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学徒、異世界転移す。  作者: Harun
第一章「始まりの物語」
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第五十六話「分かれ目」

――崩れゆく均衡


白銀の剣が、振り下ろされた。


衝撃は、斬撃というよりも――

世界そのものを叩き伏せる圧だった。


九条が正面から受け止める。


「――ッ!」


覚醒した肉体が悲鳴を上げる。

防いだ、はずだった。


だが次の瞬間、九条の足元の地面が砕け散り、

身体ごと後方へ弾き飛ばされる。


零がすぐ様指示を指す。


「カノン!」


カノンの結界が即座に展開され、衝撃を殺す。


だが、結界の表面に走る亀裂が、

この攻防が“限界に近い”ことを示していた。


アゴンは、歩く。


ただ歩くだけで、前線が押し潰されていく。


「……結界、維持できるのはあと三十秒」


カノンの声が、わずかに震えた。


「それ以上は――」


「足りる」


零は短く答える。


「詠唱開始まで、持てばいい」


天音は、既に詠唱準備に入っていた。

今まで、封印魔法の詠唱などしたことがない。


空間に浮かび上がる魔法陣。

複雑で、古く、そして“人の理”に寄り添いすぎた構造。


《レテ・アンソロピノン》。


その名を心の中で反芻するたび、

胸の奥が、わずかに軋む。


――気のせいだ。


天音は集中を深める。


次の瞬間、アゴンの剣が横薙ぎに振るわれた。


九条が再び前に出る。


「来い……!」


衝突。


今度は、受けきれなかった。


九条の身体が宙を舞い、

壁に叩きつけられる。


「九条、下がって!」


零が叫ぶ。


早乙女の魔法が割り込むが、

アゴンは、それを“見てから”斬った。


魔法が、霧散する。


「……時間がない」


零が歯を噛みしめる。


そのときだった。


天音の魔法陣が、わずかに揺らいだ。


「……っ」


視界が、歪む。


音が遠ざかる。


心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いた。


「天音?……天音!!」


零の声が、遠い。


魔力は足りている。

詠唱も、間違っていない。


なのに――

何かが、深く引き抜かれる感覚があった。


「大丈夫だ……続けられる」


そう言おうとして、

言葉が、喉で途切れた。


膝が、崩れる。


世界が、傾いた。


「天音!!」


零が駆け寄るが、その前に、

天音の意識は完全に落ちた。


魔法陣が、霧のように消える。


一瞬。


戦場の空気が、凍りついた。


アゴンは、剣を止めた。


「……なるほど」


静かな声。


「まだ、届かないか」


零は天音を抱き留め、

歯を食いしばる。


「――カノン、結界を最大にお願い」


「九条、まだ動ける?」


九条は、壁に手をつきながら立ち上がる。


「……死んでない」


「なら、続行だ」


零は、天音の額に触れた。


冷たい。


呼吸はある。

だが、呼びかけても、反応はない。


「……意識の奥に、沈んでる」


零は悟る。


このままでは、詠唱に戻れない。


だが、封印は止められない。


仲間たちは、それを理解していた。


誰も、撤退を口にしなかった。


――ここから先は、

天音が“戻れるかどうか”に、全てが懸かっている。

次回、初めての天音意識回です。

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