、壁には様々な工具が整然と並んでいる。だが、その炉の内部では、通常の炎ではあり得ない、幾何学的に歪んだ蒼白の熱が揺れていた。


そして――


作業台の奥。


一人の女性が椅子に座っていた。


年齢は二十代半ばほどに見える。長い黒髪を無造作に後ろで束ね、作業用の革エプロンを身に付けている。


その姿は、あまりにも自然で。


あまりにも――人間だった。


その瞬間、二人の脳裏にプロメテウスの言葉が蘇る。


『お前たち以外の使徒は、人の形をしている者もいるが――人間ではない』


女性が、ゆっくりと顔を上げる。


柔らかな微笑みが浮かんだ。


「初めまして」


声音も、呼吸も、視線の揺れも、完璧に人間のそれだった。


「私の名前はテニカ。プロメテウスの使徒の『技術』だ。よろしく」


天音は一瞬、言葉を失った。


胸の奥に、奇妙な違和感が生まれる。敵意でも警戒でもない。ただ、“理解できないほど自然”という感覚。


零は無意識に演算を走らせる。


視覚情報、熱分布、心拍、魔力波形――全てを解析する。


結果は、どれも“人間”。


だが。


「……違う」


零が小さく呟いた。


天音が横目で見る。


「分かるのか?」


「理屈じゃない。演算が、逆に証明してる。情報が綺麗すぎるんだ。ノイズが無い」


天音は改めてテニカを見つめた。


彼女は二人の反応を楽しむでもなく、困るでもなく、ただ静かに待っていた。


その落ち着きが、逆に人間離れしている。


天音は軽く息を吐いた。


「……天音だ」


「零です」


短く名乗る。


テニカは満足そうに頷いた。


「聞いてる。元人間の使徒、でしょ?。」


椅子から立ち上がると、彼女は炉の火力を調整しながら続ける。


「それで、状況確認よね」


作業台の上に、立体投影が展開された。世界を俯瞰するホログラム。その周囲を覆うように、巨大な透明の壁が浮かび上がる。


「今は、私の創ったアーティファクト――テイコス・ステレオンによって、この世界への侵入を防いでる」


零の目が細められる。


「防御結界……いや、もっと根源的だね」


「正解。これは空間層そのものを固定する装置。侵入座標を成立させない」


テニカは指先で空間を弾く。すると結界表面に、微細な亀裂のような波紋が映し出された。


「ただし――万能じゃない」


声色が、わずかに低くなる。


「外からの干渉は増えてる。解析も進んでる。破られるのは時間の問題」


沈黙が落ちた。


天音はホログラムを見つめたまま言う。


「どれくらい持つ?」


「正確な予測は不可能。でも、長くて数ヶ月。短ければ数週間」


零はすぐに質問を重ねる。


「侵入してくるのは、管理者直属の使徒?」


「そう。ほぼ確実にね」


テニカはそこで、二人の方を向き直った。


じっと観察するような視線。


「それにしても――」


小さく肩をすくめる。


「派遣されたのが元人間とは驚いた。でも、まあ」


穏やかに笑った。


「プロメテウス様の考えだから安心だ」


その言葉には、盲信とも違う、長年仕えてきた者特有の確信があった。


テニカは作業台の横にある金属椅子を二脚引き出す。


「座って。時間が惜しい」


天音と零は顔を見合わせ、静かに頷いた。


椅子に腰を下ろすと同時に、ホログラムの表示が切り替わる。都市の防衛ライン、侵入予測座標、未知の反応群。


「さて」


テニカが指先を組む。


「作戦会議を始めましょうか」


蒼白の炉の光が、三人の影を静かに揺らしていた。

プロメテウスのところは、テニカの他に三人使徒がいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ