第六十六話「天界」
ーー管理者
天界は、円柱状の空間だった。
床も壁も、どこまでも滑らかで、素材の判別がつかない。上を見上げても天井は存在せず、ただ淡い光が無限に続いているように錯覚させる。
その中心に、机らしきものが浮かんでいた。
机の上には、精緻な星盤が置かれている。無数の光点が回転し、絡み合い、時折ひとつが消えては、別の位置に現れる。その動きは規則的でありながら、どこか生き物じみていた。
天音と零が、その星盤の近くまで歩み寄った時――
エンドゥーが、静かに口を開いた。
「……我の本当の名は、プロメテウス」
二人の足が、同時に止まる。
「創造神様に創られた、最初の存在のうちの一人だ」
一拍。
「そして、世界の管理者」
一瞬、空気が凍りついたように感じた。
「……は?」
思わず、天音の口から素の声が漏れる。
零も、星盤から視線を外し、エンドゥーを見る。その表情は冷静を保とうとしていたが、瞳の奥に隠しきれない動揺が走っていた。
「管理者……」
それは、最初に会った時に言っていた言葉だった。
プロメテウスは、何も言わずに頷いた。
それだけで、二人の中にあった“常識”が、静かに崩れていく。
驚きが抜けきらないまま、プロメテウスは淡々と語り始めた。
「今、創造神様は後継者を選ぼうとしている」
星盤の光点が、わずかに激しく動く。
「十二の管理者の中から、次なる神を」
零は、無意識のうちに拳を握っていた。
「……争いが、起きているんだね」
「そうだ」
プロメテウスは否定しない。
「表向きは議論。しかし、裏では互いに世界を削り合っている」
星盤の中に、十二の光が灯る。
「争いに参加していない者もいる」
「だが、すでに失墜した管理者もいる」
その時、そのうちの二つが静かに消えた。
天音は、その情報を頭の中で整理しようとしたが、あまりにも規模が大きすぎて、処理が追いつかなかった。
世界。
管理者。
後継者争い。
――自分たちが、さっきまで命を賭けて守っていたものが、その中の一つに過ぎないという事実だけが、妙に重くのしかかる。
沈黙を破ったのは、零だった。
「……僕たちの役目は」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「あなたが、創造神の後継者になることを、手伝うこと……?」
プロメテウスは、その問いを真正面から受け止めた。
そして――頷いた。
同時に、指を一つ鳴らす。
空間が歪み、二人の前に映像が展開された。
そこにあったのは、一つの世界。
都市と自然が、異様なまでに調和している。高度な技術と、原初的な力が共存し、破綻することなく循環している光景だった。
「我の世界で、最も優れている場所だ」
プロメテウスの声は、どこか誇らしげだった。
「ここは、何度も狙われている」
映像の端に、歪みが走る。侵入を試みた痕跡――だが、その全てが、途中で断ち切られていた。
「今は、我の他の使徒が耐えてくれているが、いつまで持つかもわからない」
「ーーそして、他の管理者は、まだお前たちを知らない」
プロメテウスは、天音と零を見る。
「だからこそ、お前たちを送る」
「侵入者を、返り討ちにするために」
その言葉に、拒否も、選択肢もなかった。
そして――
映像が消え、天界の円柱空間が戻ってくる。
それが、今に至るまでの経緯だった。
第二章は情報量がとても多いので、少しずつ出していけたらなと思います!
それぞれの管理者に、使徒がいるので、楽しみにしててください!




