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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第六十三話「未来の自分」

――精神の中


光が、ゆっくりと形を持つ。


気がつくと。


天音と零は、並んで立っていた。


見慣れた床。

擦れた机。

午後の光が斜めに差し込む窓。


「……教室?」


天音が呟く。


零は周囲を見渡す。


「記憶空間だね。精神深層の再現領域…」


その瞬間。


背後から、声がした。


「相変わらず堅いな」


振り向く。


そこにいたのは――


制服姿の、天音と零だった。


二人とも、少しだけ幼い。

表情は、柔らかい。


人間だった頃の姿。


天音が、眉をひそめる。


「……さっきも会ったな」


人間の天音が肩を竦める。


「ほんと。自分が情けなくなる」


人間の零が、机に腰掛けながら言う。


「まあ、とりあえず確認だけ」


静かに、視線を向ける。


「使徒になる選択」


「本当に、後悔はないのか?」


教室に、静寂が落ちる。


天音は少しだけ考え――首を振った。


「……あれしか、道はなかった」


零も、迷いなく言う。


「最適解……だったよ」


「後悔は存在しない」


人間の天音が、盛大にため息をついた。


「はぁ……」


「ほんと、お前ら変わらねえな」


人間の零も、苦笑する。


「論理的すぎる」


人間の天音が、手を軽く振る。


その瞬間。


教室の空間が、揺れた。


景色が切り替わる。


転移する前の放課後の廊下、雨宿りした屋上。

怒られてるのに二人して笑ってしまって、さらに怒られた日。

そして、この世界。

焚き火を囲んだ夜。

九条、早乙女、カノンと過ごした日々。


どちらの自分たちも楽しそうだった。


音が、戻る。


笑い声が響く。


天音の指先が、微かに震える。


零の瞳が、わずかに揺れる。


人間の零が、静かに言った。


「笑うってさ」


「生きるってことなんだよ」


人間の天音が続ける。


「本当に生きたくない人間なんていない」


「……いてはならないんだよ」


映像が、ゆっくりと消えていく。


人間の天音が、まっすぐ天音を見る。


「お前、人間なんだからさ」


「もっと欲張れよ」


沈黙。


意識の天音が、低く言う。


「……じゃあ」


「別の方法があったのか?」


人間の零が、即答した。


「ない」


天音が目を見開く。


だが。


人間の零は、続ける。


「少なくとも――あの時はね」


「でも」


人間の天音が、笑う。


「今は違うだろ」


零が小さく眉を動かす。


人間の零が、軽く顎をしゃくる。


「天音は、もっと能天気でしょ?」


天音が、言葉を失う。


人間の天音が、教室の後ろを指差す。


そこには――扉があった。


「ここまで戻って来れたのは」


「ノグティスのおかげだ」


人間の零が立ち上がる。


「チャンスってのはな」


「そう簡単に来るモノじゃない」


静かに歩き出す。


扉の前で、振り返る。


そして。


意識の零へ視線を向ける。


「――演算の使い方」


「もったいねぇ」


その言葉が。


零の胸の奥に、落ちる。


数式が浮かぶ。


だが、それは冷たい計算ではない。


“選択肢”としての演算。


天音が、ゆっくり息を吐く。


「……欲張る、か」


零が、小さく頷く。


「……そうだね」


人間の天音が、にやりと笑う。


「それでいいんだよ」


「みんなも待ってるよ」


人間の零が、扉を開く。


眩しい光が差し込む。


「「行ってこい」」


天音が、一歩踏み出す。


零が、その隣に並ぶ。


背後で。


人間の二人が、同時に言った。


「――もう戻ってくんなよ」「ーーもう来ちゃダメだよ」


天音と零は、振り返らない。


そのまま。


光の中へ歩き出す。


教室の景色が、静かに崩れていく。


そして。


意識は、現実へと戻っていった。

次回で第一章終わりです

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