第五十三話「試練」
――倒せぬ者と、超える者
その存在を視認した瞬間、
誰もが同じ結論に辿り着いた。
――勝てない。
目の前に立つのは、魔王アゴン。
白銀の巨剣を地に突き立て、微動だにせず佇んでいる。
威圧はない。
殺気もない。
だが、それが逆に異常だった。
零の思考が、反射的に加速する。
確率、因果、未来分岐。
どの演算を回しても、導かれる答えは同じだった。
(撃破:成立しない)
(長期戦:不可能)
(消耗戦:こちらが先に壊れる)
――この存在は、戦闘という土俵にいない。
天音、動けずにいた。
本能が告げている。
これは「敵」ではない、と。
「……なあ、零」
低く、しかし確信を帯びた声で天音が言う。
「こいつ、倒す前提で置かれてないな」
零は、視線を外さずに答える。
「うん。多分――」
「世界の前提条件そのものだ」
九条が短く息を吐いた。
「冗談じゃない。
壁ってレベルじゃないぞ」
早乙女は無意識に魔力を練ろうとして、
すぐにやめた。
――意味がない。
触れただけで、削られる。
カノンが、震えを押し殺すように祈りの姿勢を取る。
「……試練、なんですね」
その言葉に、アゴンが初めて反応した。
「正しい」
低く、重い声。
感情はない。ただ、事実を告げる音。
「私は、倒されるために存在していない」
《アゴニスト》が、わずかに光を帯びる。
「私は“断つ者”だ」
「世界が選び、世界が捨てるための――裁定装置」
その言葉で、全員が理解した。
――アゴンは、悪ではない。
――正義でもない。
機構だ。
天音が一歩、前に出る。
「じゃあさ」
「俺たちは、どうすればいい?」
アゴンは即答した。
「超えろ」
「破壊ではない」
「否定でもない」
「私を終わらせろ」
空間が、静止したように感じられた。
零は、その言葉の意味を噛み締める。
(終わらせる、か)
(倒すんじゃない)
(――役割ごと、封じる)
零は、静かに仲間を見る。
「全員、覚悟はいいか」
「これは勝負じゃない」
「世界の想定外に踏み込むって話だ」
天音は笑った。
「いつも通りじゃん」
その笑顔の裏で、
彼自身が一番強く理解していた。
――この先で、何かを失う。
――取り返しのつかない何かを。
それでも。
誰一人、引かなかった。
アゴンは、ゆっくりと剣を引き抜く。
「では始めよう」
「最終試練を」
白銀の剣が、戦場を照らした。
僕が敷いてた伏線がようやく拾えそうです…




