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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第六十二話「澱」

ーー現実の再定義


短剣が、空気を裂いた。


音は、小さい。


だが――

その一撃は、確実に届いていた。


天音が銀の軌跡を放つ。


「――天之」


視認できない銀矢が、一直線にノグティスへ走る。


だが。


ノグティスは半歩だけ身体を傾ける。


刃が振り抜かれる。


銀線が、逸れる。


そのまま。


ノグティスは踏み込んだ。


短剣が――天音の肩に触れる。


浅い。


だが。


ノグティスは、静かに呟いた。


「――空っぽなんかじゃない」


瞬間。


天音の視界に、ノイズが走った。


銀の世界に――

微かな色が混ざる。


一瞬だけ。


焚き火の光。


誰かの笑い声。


消える。


天音の表情は変わらない。


だが。


銀の軌道が、ほんのわずかにブレた。


零が即座に補正する。


「軌道修正――完了」


確率が再構築される。


「――天之」


再び放たれる銀矢。


今度は、三重。


逃げ場を潰す完全射線。


ノグティスは前へ出た。


短剣が回る。


刃先が銀線を撫でる。


衝撃が分散される。


そのまま。


零へ接近する。


瞬時にアリスモス・クリオスが展開された。


「侵入経路――封鎖」


空間が折り畳まれる。


しかし。


ノグティスは止まらない。


まるで、そこに道が存在するかのように踏み込む。


短剣が、零の胸元に触れる。


「――それは、ただの計算じゃない」


零の瞳が、揺れる。


刹那。


演算式の一部が、崩れた。


視界に、記憶が混ざる。


隣に立つ影。


「……仲間、だろ」


言葉が、耳の奥に響く。


零の呼吸が、一瞬だけ乱れた。


運命操作が、遅れる。


天音が、カバーに入る。


「――天之」


銀光が、ノグティスを切り裂く。


肩口が深く裂ける。


血が舞う。


だが。


ノグティスは、笑っていた。


「……いいよ」


短剣を構え直す。


「ちゃんと、残ってる」


戦闘は続く。


刃が交差するたび。


ノグティスは、ほんの僅かに言葉を重ねる。


「それは、命令じゃない」


「それは、役割じゃない」


「それは――お前が選んだ戦い方だ」


短剣が閃く。


天音の脇腹を浅く裂く。


その瞬間。


銀の世界に――


鮮やかな色が咲いた。


誰かが、笑っている。


天音の足が、半拍だけ止まる。


零の演算が、即座に修正する。


「停止補正――成功」


だが。


その補正は、完全ではなかった。


二人の動きに、

ほんの僅かな“ズレ”が生まれる。


――それは、感情だった。


遠くで。


九条が、拳を握る。


「……効いてる」


声が、震える。


早乙女が、息を飲む。


「……あれは攻撃じゃない」


「記憶を……起こしてる」


カノンは、両手を胸の前で組んでいた。


「……祈りに近い」


「無理やりじゃない……」


「戻る場所を、思い出させてる……」


戦場では。


銀と黒が、交錯する。


天音の矢が、加速する。


零の補助が、緻密さを増す。


だが同時に。


二人の攻撃は、どこか迷いを帯び始める。


ノグティスは、それを見逃さない。


短剣が閃く。


天音と零の間を、裂く。


「それでいい」


「その揺れが――」


「君たちだ」


天音が、僅かに眉を動かす。


零の演算式に、微細な誤差が生まれる。


ノグティスは距離を取った。


呼吸を整え、短剣を下ろす。


「ここまでだ」


天音が構え直す。


零の演算が収束する。


だが。


ノグティスは首を振った。


「もう十分だ」


静かに続ける。


「次は、外じゃない」


短剣の刃先を、二人へ向ける。


「内側だ」


その言葉と同時に。


天音の視界が、揺れる。


零の演算式が、崩れる。


世界が――暗転する。


遠くで。


九条が叫ぶ。


「天音!!」


早乙女が魔法陣を展開する。


「精神層に落ちてる……!」


カノンが祈りを重ねる。


「……二人とも……」


天音と零の視界から、光がゆっくりと沈んでいく。


そして。


ノグティスは、静かに呟いた。


「――さあ」


「自分を、取り戻すんだ」


戦場は、静寂に包まれた。


次に戦う場所は――

もう、ここではない。

ノグティスの能力についてです


アポファシス・カピタ

・「それは存在しない」と定義することで、対象を無効化する能力。

・現実を再定義する能力。

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