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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第五十八話「信じる者」

――目覚めと、信頼の位置


最初に戻ってきたのは、音だった。


剣が地面を削る音。

結界が軋む低い共鳴。

そして――必死に抑え込まれた、戦場の気配。


天音は、ゆっくりと瞼を開いた。


視界は、すぐには焦点を結ばない。

世界が、ほんの少し遅れて追いついてくる。


「……あ」


声を出そうとして、喉が掠れた。


その瞬間、影が視界に割り込む。


「起きた…」


零だった。


片膝をつき、こちらを見下ろしている。

いつも通りの表情。

けれど、わずかに肩の力が抜けるのが分かった。


「……どれくらい、寝てた」


「長くはないよ」


零は即答した。


「でも、十分だった」


天音は体を起こそうとして、止められる。


「まだ駄目だよ」


「今は――」


零の視線が、戦場の中央へ向く。


そこでは、九条が前に出ていた。

暴走を受け入れたその姿で、

アゴンの圧を真正面から引き受けている。


その背後で、早乙女が複数の魔法陣を同時展開し、

カノンが結界を幾重にも重ねていた。


「……みんな」


天音が呟く。


零は、短く頷いた。


「待ってた」


その一言は、重くなかった。

責める響きも、焦りもない。


「でも」


少し間を置いて、零は続ける。


「戻ってくるって、信じてた」


天音は、息を呑む。


零は視線を逸らさない。


「お前は、逃げる時は逃げる」


「でも」


「決める時は、必ず戻る」


それだけだった。


根拠も、理屈もない。

けれど、それで十分だと言うように。


「準備は?」


天音が問う。


零は立ち上がり、戦場全体を示す。


「進行率、七割」


「レテ・アンソロピノンの基礎構成は完成してる」


その言葉に、天音の胸がわずかに締まる。


「……危険じゃないのか」


零は、少しだけ眉を動かした。


「危険じゃない封印なんて、存在しないんだよ」


「ただ」


一瞬だけ、声が低くなる。


「今回は、特に分からない」


天音は理解する。


零も、もうこの魔法についての演算を終わらせているはずだ。


それでも、準備は進められている。


「止めなかったんだな」


天音の言葉に、零は即答しなかった。


代わりに、静かに言う。


「止める理由が、なかった」


「天音が戻らない可能性より」


「戻ってきて、選ぶ可能性の方が高かった」


その言葉に、天音は小さく笑った。


「……買われてるな」


「信じてるんだよ」


零は短く言う。


その瞬間、戦場が大きく揺れた。


アゴンの一撃を、九条が受け止める。

その体はもう覚悟のみで立たされていた。

結界が、悲鳴のような音を立てる。


「時間は?」


天音が問う。


「もう、長くはない」


零は、詠唱位置へと歩き出す。


「行ける?」


天音は、ゆっくりと立ち上がった。


体は重い。

だが、意識は――冴えていた。


「待たせたな」


天音は言う。


零は振り返らず、答える。


「大丈夫だよ」


「待つのは、想定内だった」


「信じるのも、ね」


二人は、並んで立つ。


封印のための座標が、足元に浮かび上がる。


ここから先は――

二人でしか、進めない。

佳境です。

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